EP28 縛りプレイとフレイの戦い


――ギィィーーーン

 

「っ……!? くうっ!」


 とっさに盾を前へ突き出して、男の攻撃を受け止めるフレイ。金属と金属がぶつかる鈍くも甲高い音が、しんとした神殿の中に響いた。


「ほう、やるじゃないか。やっぱり君は、そうやって守りに徹しているのがお似合いだ」


 剣士の男は、にやりとした表情を浮かべてフレイに語りかけた。


「フレイ、誰なんだ、こいつっ! 相手の名前も表示されないし、どうなってんんだ!?」


フレイは、大剣の圧力をなんとか盾で受け止めながら答える。

 

「この人は、エイペスト……私の、パートナー、よ……!」


「そんな! フレイさんのパートナーは、もういないって……」


「そうだぜ! こいつは、偽物なんだろっ!」


 トールは両手にナイフを構えて、フレイの脇から男の懐に飛び込んだ。


 すぐに男は、力任せに大剣でフレイを押し飛ばし、そのままトールに向かって大剣をなぎ払った。その勢いで強靱な風がトールを襲い、トールはそのまま部屋の壁まで吹き飛ばされた。


「ぐわっ……!!」


 なすすべ無く壁に衝突し、そのまま地面に落下するトール。


「いってぇー……。な、なんだよ、今の……」


「トールさんっ! ……きっと、相手もスキルを使ってきたんですわ!」


「ええ……エイペストは剣士だったから、剣士のスキルを、使っているわ……」


 なんとか盾を支えに起き上がったフレイが答える。


「だが、フレイ君のパートナーだったというエイペストという男が、本当に死亡しているのなら、このモンスターはその姿に化けているということだ。ならば、こいつの正体は……《シェイプシフター》かっ!」


 相手の正体を見抜いたレーゲンが、素早く両手に銃を構えて攻撃する。


 しかし、シェイプシフターは大剣を体の前に盾のように構え、銃撃をはじき返した。それを見たレーゲンが苦虫をかみつぶしたような顔を浮かべる。


「君のパートナー、こんなに強かったのかい?!」


「そんな、ここまで強くなんか、なかったわ……」


「なら、化けてる敵さん自体が高レベルのモンスターって、ことかっ!」


 レーゲンは再度銃を構え、詠唱を行った。


「『エンチャント・ヴァイス』!」


 両手に持った銃が光を帯びて、レーゲンの白いコートが風もないのにふわりと揺れはじめた。


「この数なら、さすがに防ぎきれないだろう! 『バレット・ストーム』!!」


 大量の弾丸が光をまとってシェイプシフターに飛来する。大剣を構え防御姿勢のシェイプシフターは、それを見てにやりと不気味な笑みを浮かべた。そして、素早く口元が動く。


「『リフレクション』」


 シェイプシフターの詠唱と共に、大剣から楕円形のバリアが出現し、シェイプシフターの体の前に盾のように展開すると、到達した弾丸が一度速度を失い止まった。そして、180度方向を変えると、到達した速度と同じように高速でレーゲンに発射された。


「くっ……!!」


 慌てて両手を出して防御姿勢をとるも、自身が発射した銃弾はレーゲンの体に当たり、爆発を続けた。弾丸のダメージをまともに受けて、レーゲンは膝をついて崩れ落ちた。


「まさか、こんな防御スキルまで持っているとは……」


「レーゲンさん、すぐに回復させますからっ! でも、まずは相手の動きを止めないとっ!!」


 アルデリアがロッドを構えて攻撃魔法の詠唱に入る。そのとき、トールからシェイプシフターが大剣を左手一本で持ち、右手を腰の辺りに当てているのが見えた。

 そして、何かを取り出すと、それはトールには小さい金属製のものであることがわかった。


「……! まずい、投げナイフかっ!」


 トールは痛みをこらえて立ち上がる。。


「アルデリア、あぶないっ! 『ファストムーブ』!! 間に合えーーーっ!!」


 トールはスキルを発動し、全速力でアルデリアに向かって飛び出した。


 同時に、シェイプシフターは投げナイフをアルデリアに向かって投げつけた。


 ――ザクリッ


 アルデリアは急に体が軽くなったかと思った瞬間、鋭く布を切り裂くような音を聞いた。その直後、地面に倒れ衝撃を覚えた。

 

「――え?」

 

 アルデリアが気づいたときには、トールがアルデリアを抱えて、元いた場所から離れたところへ押し倒していた。

 

「ちょっと、トールさんっ! なにをして――っ!!」


 アルデリアは、トールの背中側の肩に深く刺さったナイフを見て、言葉を失った。


「へへっ……間一髪、間に合ったみたい、だな……」


「トールさん、そんな、私を庇ったのですか!? 死んでしまうかもしれないのにっ!!」


「……投げナイフごときじゃ、死なないさ。でも、体が動かない、みたいだ……もしかしたら、麻痺毒でも、しこまれてたかな……」


 トールは力なく笑って、そのままずるりと床に倒れ込んだ。


「そ、そんな……!! 急いで、まずは傷を手当てしますからっ! フレイさん、その間、なんとか持ちこたえてくださいっ!!」


「ええ、私があなたたちを守るって、言ったものね……」


 フレイは盾を構え直すと、再びシェイプシフターと対峙した。


「ふふふ……そうだよ、フレイ……君は、そうやって、守っているだけでいい……」


 シェイプシフターは再び大剣を手に取り、フレイめがけて打ち付ける。


「そうでないと……また、ボクが死んでしまうからね……!!」


 激しい大剣の攻撃を、全身を使って盾で受けるフレイ。シェイプシフターの言葉に、さらに苦しげな表情を見せる。


「フレイ君、今戦えるのは君しかいない! なんとか相手の隙を突いて、攻撃を――」


「できないのよっ!!」

 

 かろうじて片膝立ちで戦況を見ていたレーゲンが声をかけるのを、フレイは遮り、悲痛な表情で叫ぶ。


「エイペストは、私がモンスターに攻撃なんかしたから、死んだのよ……! 攻撃の隙を突かれた、私を庇って……!!」


 フレイの脳裏には、エイペストとの最後の思い出――最後に闘った光景がフラッシュバックしていた。

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