百年の恋も冷めるすれ違い幼馴染の地獄堕ち ~もし僕が先に告白していたら、何かが変わっていたのだろうか?~

相生蒼尉

01

 バッドエンド注意。

※辛く悲しい表現があります。苦手な人はブラウザバックを。

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 高校2年に進級して、2週間。

 6時間目カットの木曜日。


 放課後の校舎裏で。


 僕は、初めて違うクラスになってしまった幼馴染の睦月に。


「ずっと、わかってなかったけど、睦月のことが好きだって気がついたんだ。睦月、好きです。僕と、恋人として、付き合ってほしい」


 そう、告白した。


 ずっと近くにいたはずの睦月が、初めて違うクラスになったことで姿を見ない時間が増えて。

 大切な何かを毎日探すように、睦月の姿をつい探す自分に気づいて。

 そんな何とも言えない喪失感と、さみしさの中で。


 睦月が好きだという気持ちが、ずっと近くにいた幼馴染というだけでなく、これからもずっと一緒にいたい女の子なんだと。


 そんな思いを伝えるために。

 二人の関係を変えたいと思って。


 告白した。


 でも……。


「……ご、ごめん。誠治くん」

「えっ……」

「あ、あたし、つ、付き合ってる人が……」

「う、うそ? い、いつから……」

「こ、今週の月曜日、2年で同じクラスになった池崎くんに告白されて、それで……」

「げ、月曜って……」


 僕は、遅かった。


 高1まで、同じクラスで、ずっと近くで見ていて、睦月には付き合っている人なんていないと確信していたのに。


 高2になってたった1週間で、恋人ができたなんて。


「そ、そうか。そうなんだ……」

「う、うん。ご、ごめんなさい」

「いや、睦月のせいじゃないよ。僕が、自分の気持ちに気づくのが、遅かったんだから……」


 月曜日と木曜日。

 たった3日の差で。


 僕は大切な幼馴染の隣を失っていた。


 池崎くんが校門で待ってるから、と歩いていく幼馴染の睦月が、二、三度、僕を振り返りながら去っていった後。


 僕は教室へ移動して、陽が沈むまで教室で何をするわけでもなく、ただ時間を潰して。


 それから家に帰った。


 母さんに話しかけられても生返事。

 妹に話しかけられても聞き流す。


 そのまま、自分の部屋にこもって、ぼうっと天井を見つめた。


 いつの間にか、寝て。

 目が覚めても起き上がる気になれず。


 金曜日は母さんに叱られながら、学校をさぼった。


 そのまま引き籠って。

 土曜日の夕方になって、お腹が大きな音を立てた。


「……どんな状況でも、お腹はすくのか」


 どれだけ精神的なショックを受けていても、お腹かすいて音を鳴らす自分の腹に苦笑した。


 キッチンの母さんに一声かけて、食事を温めてもらって。

 睦月にフラれたことを話しながら食べた。


 母さんはため息をついて、新しい恋を探しなさい、と言ったけど。

 そんな簡単なものでもなさそうだった。


 でも、気持ちを切り替えるきっかけとしては、いい言葉をもらえたと思う。






 日曜日。

 この日も1日中、家から出かけずに大人しく過ごす。


 頭の中ではいろいろと考えるけど。

 やっぱり、この失恋は自分の責任だと結論が出た。


 睦月への気持ちが断ち切れるかどうかはわからないけど。

 切り替えられるように前へ進もうと思えた。






 月曜日の朝。

 立ち直ったとは言い切れないけど、僕は学校へ向かう。


 でも、その途中、家の近くの公園の前で。

 なぜか睦月が立っていた。


 そして、まるで僕を待っていたかのように、僕を見つけてほほ笑んで。


「おはよう、誠治くん」


 あいさつをした。


「……どうしたの、睦月? なんで、ここに?」

「……誠治くんを、待ってたの」

「僕を……?」


 ドクン、と胸が高鳴る。


「あのね、誠治くん、あたしね……」

「う、うん」

「土曜日に、池崎くんとデートしたんだ」


 一気に、天空から地底へと突き落とされた気分になった。


「でも……」

「でも?」

