第2話 だからこそ人は学んで賢くなる

この時期に転入生なんて来たら話題にもなる。

それが黒髪の美人の可愛い女の子ともなればもう暴動だって起きてもおかしくない。

休み時間ごとに野次馬と質問の数々で疲れ果てて死んでいた。


「あーいつまで続くのかなこんな生活」


「こっちのセリフだよ」


転校初日の放課後、僕は水穂とショッピングセンターのカフェで帰る体力がなく休憩中である。


「私と幼馴染だから友人が集まって来てただけですよね?明日には収まりますよ」


「違うよ、あれは俺と仲良くなれば水穂と仲良く出来ると思ってる連中だ。

ホントに人間が嫌いになる。」


「そこは素直に友達になりましょうでいいのに」


「違う違う、水穂と付き合いたいと思ってる人達って事だ、まあただの興味本位のやつもいたけど」


「私とですか?」


目をまるくして驚いた表情を浮かべる。


「そうだよ、可愛いし性格いいからまあそりゃみんな狙うよ」


「おだてて奢ってもらう作戦かもしれませんが、そうはいきませんよ」


「ばれたか」


「ふふーん、あなたのそうゆうのにはもう慣れました。噓を見抜けたご褒美に追加のケーキ買ってきますね」


先ほどの疲れはどこへやら、今はケーキ目当てにルンルンで歩いて行ってしまった。


「こうして素直になれないのが僕の高校生活を悪くしてる自覚はある」


スマホを取り出して漫画を見始めた。


「よう広世、さっそく幼馴染とデートか?」


いつもの聞きなれた飄々とした声だ。どすっと目の前席に座ったのが音と振動で分かった。


「よく分かったな、ようやく俺にも春が来たみたいだ」


休日に遊んだり、好きな子を語り合う中ではないが俺にだって学校で話し相手はいる。


「そうゆうの風に言う時は大抵噓言ってる時だな」


こいつは人づきあいが得意なタイプのはずなのによく俺に絡んでくる不思議な奴だ。


あと表の顔は爽やかイケメンでモテる。


前になんで俺にそんなに構うのか聞いたら同類だからと言っていたが、こいつと似てる部分が在るとすれば、目が二つに髪の毛があって、口がある所だろう。



「今日は学校で沢山の友達が出来たな、友人として嬉しいよ」


「それを本気で言ってるなら友人としての付き合いを見直す」


「親友に格上げかい?」


「クラスメイトに格下げだよ」


「相変わらず、面白いな」


あははと笑い声をあげる。


「嫌われたくないからこれ以上は詮索しないよ、友達は大切にしなきゃね」


「どの口が言ってるんだ」


「えっと、こんにちわ」


ガチャリと皿を置く音がする、水穂が横の席に座る。

スマホを置き、飲み途中のコーヒーに口をつける。


「こんにはわ水穂さん、僕は同じクラスの下沢 静矢 

広世の友達。これからよろしくね」


爽やかなスマイルでいつもの猫かぶりを始めた。


「えっとごめんなさい、まだ彼氏とかは早いかなって」


「ぶっ!」


思わずコーヒーを吹きこぼしかけた。


「なにかいらない事吹き込んだろ、いきなり振られたんだけど!」


ジト目で恨めしそうに睨んでくる。


全く動揺してなかったからてっきり冗談だと思われたと思ったが、ちゃんと分かって貰えてたらしい。


「誤解だよ、水穂こいつは元々こうゆう奴だから普通に友達になりたいだけだ」


顔を赤らめると勢い良く謝り、慌てふためく。


「すみません、とんでもない失礼を!」


「そうゆうつもりは無かったけど、いきなり振られちゃったのはちょっとショクだね」


「散々モテてるんだから一回くらい振られてもいいだろう」


「まあね」


やはり気にも留めてないと言ったかんじでおちゃらけた笑顔を浮かべる。


「こうゆう奴だから気にするな」


「部活とかは入らないって聞いてたけど本当かい?みんな残念がってたけど」


確かにそんな話題も聞こえてきていた気がする。


俺も昔サッカー部に入ってモテようかと思っていたが三日と持たず幽霊部員になった。

そもそもあそこは使っている言語が違うだろ、理屈じゃなくて感覚で会話してる。


そんな海外みたいな環境に夢を見たのが間違いだった。


「部活は面白そうなんだけど出来るだけ、いろんな経験をしてみてくて」


