ドアスコープ

初夏みどり

ドアスコープ

紫陽花の赤、青揺れてこんなにもなずきを見せていた人なのだ


別にもういいとも言えず傘の柄で重ねたままのぬくい手のひら


横顔は雨に裁たれてこちらからあちらの顔はよくわからない


寂しいと言ってしまえば楽なのに手首に垂れたいちごのアイス


触れられずドアスコープに目を当てた離れ難さはひんやりとして


階段の一つ一つが遠のいて離れる度に増えゆくしじま


手の中でどっちつかずの約束が震えたままで光りを消した


たましいが燃えていたのだ冷え切った浴槽にただずっと揺られて


水遣りと言うよりもはや乱暴に水を与える羨望の手で


ぷっつりと通話は切れて手のひらに儚き糸が垂れ下がっている


この細い糸の向こうで揺れているのみどの骨を最期に見たい


指切りに意味があるならいいのにと洗いそびれた布団で眠る


体温の変わらぬ指はなめらかで遮光レースの対岸にいる


早朝の電車の中で耐え抜いた寄る辺などない心象の波


顔面に笑顔の膜を貼りましょう羨むことをやめられなくて


選ぶこと選ばれること放棄して薙ぎ倒したい焼き払いたい


果たせない約束ばかりが行き着いた海へ行こうか山を作ろう


もうすぐで消える花火の瞬きをただ見ていよう怖がらないで


さよならを言うまで繋ぐ手のひらに優しい免罪符をください


美しい人へと振った手のひらを鎖骨で結び知らぬ間に解く

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