椿

@cha0so7

Ep.0 黒椿


私は突っ伏してしまった体をけだるけに起こす。記憶と視界がはっきりとしない。私は強めに目を擦る。視界が良好になっていく。そこで今が授業中なことに気づく。――どうやら授業中に寝てしまっていたらしい。


「おい!高嶋!ようやく起きたか」


教卓に立って授業をしていた教師が授業を中断させてまで私に声をかけてくる。クラス中の視線が私に向く。少し体がだるいが教師を無視する訳にはいかない。私は手短に返事をする。


「寝てしまっていたようです」

「いつものことですよ」


その言葉でクラスがどっと沸く。いつもの教室の風景だ。便乗して男子たちが茶化し始める。関わるのもめんどくさいのでそれを無視する


「すみません。次からは気をつけます」

「前に言いましたよね?次はないですよと。何回目ですか?」


教師が私を脅す。次はないだとかめんどくさい。どおだっていい。


「覚えていません」

「もういい。分かった。この授業が終わるまで廊下で立っておきなさい」


現代には似合わない古風な肉体的罰則を私に言い渡す。私は廊下に向かって当たりを見渡したりしながら歩き始める。私に向く視線には哀憐や嘲笑といった雰囲気が滲んでいた。


当たりを見渡していたところで一つに目が止まった。教室の窓側の一番前の角の席。誰だかは分からないが男子生徒。クラスの全員が私に視線を向ける中で1人だけ空を見上げていた。――その様子は全く私に興味がないようで。私はその男子生徒のことが無性に気になった。


「なにしているんです?」


その催促の言葉を受け私は廊下へと出る足が止まっていたことに気付く。私は素早く歩き出す。その男子生徒を調べることが出来ぬまま、私は教室のドアを閉め廊下へと出た。


「ドアと窓は開けておいてください」


教室からそんな声が飛び出す。私は閉めていたドアと窓を開けた。それから出来るだけ教室から距離をとった。


私は廊下に立つ。時間だけが過ぎていく。何となくだがこの感覚は好きだ。途中教室からチラホラと視線が見受けられる。だがそんなことはどおだっていい。時間だけが流れていく。


ふと目線が窓に止まった。私は空を見上げる。だけどもその男子生徒が見ていた『もの』は分からなかった。普通の空だ。


私は理解するのを諦めて。花壇がある。そこにはたくさんの花が咲いている。私には一輪の椿が目に止まった。その椿の周りには別の花が咲いている。そう一輪だけ。その椿の色は黒。


それを見て私は笑ってしまった。――私みたいで。クラスの癌である。あの椿も仲間外れにされた癌だ。理解なんてされない。されたくもない。あの椿は誰かに人為的に植えられている。私もまた人為的にだ。私がどうしたいかじゃない。他人が私をどうするかだ。私もあの椿も咲く場所は最初から決まっていた。それがただ


――それにしても綺麗な椿だ。枯れかけている。だけど儚くて綺麗。そういえば椿の花言葉は何だったか。


控えめな優雅さ。それと


――罪を犯す女。


ああ。全くもってその通りだ。本当に私と似ている。罪を犯す女。


私は考える。考える。考える。考える。考えて、考えた上で考える。



―――私はどうあるべきかと。


考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考えて、考えて、考えて、考える。


わからない。わからない。わからない。


わからない。わからない。


わからない。



―――私はあの時どうするべきだったかと。


罪を犯した女。最高に皮肉が効いてる。


私は考える。考える。考える。考えようとしたところでチャイムがなった。今は三時間目。今からお昼だ。教師がドアから出ていこうとする。ドアの付近に差し掛かったところで話し掛けられた。


「次は寝ないようにしなさい。最近の君は目に余る。」

「分かりました」


私は間髪入れず答える。話し掛けてほしくない。話し掛けたくもない。さっさと会話を終わらせたい。 


教師は伝えることだけ伝えるとすぐに何処かへと行った。良かった。何となくそう思った。


私は昼ご飯を食べるのを忘れ黒椿を見ることに没頭した。


この黒椿を見ていると何となくだが落ち着く。黒椿と私を重ねて自分を見ているようで。見つめ直せる。張り詰めていた空気や心が弛緩する。


ずっと見ていたい。そう思った瞬間。チャイムがなった。それと同時に私のお腹もいい音を鳴らす。空腹の状態で授業を受けるなんて冗談じゃない。だが仕方ない。お昼ご飯が買えるのは購買と食堂。どちらも昼までである。今日は空腹で乗り切ることにする。


なんてことを思っていたところで私のすぐ側の足元にビニール袋が置いてあった。私は中身をみる。そこにあったのはおにぎり二個と100円とラベルが張ってあるお茶だった。袋のそこにはメモが置いてあった。


『お昼ご飯食べてないだろうし』


ぶっきらぼうでそう書かれていた。お金を返そうにもレシート、それに差出人がかかれていない。謙虚だなぁ。と他人事のように思った。


それとおにぎりはいつも食べるものよりも美味しかったことをここに記しておく。




__________________________

あと5話~10話ほどで最終回です。

三日~五日で一話更新する予定です。


深夜テンションで書いた作品なので暖かい目で見て頂けると幸いです。

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