第22話

「最近よく会うわね」

「そうですね。……先生はどうしてここに?」


 今私がいるのは移動教室の帰り、実験室や調理室、被服室などがある別校舎の廊下。

 別に詩子先生を怪しんでる訳では無いけれど、保健室の先生がこっちにまで来てるって、純粋に何をやってたんだろうっていう疑問だった。


 すると先生は、保健室でもよく着ている白衣の袖を掴んで、ひらりと一回転、私の前で回りながら訳を話してくれる。


「ほら。私、見た目だけなら化学の先生に見えないことも無いでしょ?こんなんだし。それで、未だに保健室に訪れたことが無い子だと、たまに私を化学の先生だと思って実験室ってどこですか?って聞いてくる子たちがいるのよ。特に1年生は」

「ほえー。そうなんですか」


 嘘かホントかは分からないけれど、妙に納得してしまう理由だった。

 と、思っていたら、、、


「なーんてね♪本当は、染谷ちゃんの授業してる姿を覗きに来ただけよ♪♪」

「えぇ?なんですか、それ」


 ふふふ、と笑って先生のを流す。まさか、いくら保険医と言えども立派な大人な彼女が、一生徒の授業風景を覗きに学校をうろちょろするなんてこと、あるわけないもん。


「そういえばだけど、染谷ちゃん」

「はい?なんですか??」

「染谷ちゃん、もしかして体調悪い?」

「えっ」


 ………確かに、今日は月のもので、私は周りの子たちと比べても比較的症状が浅い方ではあるけれど、でも少しだけ先生の言う通り体調が優れないことも事実だった。


「よ、よく分かりましたね」

「ふふふ。これでも一応、保健室の先生だからね。それに、同じ女として、何となく分かったのよ」

「そうなんですか」

「それで、どうする?」

「?? どうする、とは?」

「もしあれだったら、保健室で横になる?次の授業、体育でしょ?」


 そうだった。

 次の時間は体育で、マラソンだった。

 でも、それってつまり、サボり、だよね?だ、大丈夫なのかな?いや、でも、先生がこう言ってくれてるんだし、きっと大丈夫だと思う。


「じゃ、じゃあ、少しだけお邪魔します」

「ふふふ。良い判断が出来て、偉いわ」


 そう言って先生は私の頭を撫でた。

 なんだろう、子供扱いされた気分。

 まぁ、だからと言って、何も感じることは無いけれど。


 私は保健室まで詩子先生と歩いて行き、体育の先生には詩子先生が伝えてくれると言うので、私はベッドで大人しく眠ることにした。

 一応、後で知った時に心配かけるかもと思って、つぼみちゃんには『少し保健室で休む』とだけメールしといた。


 横になれば、段々と眠くなってくる。

 意識を切り離す寸前、そういえば、と思った。



 どうして先生は、私が次の時間割が体育だと知ってたんだろ。普通、一生徒の時間割まで把握してないと思うんだけど、まぁ、いいか。



 私は眠りについた。



















 微睡みの中で、声が聞こえてくる。

 この少し色気のある声は、誰の声だっけ。

 とにかく、そんな声の主が何かを私の耳元で囁いていた。



「あなたは私のことが大好き♡あなたは私のことが大好き♡あなたは私のことが大好き♡あなたは私のことが大好き♡あなたは私のことが大好き♡あなたは私のことが大好き♡あなたは私のことが大好き♡――――染谷ちゃんは、笹浦 詩子のことが大好きで堪らなくなる♡♡」

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