第25話 月5

 「おい三浦、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


 開発グループのリーダーがサブの三浦に声をかけた。リーダーは仕事には厳しい男だった。


 普段は良く働く三浦が、毎月決まった時期に定時退社するのが不思議でならなかった。


 「毎月、ほとんど同じ日に定時退社してるけど、なんかあったのか? 親御さんの介護とか、なにか理由があるならオレに話せよ」


 「いやちょっと・・・・・」


 「急に休む訳でもないし、時間までは仕事してるんだから、オレがどうこう言う理由はないけどな」


 「はあ、すんません」


 「いや謝ることじゃねえけど、何かの事情があって、オレが力になれることがあればと思ってさ。それとも夜のバイトでもしてるのか?」


 「いやそんなことないッスよ。ただちょっと満月の夜には・・・・・」


 「なんだよ、それは。お前が早く帰るのと、満月となんか関係あるのか?」


 「いや、ちょっと話しにくいんですが、満月の夜は瘴気が強くて・・・・・」


 「ショウキ? なんだよそれは? それがなんか悪さでもすんのか?」


 「いや瘴気っていうのは、悪い空気とか穢れた空気のことなんです。その瘴気が強まると何か不吉な予感がするんです」


 「なんだよ不吉な予感がするって、どういう事なんだ。何でもいいからオレにぶっちゃけ話してみろ」


 「リーダーはご存じないと思いますが、ウチの家系は代々霊感が強いんです。祖母はお祓い師だし、母親も仕事としてやってはいませんが、悪霊祓いでは結構名が知れているんです」


 「悪霊祓い? お祓い師? お前の家族はみんなそうなのか?」


 「いや家族全員がじゃないですが、ただ霊感はみんな強いようです」


 「その霊感が満月の夜になると、ヤバイって反応するわけなのか? ちょっとすぐには信じられんな」


 「はあ、すんません。うまく口では言い表せなくて」


 それ以上は細かくは聞けなかった。霊感とか悪霊とかの話はよくわからないから。


 「内緒だけどね、出るんだよ」


 清掃のオバちゃんと給湯室でよく話をする、女子社員の話を思い出していた。


 当然、その女子社員から冗談半分で聞いたその話は、かなりバカげた話だった。満月になると、深夜に給湯室から足音が聞こえてくるというのだ。


 オバちゃんは17時には清掃の仕事を終えて帰宅するから、深夜に本人が見たりするはずなどない。


 我社が入っているこのフロアは、1年ほど空き状態であった。しかし実は別の会社がイベント利用として1ヶ月間の短期賃借を2度ばかりした際に、ある事件があったという。

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