「うーん、それなら図書委員の仕事を一日やってみるかい?」


「え、いいんですか!」


「一人でやってるとめんどくさくなっちゃってね、こっちも大歓迎だよ。

もちろん広世もやるだろ?」


「なんで俺までやるんだよ」


働くのも嫌なのに、ましてやただ働きなど絶対にしたくない。

機械が発達すれば人間が働かなくてよくなるのはどれくらい先の話だろうか。


「そっちの方が楽しいじゃん」


「楽しくない」


「いいじゃないですか、やりましょうよ。心細いです」


「やらない」


「そんなんじゃお嫁に行けないんだからね」


「そのネタは前回やったし、しかも可愛い感じにウインクとかするな」


「これやると結構みんな面白がるだけどな」


それはお前だからだ、僕がやろうものなら二度と学校に行けなくなること間違いないなしだよ。


まあ、水穂には大きな恩があるらしいしここは折れるしかないだろう。


「分かったよ手伝う」


その後はしばらく三人でしばらくおしゃべりしてから店を出た。


「ちょっとあのお店見て来ます!」


そう言うと向かい側のクマのぬいぐるみや、アクセサリーの売ってる店に入って行ってしまった。


「いい人だね彼女。君の良さが分かってる」


「そうだろ、謙虚なところとか人望がある所とかイケメンな所とか」


「言ってて悲しくならないかいかい?」


「悲しくなったよ、ガチャ回せばこの中の一個くらいは手に入らないかな」


「天井があればいいね、まあそんな時は神様にお願いするのが一番。

奇跡の一つや二つ起こしてくれるはずさ」


一瞬ドキッと心臓が跳ね上がるが、何とか平静を装い言葉を考える。


「だいぶ高くつきそうだな、それは」


「顔見知りの相手なら、神様だって悪いようにはしないと思うよ」


ただの冗談だよな、会話の流れ的に。

こんな俺たち二人の関係を知ってる訳がない。


いつも道理の猫かぶりの笑みを浮かべる様子からはやはり分からない。


取り敢えず会話の内容をそらせないかと目線をさまよわせる水穂がストラップ片手にこっちに来いと手招きしていた。


「何か呼んでるな、行くか」


「二人のデートをこれ以上邪魔しちゃ悪いよ、じゃあね」


水穂に軽く手を振ると帰って行ってしまった。


「気のせいだよな」


気にしすぎだろう。乱れた心を落ち着けて彼女の元に向かった。


「これとか可愛くないですか?」


そうゆうとよく分からない生物の動物のストラップを差し出してくる。


「これがか?」


受け取ってよく眺めて見るがやっぱり何の生物か分からないし、可愛いとも思えなかった。


「可愛いよ、この大きなクリクリした目とか!」


「部分で見ればそうかもしれないけど、バランスがあってないと思う」


「そこがいいんだよ」


少しふてくされ様子でぷくっと口を膨らませる。


「せっかく昔みたいにお揃いのストラップつけようと思ったのに、前のはだいぶ痛んじゃったしさ」


一瞬なにか懐かしさがこみ上げる。


あと少しで思い出せそうなのにどうしてもぼんやりとする。

ここまで強く懐かしさを覚えたのなら絶対何かあったはずだ。


「お揃いのストラップを買ったのは、何か理由があったはずだよな」


部屋の引き出しにも昔から大事にしていたストラップがあったはずだ。


「正解、ずっとそれを忘れない為に二人で買ったんだよ」


うれしさと悲しさの混じった声でそうつぶやき、ハッとごまかすように立上りストラップを戻した。


「湿っぽくなちゃいましたね、今日のご飯買って帰りましょうか」


またいつもの笑みを浮かべる。

そんな彼女を見ると胸が痛い。

何か言わなきゃ、はずかしがるな。

彼女を、水穂を悲しませちゃダメだ。


「また会えた記念に買おうか、ストラップ」


きっと僕の顔は真っ赤だっただろう、恥ずかしくて水穂の顔は見ることは出来なかったけど。


「・・・そうですね、買いましょうか!」


嬉しそうなその声を聴けて良かったと思えた。




































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