リバース・エンダー・ウィッチ!!

海中 昇

Reverse・ender・Witch!!

第1章 命が繋がる世界

第1話 井墨瀬ヒカリの最後の平穏

 チュンチュンッ。チュンチュンッ。


「ふわぁ〜。よく寝た〜。えと、今は……」


 新しい一日の始まり。カーテンの隙間から差し込む、暖かい光によりスッキリと目覚める。少女の名前は【井墨瀬いずみせ ひかり】。ヒカリは、頭のすぐ上に充電されている、スマホの画面を確認する。時間の下には、誰かからのメッセージが1件表示されていたが、とりあえず気にしないことにする。


「えと……8時半か……まだ寝るぇれ……。」


 と目を閉じた後、一旦冷静に考えてみる。


(今から着替えて準備して30分。そこから学校まで走って20分。学校の始まる時間は9時だから、後30分は寝れる…………ん?8時?)


 二度寝に行き着く前に、もう一度時計を確認する。


「え!?なんで!?目覚ましは!?」


 昨日の夜、確実に目覚ましをセットした、確かな記憶がある。が、今はそんな事どうでもいい。早く支度し、学校へ急がなければ!!


 ヒカリは制服に着替え、鞄の中身を確認する。


「学生証よし!!財布もよし!!スマホ、小物、その他諸々……多分よし!じゃ、GO!……と、の前に……。」


 少女は玄関を開ける前に、茶の間へと移動し、仏壇へと手を合わせる。


(お父さん、お母さん!今日も私、井墨瀬光は元気です!では、行ってきます!)


 2年前の不幸な事故により、この世から息を引き取った両親に朝の挨拶を終えると、玄関を勢いよく飛び出す。すると、玄関の前には、一人の少女が眠り痩けているのに気がつく。


 この娘の名前は【土井どい 珠萌たまも】。見ての通り、私の百倍以上にマイペースで行動が読めない、いわゆる不思議ちゃんってやつだ。そんな彼女とは、5年以上の付き合いがあり、親友でもある。


 ヒカリは、時間を確認した時にスルーした通知を思い出し、スマホを見てみる。


(まさかね……。)


 ――――――――

 たまも

【ピンポン押しても起きないから、かなりの熟睡と見た。だから私もここで寝る。家出る時起こして。】

 ――――――――


(やっぱり。なんで起こしてくれないかなぁ。この天然娘は。)


 一度、いつもの仕返しにと、あえて起こさずに学校へ急ごうと思ったが、仕方が無いので身体を揺さぶる。


「コラ〜。まもちゃ〜ん。起きなさ〜い。」


「うぅ……。後10……いや、30分……。むしろ明日まで……。せめて、学校が終わるまでぇ……。」


(明日までって、そんなんしたら風邪ひいちゃうでしょうが。)


 5分程起こそうとしても、ずっとこの様子なので、この娘専用の、魔法の言葉を使うことにした。


「ま……まもちゃん……。魔……魔女が……すぐそこに……。」


 これはこのスーパー不思議っ娘、たまもちゃん専用の魔法の言葉。どうやら子供の頃、魔女の映画にトラウマがあるらしく、これを使えばいかなる状況でも飛び起きる。迫真の演技で、震えた声で話すのがコツだ。


 すると、目の前にいた少女、タマモは一瞬で背後に移動し、身体を震えさせる。


(相変わらずお速いこと……。たまに見えないくらいの速さなんだよなぁ。これ。)


 すると、背後から声がかかる。


「ひかり……それやめてって言ってるじゃん……。」


「起こしても起きない、まもちゃんが悪い。」


「人の気持ちを弄ぶのはもっと悪い……。いや、そもそも寝坊するひかりが一番悪い。」


 確かに。それはそうである。明らかに1番悪いのは私だ。そう納得すると、苦笑いとともに、えへへ。と返す。


「それより!ほら!早く行かないと遅刻しちゃう!ほら!もうギリギリ!」


 そう、親友を急かす。しかし、この女はそうはいかない。無理なものは無理とキッパリ諦めるそんなタイプの人間だからだ。


「えぇ。もう遅刻だしいいじゃん。ゆっくり行こうよ。遅刻なんか1分しても10分しても怒られる量は変わらないのに……。」


「だぁめ!日本人ってのは、常に相手のために動く生き物なんだから。ほら!行くよ!!」


「えぇ。じゃ、私日本人辞める。」


「ったく、いいの?あんたが毎晩やってるゲームだって、好きな本だって、お寿司だって、作ったのは日本人よ?せっかく同じレベルにいるのに、自分からそれ放棄しちゃうんだぁ。」


