13 一人の願いよりも、二人の願い

フェイシーは途方に暮れた。おばあちゃんは、フェイシーが何者であったとしても、受け入れてくれるだろう。ずっとこのまま、何も起こらないまま、平穏が続くことを願っている。でもフェイシーは、何かが起こることを願っている。

フェイシーは考えた結果、エマさんの家に行って相談してみることにした。

「もしかして、自分の願い事は叶えられないとか?」

エマさんは首を傾げながら、答える。

「そんな……他の人のことを知りたいと願った時はちゃんと——」

「もしかしたら、人間にとっての青い花なのかもしれないわね」

というエマさんの仮説を聞いて、フェイシーはショックを受けた。そんなことがあっていいのだろうか。自分は、誰かに利用されるためだけに生きている存在なのだろうか。もしそれが事実だとしても、受け入れ難いことのように思えた。

「ね、私が願ったらどうなるのかしら」

ふと思いついたようにエマは言った。それから、フェイシーを励ますようにニコッと笑って、

「やってみても損はないわよね」

フェイシーは頷いて、エマさんに青い花を手渡す。エマさんは受け取ると、楽しそうに微笑んだ。

「私もその魔女に会ってみたいわ。フェイシーちゃんの秘密、普通に気になるもの。これなら自信を持ってお願いできそう」

そう言ってエマさんは目を瞑る。人が何かを願ったり、想像したりするとき、目を閉じるのはどうしてだろう。まだ実現していない夢や未来は、目に見えないものだけれど、心の奥にあるものを感じようとするからなのだろうか。

青い花は枯れていく。フェイシーたちはキャッと喜びの声をあげた。

「うまくいったわね」

魔女に会える。フェイシーは少し緊張してきた。

 魔女にあったら聞きたいことはたくさんある。でも、魔女はフェイシーに何を言おうとするだろう。

突然、廊下からノシノシと歩く音が聞こえてきて、耳をそばだてると、部屋に入ってきたのはエマさんの夫だった。フェイシーはビクッと震えた。エマさんの夫はフェイシーを見ると、

「あ、どうも……」

と気弱そうに会釈した。その反応を、フェイシーは意外に思った。

それからエマさんに向かって、生活感のある質問をする。

「洗濯物、どこやった?」

「もう片付けたわ」

「そうか」

それだけを確認すると、またノシノシと去っていく。その後ろ姿が見えなくなってから、

「どう見ても魔女じゃなさそうね」

エマが小声で呟く。二人の口から笑い声が漏れた。

「旦那さん、元気になられたんですか」

「病気になって、考えることがあったみたい。私の話も前よりもちゃんと受け止めてくれて。まあ、全部じゃないけどね。本当、頭硬いわよねえ」

そんな話をしていても、なかなか魔女が来ない。フェイシーはソワソワした気分を抑えることができなくて、エマさんに尋ねた。

「本当に、願ったんですよね」

「願ったわよ。亭主じゃなくて」

ふふふ、とまた笑う。フェイシーもつられて笑ったけれども、さっきよりはあまり笑えなかった。魔女の来る前兆を見つけ出そうと思ったけれど、それが何かということは思いつかなかった。

「今日はもう日が傾きそうだし、また今度にしましょうか」

とエマが言う。フェイシーは頷いて、帰路に立った。妙な高揚感はまだ収まらなかった。

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