お兄ちゃん、〇〇が欲しい

無名乃(活動停止)

 

「ねぇ、お兄ちゃん。オトモダチになって」


 時々くる少年に“■■”は声をかけた。

 顔を真赤に染め、服も血しぶきで汚れ、見るからに怖い人だったが少年は無言を貫きながらも「そのやるよ。片付けるの面倒だから」とボソボソ呟きその場を立ち去る。


「ありがとう。じゃあ、貰うね」



          ※



 ソレがだとも知らずに……。



          ※



「ねぇ、お兄ちゃん。腕が欲しい」


 後日、少年がやってくると■■が言う。


「え、あぁ……じゃあ、そのガラクタあげるから片付けよろしく」


「うん、ありがとう。お兄ちゃん、しっかり片付けておくね」



          ※



 そんなやり取りが何回か続き、少年が“殺った”それで欲しい物を譲り、“■■”は貰ったうえ言われた通りに片付ける。


 二人の関係は“そんな”関係だった……。

 トモダチにしては不器用。

 少年にとっては好都合。

 もちろん、■■にとっても。

 だが、■■の要求が段々と強まる。



          ※



「お兄ちゃん、右足が欲しい」


「お兄ちゃん、左足が欲しい」


「お兄ちゃん、ぞうき? っていうの欲しい」


「お兄ちゃん、次はお肉」


「お兄ちゃん――」


「お兄ちゃん――――」




 まるで解体作業しているような気分になった少年は「ねぇ、トモダチってこんな感じじゃない気がするんだけど……」と血の付いたナイフを服で拭いながら死体を貪り喰う■■の隣に腰掛ける。


「じゃあ、おトモダチってドンナの?」


 ■■の言葉に少年は黙るや「殺るの無しで楽しく笑ったり、遊んだり、話したりするのがトモダチなんじゃない?」と曖昧な答え。

 実は少年には友達がいない。裏業界である家系の関係で人との縁を切り、親や兄弟に脅され欠陥品扱いされては依頼された仕事を一人でこなしていた。


「お話? ■■、よくわからない」


「だよね、俺もよく分からないや」


 少年はゆっくり立ち上がると「いくらさ。人間に戻りたくて死んだ体に肉付けようとしても無理だと思うよ。喰っても喰っても俺の目では君の姿変わってないし」と■■にナイフを向ける。

 少年の言葉に■■は目を丸くすると「なーんだ。分かってたんだ。エヘヘ」と人とは思えぬ速さで少年に飛び下がった。


 だが――「最後に俺の魂を喰らって……なんて思いたくなかったけど――当たってるよね」。


 少年は■■に向かって振り下ろすや「おい、誰と話してるんだ。さっさと始末しろ」と少し離れたところから声が聞こえ――「兄貴」と少年は血に濡れた二人の兄弟に話しかけるも「なんでもない」と静かに

 目の前にある死体の山に「なんかゴメンね、こっちの都合で。俺さ、君の名前も何も知らないから……でも、少し嬉しかったし楽しかった。ありがとう」と少年は近くに咲いてあった真っ赤に染まった花を手に取り、死体の山に添えると何もなかったように立ち去った。


「はぁ、変な友達はいらないから普通の友達欲しいな」


 ボソッと呟くと死体の山から微かに“また”声が聞こえた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お兄ちゃん、〇〇が欲しい 無名乃(活動停止) @yagen-h

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