「別に、そんくらいは……。」


「で?どうすんの?急ぐ?走る?」


「じゃあ……いそ……、じゃなくてはし……あれ?いや、それどっちも同じ。」


「じゃあ急ぐに決定で!!」


「しょうがない……。今日は付き合う。」


 こうして、私達は急いで学校へ向かうことにした。すれ違うサラリーマンやら小学生やらをギリギリで躱しながら、全力で学校へと向かう。すると、頭の中に、不思議な声が聞こえてくる。


(……………………)


 なるほど、この先は工事中で行き止まりですか……。ならこっちのルートの方早い!!


「まもちゃん!そこ右折するよ!この先工事中だって!!」


「また妖精さん?」


「その言い方やめてよ。恥ずかしい。」


「え……可愛いからいいじゃん。」


「可愛くない!可愛いけどッ!!」


 そう。実は私、幽霊的な物の声が聞こえるらしい。数年前、この不思議ちゃんと出会う少し前、私は闘病生活を送っていた。

 普段と同じく何気ない日常を送っていたが、ある日突然、謎の病に襲われ1年程、昏睡状態だった。それが原因なのか、そうでないのかは分からないが、私が目を覚ますと、この能力が身についていた。

 ちなみに、その時同じ病院に入院していたのが、このタマモちゃんであり、歳も同じだっため、すぐに仲良くなった。その後なんやかんやあり、今に至る。


「で?この後どうすんの?このまま行ったら行き止まりだよ?」


「それなら大丈夫!ほら、ここから昇って……」


「ひかり……。それ不法侵入では?」


「バレなきゃ大丈夫!それにここら辺の人、みんな知り合いみたいなもんだし!」


「ならいいけど……。」


 そして、2人は家の塀を上ると、学校への最短ルートを歩く。が、しかし……。


 ワンッワンッ!!


 学校までもう少しというところで、番犬の鳴き声が響き渡る。すると、その家の窓がガラッと勢いよく開く。


「またお前かっ!!このアグレッシブガール!!しかも今度は丁寧にお友達まで連れてきやがって!!この間落ちて怪我して懲りたんじゃないのかい!!」


「うわぁ……立花さんに見つかっちゃったかぁ……やばぁ。」


「アグレッ……シブ……ガール……。なんかカッコイイ。もしかして、私の事?」


(早速発揮してきたな?この不思議ちゃんめ……。)


「まもちゃん!それはいいから!早く逃げるよ!!」


「え……みんな知り合いなのでは?」


「何度も怒られてたら、そりゃ知り合いでしょ!」


「えぇ……。」


 と、ヒカリはさらにスピードをあげる。


「あ!コラーー!待ちなーーーー!!」


 その後しばらく走ると、塀の終わりが見える。これでやっと着いた!学校だ!スマホを見ると時間は9時55分。ギリギリセーフである。


「やったね!今日も遅刻せずに済んだ!」


「ハァッハアッ……。なんで朝からこんなに走らなきゃ行けないの……。」


「まぁいいじゃん!たまにはさ、こういうのも。」


「良くないよ……。ひかりの脳内の思考回路、大丈夫?短絡してない?ていうか……」


 珠萌は、息を整え話す。


「ひかりってさ……たまに私の事、不思議ちゃんって言うけど……。」


「言うけど何?」


 純粋無垢な目で珠萌を見つめてみる。


「いや、なんでもない……。呼ぶんだなって思っただけ。」


(呼ぶ?何をだろう。)


 そんなこんなでギリギリ登校時間に間に合った2人。急いで靴を履き替え、それぞれの教室へと向かっていく。タマモとは別クラスなので、途中で別れた後、ヒカリも席に着く。


(あーあ。今日も一日勉強が始まるのか……。毎日毎日同じ事の繰り返し。なんか、常識がひっくり返るような、面白いこと起きないかなぁ。)


 そんなことを考えていると、ヒカリが参加している同好会。【異常現象探索隊】のことを思い出す。


(そういえば今日、裏山に行くんだっけな……。夜も遅くなるだろうし、今のうちに睡眠補給を……。うん。イギリスのお国言葉なんて、習ってる場合じゃないよね。)


