第16話 7月15日(木)

「これじゃ自主退学も秒読みだろうね」

「なんだよこれ……」

 小野は絶句し言葉を失う。

 それは僕も乾も同じだ。

 

『加納江美の正体』

『パパ活常習犯』

『不良と関係を持つビッチ』


 目も当てられない噂が、学年グループLINEに流れている。

 なお、僕はグループの存在すら知らなかったが。

「もう加納さんの退部云々じゃないよ。こんなのかわいそうだ」

「ああ、俺のせいでこんなうわさが流れるなど……何とかしなければ……」

「でもなんとかって?」

「俺がこいつら殴って回ってやるさ!」

「それはやめてあげて」

 逆効果だろうし。

 しかしいい案も思いつかない。


「頭を悩ますか、愚かな子羊たちよ」

 そこに天啓のように声をかけたのは、我妻だった。

「見たらわかるだろ、我妻。なにかいい案があるのか?」

「ふっふっ、あるともさ」

「それなら早く!」

「まあまて」

 急かす小野に、しかし我妻は嗤う。

「私の案は最善ではない。次善、いいやそれ以下かもしれない。しかし、確実に加納江美を助けることはできる」

 我妻の忠告。

 だが、小野は関係なかった。

「なんでもいい。俺にできることならなんでもする」

「なんでもって、言ったな?」

 前のめりの小野に、我妻の笑みは深くなった。

 なんでもなんて言っちゃだめだよ。小野よ。

 僕は心の中で合掌する。もう我妻を止めることも、覚悟を決めた小野を止めることもできない。

「では小野宗也。君の名誉を借りよう。加納江美を救うために、君が犠牲になるのだ!」

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