「なんだか、池崎くんと話してても、ずっと、誠治くんのことばっかり気になって……」

「それって……」


 ……まさか。


「あたし、池崎くんに告白されて、オーケーしたけど、本当はずっと、誠治くんのことが好きだったの」

「む、睦月……」

「実際にデートしてみて、頭の中は誠治くんのことばっかりで……」

「う、うん」

「誠治くんに好きだって言われてから、なんかずっと、ふわふわしてるの」


 僕はごくり、と唾を飲み込んだ。


「ねえ、誠治くん」


 睦月が真っ赤な頬のままうつむいて。


「池崎くんとは別れるから、あたしと付き合ってくれる?」


 この3日間で何度も妄想して、そんなことはありえないだろうと思ったセリフを。

 睦月は言った。


 返答はたぶん、本当は一択なのかもしれない。イエス、だ。

 でも、僕は……。

 何かが自分の中ですとんと落ち着かなかった。


「……睦月、その、気持ちは、とても嬉しいんだけど」

「え?」

「池崎くんと別れるから付き合って、って言うのは、僕は違う、ダメだと思う」

「ど、どうして? まだ池崎くんとは手もつないでないし」

「そういうんじゃなくて」

「もちろんキスとかも、その先もしてない」

「そうじゃないんだって。聞いて、睦月。別れるから、じゃなくて、別れたから、なら、まだ、少し話はわかるよ。でも、別れるからっていうのは、池崎くんに失礼だと思う」

「そ、そんなことないと思う」

「そんなことあるよ。僕が池崎くんだったら、絶対にそんなことをされたくない」

「誠治くん……」

「……木曜日に、睦月を呼び出して、告白するのに、本当はすごく怖くて、恥ずかしくて、照れくさくて、どうしようもないくらい不安で、それでもありったけの勇気をふりしぼって。告白するって、すごいエネルギーが必要だった」

「う、うん……」

「僕はそれで、フラれちゃったわけだけど……それはともかく、池崎くんだって、そういう、すごい勇気で、睦月に告白したと思う」

「……」

「それに、睦月も僕が言いたいことがわかってるから、僕が睦月に告白した木曜日にすぐ、池崎くんと別れるって言えなかったんじゃないのかな?」

「それは……」

「そうなんだよね?」

「でも、あたしは、誠治くんが好き。好きなの……」

「僕も睦月が好きだったけど、僕らは、もう、すれ違ったんだよ、たぶん」


 僕は睦月の横を通り過ぎる。


「せ、誠治くん……」

「池崎くんを大事にして……」


 睦月はそのままそこに立ち止まって、動かなかった。






 それから、睦月はおかしくなった。


「ねえ、誠治くん、この子、澄香っていうんだけど、誠治くんのこと、いいなって思ってるんだって。付き合ってみたら?」


 僕に三代澄香さんという女の子を紹介して、付き合わせようとしてくる。

 もちろん、僕は三代さんに特別な思いはないのですぐに断った。


「誠治くん、明日の土曜日、池崎くんと澄香と、四人で水族館に行こうよ? ダブルデート、楽しいと思うんだ」

「いや、何度も言うけど、行かないから」

「駅で9時、北口に待ち合わせだから」

「行かないってば」


 そうやって、強引にダブルデートをしようとする。

 僕は待ち合わせに行かなかったし、スマホがどれだけ鳴っても返信しなかった。


 夕方、家に来た睦月が文句を言う。


「なんで待ち合わせに来なかったの、誠治くんっ! 澄香、泣いてたんだからっ!」

「いや、僕は関係ないだろ。行かないって言ったじゃないか」

「あたし、約束破ることになったんだよ?」

「そもそも、約束してないだろ」


 百年の恋も冷めていく。そういうものなのだろうか。


「……なんで、来てくれないのよ」

「最初から、三代さんのことは断ってるよな? 余計な事、しないでいいから」

「澄香と付き合ってよ!」

「なんで、僕が?」

「……あたしが、池崎くんと付き合ったから、誠治くんがあきらめるんなら、あたしも、誠治くんが澄香と付き合ったら、それであきらめられると思うから」

「……睦月が、僕をあきらめるために? そんなんで付き合ったとしても、三代さんにとって何かいいことがあると思う? 僕はそういうので誰かと付き合うとか、できないから」