 …………………………………………


 ・

 ・

 ・

 ・


「あはははは!そんなこともあったよね!」


「ほんと!ほんと!あの時はびっくりしたよ!」


「ななな、なんですか!2人とも!そんなの私知らなかったんだけど!!」


「せ、先輩方!落ち着きましょうよ!!」


「待って。止めないで。私はこれを見てるだけで楽しいから。」


「も〜みなさ〜ん。」


 5人の少女達は、思い出話に浸りながら、しばらく笑い続ける。心の中にある思いを押し込み、無理やり笑い続ける。


「あはははははは!あはははは!はは、はは……。」


「はははは……はぁ。もう、時間ですね。」


「そうだねぇ……。ついに、来ちゃったね。」


「先輩……」


「誰が生き残っても、恨みっこはなし。みんなで最初に決めた。」


 そんな少女達を他所に、不思議な世界の終焉が始まる。そんな光景を横目に、少女たちはそれぞれの武器を構える。今から始まるのは、仲良し5人組の殺し合い。たったり1人の生き残りを賭けた殺し合い。互いが互いの事を思いながら、たった1人、罪を背負う為に戦う、そんな殺し合いが始まろうとしていた。


「じゃ、初めよっか!」


 その声とともに、5人は一斉に魔法を放つ。


 そして、これが最後。この場にたっているのはタマモとヒカリ。2人とも、立ってるのがやっとの状態だ。


 ハァッハァッハァッハァッ。


 ハァッハァッハァッハァッ。


 そして、その時は訪れる!


「ひかりーーーーッ!!」


「まもーーーーーッ!!」


 タマモの魔法が直撃すると、その時は訪れる。


 ジリリリリリリリリッ!!!


 …………………………………………


「ワァッ!!!」


 ヒカリは目覚め、勢いよく席を立つ。


(あれ?夢?何で私、涙なんか流してるんだろ……)


 カバンの中からは、携帯電話の目覚まし機能が作動していた。


「オイ井墨瀬。私の授業中に寝るとは、なかなかいい度胸してるじゃないか。それも、目覚ましまでかけて寝るなんて……。随分と用意周到だなぁ……。」


「い、いやぁ。これはかなり質の悪い偶然で……。」


 どうやら、昨日の目覚ましはしっかりとセッティングされており、正しく機能を果たしたようだ。昨日の私、本当に勘弁して欲しい。


「まぁ、いいや。ほれ。分かってるだろ?」


 そう言うと、英語の授業を担当している、残念美人未婚アラサー教師。【酒井さかい 祈里いのり】先生は手のひらをこっちに向け、何かを要求する。まぁ、そう。あれだ。この学校は、校内に居る間、スマートフォンの電源を切らないといけないという、クソみたいな学則があるのだ。全く、充電しただけで電源が入るケータイだってあるのに。本当にけしからん。


(う〜ん。スマホ出すのやだなぁ。)


 昼休みに隠れていじれないのは痛手すぎる。ご飯以外でなんのためにここに来ているのか教えて欲しい。というわけで、先生の手のひらには別のものを捧げておこう。そう思うと、財布の中から2000円札を取り出し、ポンッと置いてみる。しかし……。


バタッ。


「バカタレッ。」


「アイタッ。」


 先生の反応速度はとても早かった。私が手の上にお札を置いてから、それを机の上に叩き付け、私の頭に衝撃が走るまでに、1秒もかからなかった。


「いいからだしな。あんたのスマホ。それにどういうチョイスだよ。2000円札って。アホか。未だにどこで手に入れられんだよ。それ。」


 先生がそう言うと、一連の動作を見ていた他の生徒からは、称賛の声と大きな笑いが巻き起こる。


「ったく。いい授業妨害だよ。」


 ヒカリは諦め、嫌な顔をしながら渋々渡す。


「これでよし。じゃ、放課後アタシのところに取りに来な。じゃあみんな。静まれ。授業再開するよ。」


「「「「「はーい。」」」」」


(あ〜私のスマホォ……。)


 その後丸一日。1週間に5日、ほぼ毎週行われる(数週に一度例外あり)、興味が湧かないくだらない講義を、右耳から左耳へと受け流すという作業を行う。


(あーあ。早くおわないかなぁ。こんな日常。)


