第7話「勇者ターナカについて語るヒース王子」

 

 

■■人物評(プロトス王国第三王子 ヒース・プロトスによる)■■


 

 

 【勇者】は召喚時、大体、二〇歳前後の姿で現れる。

 

 これは身体・人格形成の観点から、「その人物がもっとも大きな『原石』となった瞬間」を【女神の遺志】が総合的に判断し、この世界に肉体構築するためと考えられている。

 

 勇者ターナカは二二歳という――現在確認されている勇者の中では、最高齢の時点での姿で召喚された。


 私が思うに、彼の場合は、体力面よりも精神面の成熟を重要視されたが故に、その年齢での召喚と相成ったのではないだろうか。

 

 我らがユーバ・プロトス王が、彼に【操奇】という珍妙な二つ名を与えたのは記憶に新しいが、たった一目でその本質を看破した王の慧眼には畏敬の念を禁じ得ない。

 

 胡乱な双眸で状況を冷ややかに眺めていることもあれば――周りの意思と裏腹に、果断に物事へ踏み切ることもある。

 

 当初こそ問題行動が散見されていたが、フェレライ大公のご息女が従者として仕えるようになって以降は、その風変わりな性質がよりよい方向に作用し始めたようだ。

 

 勇者ターナカの、時として賢哲のように遠謀で、時として頓痴気のように短慮な発想は、我らイディアニウム人の狭窄しきった視野にしばしば新しい光明をもたらしてくれた。

 

 【は、勇者ターナカが持つ稀有な才能の、最たる証明だったと云っていいだろう。

 

 彼がいなければ、私たちはあの無慈悲な山河に起こっていた異変を察知することはできなかっただろうし、みすみす一等騎士二十余名を河底に埋めて、狂獣の供物とするところであった。

 

 なにより特筆すべきは、単騎ながらも数十の水怪を相手取り一歩も引かなかった――あの大立ち回りだ。


 まさしくかの毅卒王が見れば、膝を打って続けざまに賞賛の言葉を口にしたほどのものだったと私は確信している。


 ……………………。

 

 …………と、畏まった物云いはこのあたりにしておくとして――グレン。

 

 かの奇人は我らが抱えるにも、一定の嗅覚を発揮しているようだ。

 

 貴方はユウ・ターナカをただの暗愚だと断じているようだが、くれぐれも足元を掬われないよう注意を払うといい。 

 

 王家の意向が彼の『』にとっての障害となった時、きっと我々は想像もしなかったような被害を受けることになるだろう。


 ま、そういうことだ。

 

 てなわけで、前々から勧奨していたことではあるけどよ、グレン兄ぃ。


 オレに根掘り葉掘り訊き出すよりも、さっさと当人に会いに行って――友達になってきちまったほうがずっと楽だと思わねーか?

 

 


▲▲~了~▲▲

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