第28話 7月19日(月)

「まずは、今回の暴露事件から」

 そういえば我妻は、暴露犯を捕まえるために行動していたはずだ。

「我妻、暴露犯の情報はつかめたのか?」

「もちろん。犯人は花宮美由だ」

「え?」

 驚きの声を上げたのは、僕だけだった。

「理由は一つ。私たちに、『リコーダーペロペロ事件』の調査をやめさせること」

「そのために、我妻を標的にさせたのか?!」

 僕は我妻と花宮さんを交互に見る。

「ついでに、私と中田くんを離れさせ、ぐさりとやるようにね」

 ぐりぐりと我妻はナイフで刺す仕草をする。

「そんなことしちまったら、収拾がつかなくなるだろうけどな」

 呆れたようにため息を吐いたのは、小野だ。

 加納さんはショックで口元を覆う。

「そこはなにせ学園のアイドルさまさ。厄介ファンに襲われた正当防衛を主張するさ」

 死人に口なし、と我妻は嗤う。

「邪悪すぎるぜ」

 警戒を解かない乾は、いままでにないほど顔をしかめ、花宮さんを睨んだ。

 僕は居心地の悪さに目を伏せる。


「はははっ責めてやるな。中田くんが気の毒だ」

 我妻は湿った空気を乾いた笑い声でかき乱す。

「しようがない。今回の強行突破は、一昨日の転落事故が失敗したせいだ」

「そうだ。一昨日の件は事故だよ。だって、花宮さんは」

「何もやってない?」

 我妻は僕の反論を先取りする。

「わけがないだろう?睡眠薬を仕込んだのさ」

 僕は目を見開いた。

「睡眠薬入りのチョコレートを食べさせ、即座に階段を登らせ、事故を装った」

 桐乃の腕に力がこもる。あのとき、桐乃は倒れていた僕を見つけたんだった。しかも本屋に一人にさせていた。

「桐乃、ごめんね」

 ふるふる、と小さく首が横に振られた。

 その様子に、我妻は目を細める。

「誤算だったのは、その桐乃ちゃんがすぐ駆け付けたこと。加えて、私がすでに救急車を呼んでいたことも」

「あ、そうだ。助かったよ、我妻」

「よせやい」

 我妻は照れたふりをして決まり文句を言う。

「そしてあのときもう一つ誤算があるとすれば、中田くんに対して小野と加納からの人望が厚かったことだ」

「ジンボウ?」

 なれないワードに僕は一瞬意味が理解できなかった。

「やっぱお前、自己評価低いよな」

 そんな僕に、小野は呆れる。

「俺たちは、お前のことを心配してたんだぞ。だからあのときも、様子を見るために花宮と引きはがした」

 あのとき不自然に買い物に誘われたのは、そういう理由か。

「でも、すぐにまかれちゃったけど……」

 しゅん、と加納さんは落ち込んだ。

 確かにあのとき、花宮さんは加納さんと全く別の方向から現れた。てっきり、別行動していただけと思っていたが。

「僕そんなに見られてたんだ。なんかへんなの」

 加納さんは目を見合わせた。

「中田くんは、その、少し変な人だけど。妹さんのこととか、それでなくても、根が優しいところとか、ちゃんと人として大切なところができているから。自己評価、高くてもいいと思うな」

 加納さんの言葉に、うんうん、と小野もうなずいていた。

「変態紳士なとことかな」

 我妻が余計なことをくっつける。

「みんな」

 僕は今までかけてもらったことのない言葉に、心がいっぱいいっぱいになる。

「……でも財布を送るのは変な意味になるから、軽々しくやらない方がいいとおもうよ、小野くん」

「マジックテープ財布使ってるやつに言われたくねえ!」

 

「ふはははは。話はそれたが」

 我妻の笑い声が場を裂いた。

「一昨日睡眠薬を仕込んだのは、その前、リコーダーの毒、リコーダートラップが発動しなかったからだ」

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