 そんなことを考えるうちに、体感にして約18時間、念願の放課後へと移行する。


「井墨瀬さん。ちょっといいかな?」


「悪ぃな。ちょっと聞きたいことがあって。」


 この人達は【姫島ひめじま 獅子華ししか】さんと、【南雲なぐも 秀人ひでと】さんだ。この2人、むちゃくちゃ仲良しのくせして、付き合ってないと来たもんだ。本人達は否定しているのだが、本当のところどうなんだか。とまあ、そんな2人だが、あまり友達のいない私に、積極的に構ってくれるいい人達だ。


「なんです?急用です?私、大事な大事なスマートフォン様を取り返しにいかないと行けないんですが。その後でも大丈夫?」


「あぁ、あれね……。まあ、明日でもいいから時間作って欲しいかな。」


「一応あれだ。忠告ってやつ?風の噂で君たちが、例の森でなんかしようと企んでるって聞いたもんでさ。」


(森……今夜のあれのことか?)


「まぁ、なんだ。最近物騒だし、近づかない方がいいよ。って伝えたかっただけだ。」


「あの森、私の知り合いがよく出入りしてるんだけど、最近大きなクマとか出るらしいんだよね。」


(なるほど。クマと来ましたか。それはそれで面白そう……。ちょと、怖いけど。)


「まぁ。はい。分かりました。明日、時間空けときますので何時でも家来てください。それじゃ。」


 ヒカリは2人に別れを告げると、職員室へ向かう。


 ・・・


「ほらよ。次からはこんな事にならないよう、十分と気をつけること。」


(なら、別に……)


「没収しなくていいじゃん。って顔してるな。」


(げ、この人エスパーかよ……。)


「あのなぁ、そういうの1人でも見逃したらそれこそ崩壊の始まりなんだよ。井墨瀬、あんた【窓割れ理論】って知ってるか?」


「まどわれ?」


「そう。建物の割れた窓をそのまま放置すると、その建物だけ、他の窓は割られ、落書きはされ放題っていう、とあるアメリカの学者の実験を元にした理論だ。」


(へぇ……そんな理論が。なんか面白そう。覚えとこ。)


「いつになく、いい顔してるじゃないか。そのやる気を授業中にして欲しいもんだがな。」


「へへ。そりゃどうもぉ〜。」


「まあ、なんだ。1人を甘やかすと、皆の気が緩む。そういうのを防ぐために、私も対応しなくちゃならない。別に没収したくて没収してる訳じゃないんだ。分かったか?」


(なるほど……この人もちゃんと考えて先生してるんだなぁ。)


「はーい。じゃあ、今度からは……。」


「目覚ましをちゃんと消します!」

「目覚ましをちゃんと消します!って言うと思ったよお前は。」


 まさかこの先生。タイミングまで読んで被せてくるとは……。


「はぁ……やっぱり、お前には何を言ってもダメか……。まぁ、寝るんだったら精々バレないようにすること。」


「善処しまーす。それでは!」


 ヒカリはスマホを受け取ると、ダッシュで出口へ向かおうとするも、首根っこを掴まれる。


「ちょっと待った。」


「今度は何なんですかぁ。」


「あんた達。今日何か悪いこと企んでるって噂を聞いたが……?」


 悪いこと?……たしかに今日は部活のみんなで森の探検だ。そう。……深夜だ。恐らくそれのことを言ってるんだろう。


「やっぱり心当たりがあるみたいだな。寂しくなるお前の気持ちもわかるが、あまり羽目を外しすぎるなよ。」


「へへへ……」


 そう苦笑いを返すと、今度は本当に職員室を後にする。その後、階段を上がり最上階を目指す。登った先を右方向。突き当たりまで進むと、謎の看板が見える。【世界の不思議研究室】という看板だ。


(相変わらずダサいですなぁ。名前。)


 そんな思いを心の底で隠しつつ、扉を開ける。どうやら私が1番最後らしい。中には私の親友、まもちゃんに先輩の【天羽あまね けい】さん。そして後輩の【狩谷かりや 沙桐さぎり】ちゃんと【上間うわま みさお】ちゃんだ。


「せんぱーい。おっそいよー。」


 この子はミサオちゃん。コミュ力お化けですぐに誰とでも仲良くなる小娘。さっきはタメ口で話していたが、それは私が許可したからOK!!


