EP32 縛りプレイと戦いを終えての休息

 攻撃を終えると、フレイは立ったままその場でシェイプシフターの姿が完全に消滅するのを見届けた。そして、精根尽き果てた様子でその場にサーベルを落とし、自身も床に倒れ伏した。


 それを見たアルデリアが、支えていたトールをぱっと振りほどいて、慌てて駆け寄る。


「ぐあっ! ア、アルデリア、俺を落として行くなよー……」


 完全に回復しきっていないトールが、したたかに腰を地面に打ちつけつつ文句を言う。


「大丈夫ですか、フレイさん! 『キュア』!!」


「ありがとう。大丈夫よ、アルデリア……」

 

 フレイは息も絶え絶えだったが、優しい笑みを浮かべて、アルデリアを見上げた。

 

「良かった……! それにしても、フレイさん、すっごく強かったのですわね!」


「……ああ、おそらく、それがクルセイダーの本当の強さなんだろう。それに、フレイ君のあの攻撃が白属性、だった、というのも大きい、かもね……」


 自身の銃による攻撃を浴びて、コートもボロボロになったレーゲンが、ゆっくり立ち上がってフレイとアルデリアのもとまでやってきた。


「ああっ、レーゲンさん、ごめんなさい! 回復するのをすっかり忘れてましたわ!」


「いや、僕は後回しで大丈夫さ。これから、自分でアイテムでも使って、回復するよ……」


 コートに付いた土やら埃やらをパタパタとはたき落としながらレーゲンが答える。


「クルセイダーは、献身的な守りだけじゃ無くて、聖なる加護を受けた剣士としても優秀なジョブだからね。それに、あの敵は見るからに黒属性、だから僕も白属性の銃撃を使ったんだけど……まさか跳ね返されるとは、予想外だったよ」


「じゃあ、レーゲンさんも、フレイさんが攻撃スキルを持っているって、わかっていたんですか!?」


「なんとなくね。先日の朝食の際、フレイ君は盾を使った攻撃スキルしか無いと言っていたけれど、何か隠しているのだろうと思っていたんだ。ずばり、だったね」


「ごめんなさい……。レーゲンの言うとおり、あの時、新しいスキルとして、『ホーリー・バッシュ』と『サウザンド・ピアース』を取得していたのよ。でも、私はエイペストと最後に闘ったあの戦闘のことがトラウマになって、みんなと闘うときにうまく攻撃ができないことを言い出せていなかった。それに、あの時にこのスキルがあれば、エイペストは死ななかったんじゃ無いかって、後悔をしてしまって……思わず嘘をついてしまったのよ」


「そうだったのですわね……。気にすることありませんわ、フレイさん。人に言えない過去の記憶は、きっと他の皆さんにもありますから」


 アルデリアは頷くように言った。

 

「それに、もう君はその過去のしがらみに打ち勝った。これからは、守りと攻めと、どちらも前衛で活躍できるさ」


「ええ、ありがとう、二人とも」


 少し傷の回復したフレイは、サーベルを拾い上げようとして、シェイプシフターが消滅した場所に小さく光るものが落ちているのに気がついた。


「これは……もしかして、盗まれた羅針盤かしら?」


 フレイがそれを拾い、アルデリアとレーゲンものぞき込む。


「この方角の書かれた背景と中心に置かれている針からして、羅針盤に間違いなさそうだね。やはり、このシェイプシフターが盗んでいたわけか」


「きっと、船員や、町民の誰かに化けて盗み出していたのでしょうね」


「そうね。それじゃあ、少し休んで体力を回復させてから、町長のところへ報告に行きましょう」


 三人は、各々の所持するアイテムを使ってHPとMPを回復させながら、強敵を倒した緊張から解放され、談笑し合っていた。



「そろそろ、俺も、回復してくれないかな……」


 

 床に伸びたまま、恨めしそうなトールの声は、盛り上がる三人の声にかき消されていった。

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