「なんで……」


 睦月は泣いていた。


「なんで、こんなことに、なっちゃったの……?」

「知らないよ……」

「あたしは、誠治くんが、好き、なのに。ずっと、好き、だったのに……」

「なら、どうして……」


 僕はたぶん。

 これを言ってはいけなかったんだと、思う。


「……池崎くんの告白を、オーケーしたんだよ? 僕のことが好きだったのに? おかしいだろ?」

「それは、誠治くんが……先に、告白して、くれなかった、から……」

「僕が先に告白しなかったから悪い? じゃあ、なんで、睦月は、僕に先に告白してくれなかったんだよ? ずっと僕のことが好きだったんだろ?」

「それは、だって、恥ずかしくて……誠治くんにフラれたらって、思うと、どうしても、好きって言えなくて……」

「今は、何度も、好きだって言うのに? 今は、僕が先に好きだって言ったから、安心して、言いやすくなったから? ふざけんな!」

「せ、誠治くん……」

「睦月、勝手過ぎるよ……」


 僕は睦月を突き放して、家に入った。






 次の日の昼休み。

 僕の教室へ睦月が一人でやってきた。


 そして、教室にいた全員に、はっきりと聞こえるように。

 堂々と。


「池崎くんには、誠治くんが好きだからって、はっきり伝えて、別れました。誠治くん。好きです。あたしと付き合ってください」


 睦月は僕に告白した。


 そのすがすがしいくらいの、あっけらかんとした睦月に。

 僕は逆に、完全に睦月への気持ちが冷めた。


「睦月とは、付き合えない。ごめん」


 僕も。

 教室にいる全員に聞こえるように。


 はっきりと睦月の告白を断った。






 それからも、睦月は僕に対して、アピールをし続けた。


 まわりのみんなは、別に浮気とかじゃなくて、ちゃんと別れてるんだからいいじゃん、とか、あんなに一生懸命告白してんのにもったいない、とか。

 そんな感じで、意外と睦月に好意的だったけど。


 そんな睦月に対する悪意を増幅させている人たちも、いたんだ。






 僕の家の外に立つ睦月は、泣いていた。


「睦月……?」

「せ、いじ……くん……」

「泣いてるの? どうした?」

「ご、めん、なさい。あたし、せい、じ、くんに、はじめて、あげ、られ、ない……」

「睦月?」


 ……はじめて? あげられない?


「……何か、あったの? どうしたの?」

「せい、じ、くんと、つき、あえるよう、に、てつだって、くれるって……すみ、か、から、よび、だされ、て……」

「三代さん? 呼び出し?」

「そ、こに、いけ、さき、くんとか、その、とも、だち、とか……いっ、ぱい、いて……それで、おさえ、つけられて、あたし、あば、れたけ、ど、でも、おさえ、られて……すま、ほで、どう、がを……」


 僕は猛烈な怒りとともに、スマホですぐに110番を鳴らした。


 警察のあとは、睦月のところのおばさんにも連絡して、睦月を病院に連れていってもらって。


 僕はただの幼馴染だから、睦月のそばにはいられなかったけど、女性の警察官が睦月の話を聞いてくれて。


 もちろん、大騒ぎになった。


 池崎とか三代とか、関係した連中は、家庭裁判所送りで、ひょっとしたら、未成年だけど成人のように普通の裁判所へ送られるかもしれないということだった。もちろん、学校は退学になった。


 警察の動きが早く、動画が流出する前になんとか押さえられたことだけが救いだったのかもしれない。






 今、僕の家のリビングで。


 僕と、母さんと。

 睦月のおじさんとおばさんが、向かい合ってる。


「警察が言うには、通報が早くて、動画の拡散などの二次被害を防げたということだ」

「……」

「……誠治くんには感謝してる」

「……」

「あんなことになってしまったが、とにかく、なんというか、睦月は、妊娠だけはせずに、済んだよ」

「……」

「こんなことを言うのは、今さらかもしれないけれど、睦月は、誠治くん、君のことが好きだ」

「……」


 僕はまっすぐに睦月のおじさんを見つめ返す。


「……誠治くん。睦月を、もらってやって、くれないか?」

「……無理、ですよ」

「そう、か……」


 おじさんは、一度、目を閉じた。

 おばさんが、声もなく、涙をこぼした。

 母さんも、泣いていた。


 おじさんが、ゆっくりと目を開く。


「どうしても、無理、かな?」

「……はい」

「今回のこと、そりゃ、睦月にも、いろいろと悪いところがあったろうとは思うが……」

「それは違います、おじさん。睦月があんなひどい目に遭ったのは、全部、あいつらが悪い。そこに睦月の責任は、絶対にないって、僕は思います。あのことで睦月は悪くない。絶対に」

「なら……」

「……こんなことを言っても、わかってもらえないかもしれませんけど」


 僕はそこで、一度、息を吸う。


「……僕と睦月は、とっくにすれ違ってしまったんです」

「誠治くん……」

「睦月は僕が好きだった。でも、僕じゃない別の男と付き合った。僕が睦月に好きだと伝えた時には、睦月はもうそいつと付き合ってた。そして、僕は睦月にフラれた。そうやって僕らはすれ違ってしまったんです。もし、とか、こうしてたら、とか、そんな風に、時間を戻したりはできないんです」


 おじさんもいつの間にか、泣いていた。大人になっても泣くんだなと、そんなことを思った。


 僕は涙が出なかった。たぶん、睦月にフラれた時に、涙が枯れたんだろうと思う。






 睦月の家は、夜逃げするように、いつの間にか、空き家になった。





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