「へへへー。ごめんね?今日ケータイ取られちゃってさぁ。それでちょっと。」


「ほんとぉですかぁ?」


「それは本当。ひかりのクラスメートから聞いた。」


(ナイスフォロー!まもっちゃん!!)


 ヒカリは親指を立て、グッドサインをタマモに向ける。


「まあまあ、みんな落ち着きなって。ほら、始めるわよ?サギリちゃん。よろしく。」


「は、はい。では、ヒカリさん。ご着席を。」


「はーい♪」


 そう言うとヒカリは席に着く。


 その後行われたのは、今日の活動、深夜の森探索計画の会議。とは名ばかりの、いつもの雑談だった。この会議で決まった内容は、今日の22時に例の森へ集合。持ち物はライト必須でそれ以外は各々に任せる。の2つだけ。

 残った時間は、くだらない話や恋バナ。あいつがどうだの、あれはないだの、そんな無駄な時間。けれども大事な大事な青春の時間を謳歌していた。


「じゃあみんな!また夜に!」


「待ってヒカリ私も一緒に。」


「2人とも、遅刻しないように。」


「はーい!」

「勿論。」


 ヒカリとタマモは他の3人より、若干早く学校を出る。


「ヒカリはさ、もし別の世界に行けたら何する?」


「まもちゃん。意外と夢見がちだねぇ〜♪」


「もし。もしの話。」


「う〜ん。どんな世界って言ってっけ?」


「先輩は魔法があって冒険ができる世界って言ってた。」


「魔法に冒険かぁ。もしそれが本当なら、私はひたすら冒険かなぁ。新しいものを見つけて、見たことない場所行って、美味しい物食べて、沢山体動かして……」


 そんなことを話していると、隣にいる不思議ちゃんは、いつになく悲しい顔をしていた。


「どしたの?まもちゃん?」


 タマモは、一瞬ピクっと反応した後、恥ずかしげに話す。


「いや、私という物がありながら、一人旅を望むなんて。それは許さない。」


「ったく〜まもちゃんったら、嬉しいこと言ってくれるじゃ〜ん。うり〜♪」


「辞めて。かみぼさぼさになる。」


 まもちゃんの目が、想像以上に嫌そうな顔をしていたので、ここは諦めて一旦身を引く。


「よろしい。」


「へいへーい。そりゃどうも〜♪」


 そんなこんなしているうちに、私の家に着く。


「じゃ、また今夜〜♪」


「うん。」


 こうして、タマモと別れた私は、家の中に入る。現在、17時半。約束の時間のことを考えると、9時40分までにはここを出なきゃ行けない。


(とりあえず、シャワー浴びてご飯食べて、準備して……。ざっと1時間ってとこか……。んで、出る前の準備で10分。てことは……。3時間寝れる!!)


 こうしちゃ居られない。貴重な貴重な睡眠時間のために、テキパキとことを進める。


「おっわり〜!!」


 少女は思いっきり叫ぶと、ベッドにダイブする。だか、ある事が気になりなかなか寝付けない。


(なんだったんだろう。あの夢。妙になんか……)


 1限目に見た、あの夢のことを思い出し、なかなか寝付けずにいた。


(あ〜ダメだ〜。眠れないよぉ……。)


 仕方が無いので、テレビをつけ、約束の時間までのひまを潰す。しかし、少女の気持ちは満たされない。


(どのテレビを付けても、同じのばかり……。これも見た。これも、これも……。ところどころ内容は違うけど、最終的にやってることはいつも同じ。人々を楽しませるはずのテレビでさえ、日常と同じでつまんない。あぁあ。今日、本当に行けたらなぁ。魔法と冒険のある世界。)


 少女は天井を見つめながらため息を着く。


(なぁんてね。バカバカしい。あるわけないじゃん。そんな漫画みたいなこと。)


 テレビから流れる音を、ラジオ代わりに聞き流していると、スマホからアラーム音が鳴る。どうやら時間が来たようだ。


(さてと、じゃあ行きますか♪)


 少女は、いつも通り両親に手を合わせる。


(お父さん、お母さん。しばらく、もしかしたら一生、家を留守にするかもしれません。そんな事。万に1もないと思いますけどね。まぁ、そうなればわたし的にもありがたい事なのですが……。では、行ってきます!!)


 こうして、少女は淡い期待を込め、勢いよく家を飛び出した。

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