EP31 縛りプレイとフレイの戦い 4

 トールを介抱しながら、アルデリアもその可能性に気がついて、フレイに声をあげた。


「た、確かにそうですわ……! 私達だけ攻撃のスキルがあって、フレイさんだけ持ってないなんて、そんなこと無いはずです!」


「…………」

 

 フレイは、目を見開いたまま、眼下を見つめている。震えと同様で、フレイの顔を汗がしたたり落ちる。

 

「それにフレイ、そんな辛い出来事があっても、それでも冒険者を止めずに、俺達の旅に加わってくれたじゃないか! だから、お前だって、こんなところで負けるわけに、いかないだろっ!」


 トールの言葉は、あの日のエイペストの言葉と重なった。


 

 ――こんなところで、負けるわけにはいかない。


 

 フレイは、エイペストとの約束を思い出していた。そして、トールのその言葉を受けて、絶望に沈んでいたフレイの目は、輝きを取り戻し、目の前の敵を見据えた。

 

「トール、アルデリア、ありがとう……。わかったわ、あなた達の言うとおり、私も、自分の攻撃に、もう一度かけてみる……っ! 『シールド・チャージ』!!」


 フレイの構えている盾が詠唱に反応する。勢いを取り戻したフレイがその盾で攻撃を押しのけて、シェイプシフターの大剣を退けた。


「……! すごい、このボクを押し返す力がまだ残っていたなんて……」

 

「エイペスト……いえ、エイペストと私の感情をもてあそんだ、シェイプシフター! あんたは、私が許さないっ!!」


 フレイは盾を地面に振り捨てると、腰のサーベルを両手に持って、シェイプシフターに対峙した。


「……そうさ、それでいいよ、フレイ……まるであの時と同じだ! そして、あの絶望を、君は繰り返せば良いんだよっ!!」


 シェイプシフターは改めて大剣を構え直すと、フレイめがけて振り下ろす。


 ――ギィン!


 剣と剣がぶつかり合う硬質な音が響く。


 シェイプシフターは、大剣をまるで片手剣かのように軽々と振り回し、そのパワーをまともに受けないよう、フレイはサーベルでその攻撃をいなしながら打ち合いを続けた。


 ゆがんだ笑みを浮かべたまま、まるでその打ち合いを楽しむかのごとく、シェイプシフターは攻撃を繰り返す。


 フレイは猛攻をなんとか受け流しながら、相手の懐に打ち込む隙を狙っていた。


 それを感じ取ったシェイプシフターが、ひときわ大きな一撃をフレイに打ち下ろす。


「っ……!」


 受け流しきれないと判断したフレイが、バックステップで攻撃をかわす。


  

「はぁ、はぁ……隙が、ない……っ!!」

 

 シェイプシフターは、激しい攻防を終えて肩で息をするフレイに向かって、ニヤリと不気味な笑みを浮かべた。

 

「剣でも十分戦えたのは、褒めてあげるよ……でも、これ以上は、難しいかな? 君に剣技を打たせるような隙を、ボクは作りはしないからね……!」


 そして、フレイに届く距離までじりじりと近づくと、大剣を大きく振りかぶった。

 

 

 そのとき、白くまぶしい雷光が大きく空気を震わせながら、その大剣の切っ先を直撃した。


 

「な、なにぃぃぃ!!!」


 突然の衝撃に、シェイプシフターは思わず大剣を落とした。


 フレイも一瞬何が起きたのかわからなかったが、すぐに背後を振り返ると、トールを支えながら攻撃魔法を詠唱し終えたアルデリアの姿があった。


「隙を見せたのはあなたですわ、シェイプシフター! あなたの剣が避雷針になって、武器を構えるその手を狙い撃ちできましたわ!」


「アルデリア!」


 フレイは思いもよらぬ支援に、喜びの声をあげる。


「さあ、フレイさん、今ですわ! その剣技を、どうか見せてください!」


「ええ、わかったわ!」

 

 フレイは息を整え、サーベルを構え直す。


「く、くそっ、無駄だっ!! あの時と同じ屈辱を受けろ、フレイーーーっ!!!」

 

「うるさいっ! 私には、守るべき仲間と、それに、やるべきことが、あるのっ! だから、消えなさい……!! 私を惑わすあの日の記憶とともにっ! 『ホーリー・バッシュ』!!」


 フレイがスキルを発動すると、サーベルがまばゆいばかりの光を帯びた。そのまま、目の前で大剣を手にしようとするシェイプシフターの前に飛び込むと、サーベルを高速で十字の形に切った。


 サーベルの軌跡の通りに光の十字があらわれて、シェイプシフターの鎧を砕いた。そしてそのまま、敵の体の中へとめり込んでいく。


「……こ、これはぁ……!?」


 フレイの放った剣技がシェープシフターの体を引き裂きはじめ、力を失った敵の姿はエイペストのそれから、見にくい魔物へと変貌していった。

 

 十字の光の圧力に、シェイプシフターの体は押され、空中へとゆっくりと持ち上げられていく。それを見たフレイが、再度その手のサーベルを構えて、シェイプシフターの体を狙う。


「まだよっ! これで、とどめを……っ! 『サウザンド・ピアース』!!」


 今度はフレイ自身が赤い光に包まれ、そして目に見えない速度でサーベルをシェイプシフターの体へ何度も突き刺した。


 

「ぬがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 

 

 攻撃を受けた箇所からシェイプシフターの体は崩壊をはじめ、そして黒煙をあげながら灰のように細かくなり、最後は暗い神殿内の空気に塵となって消えていった。


「今度こそ、本当に、さようなら……エイペスト……」

 

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