第4話 一筋の希望


窓際の席から眺めるグラウンドは代わり映えのしない殺風景な砂漠

教室の中に目を向けるも君主を待つ下僕のような子供達が席に着いているだけ

あと何日いや何年、この景色を見続けないといけないのだろう


そんな僕の憂いをかき消すようにガラガラと扉の開く音がした

扉の向こうから冴えない顔の中年男が入ってきた

この人が僕達の担任羽山である

教壇に着くと生徒を見渡し羽山はため息をつく

これが羽山の朝の習慣だ

羽山には毎朝口にする定番のセリフがある

「おはようさん、出席とるぞ皆揃ってるか?」

耳にタコが出きるほど幾度となく聞いたセリフ

僕は心の中で一緒に呟く

(おはよ……)

心の中でいいかけたその時

「はい今日から転入生が来る 紹介するから着席して待ってなさい」

羽山からいつもと違うセリフが発せられた


僕を含めたクラス全員がザワつく

「入りなさい、皆にご挨拶して」

扉を開け羽山は廊下にいる誰かに声をかける

するとその声に導かれるように誰かが入ってきた

僕はその姿を目にした瞬間

代わり映えしない人生に光が差したような気がした

背中まで伸びたカラスの羽のような艶やかな黒髪

厚い前髪から見えるタレ目は大きく色っぽくも光のない虚ろな目

浅学な僕にはなんとも形容しがたい美しい少女が入ってきたのだ

教室中がどよめく

見知らぬ美少女を前に

嫉妬からか眉をひそめている者、我先にと声をかけたくてしかたない者

小さな教室に様々な感情が飛び交う

ふと椎名と財前に目をやると普段の威勢はどこへやら

顔を赤らめてじとっとした目で彼女を見つめている


「おい!自己紹介してもらうから静かにしなさい」

羽山がそう言うと、美しい少女が何者なのか早く教えろとばかりに静かになった

「月夜ユリコです 隣町から引っ越して来ました、よろしくお願いします」

ユリコは黒板にチョークで名前を書き深々と頭を下げた

名前まで美しいのか僕は綺麗な字で月夜ユリコと書かれた黒板を見つめた

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