Inside Days

 たった一人だけの教室。既に午前が過ぎており、お昼ご飯の準備をする。

 解きかけのプリントをまとめ、隣の机に寄せた。自分の机の消しカスを処理し、教室の後ろに設置されたゴミ箱に捨てる。

 と言っても、自分の席で食べる訳じゃない。席は存分に空いているのだから、汚れてもいい場所で食事すべきだろう。


 ゴミ箱から戻るそのままの脚で、自分の席ではなく、どんぶりの置かれた後ろの席に座る。


 今日は唐揚げラーメン。一番の大好物だ。


 頂きますと手を合わせ、箸を割る。今日は綺麗に割れたので、ちょっと気分が良い。午前は明日と変わらない昨日だったが、午後からはかけがえのない今日になるかも知れない。

 期待に胸を膨らませつつ、どこから食べようかと箸を迷わせる。


 鶏の肉をすりつぶして、混ぜ物を加えて成形した練り物。スープに浸かってしなしなになり、カリッと感を失った衣。小麦粉を機械でこねて細長くし、麺の形にして煮込んだ粘土のようなもの。調味料を組み合わせて味を作り、それっぽく脳を誤魔化すスープ。


 これが堪らない。

 こういうのがいいんだ。


 レンゲでスープを含み、口中を湿らせる。麺をすすり、胃の空白を埋めていく。

 ゴムのような練り物を噛みしめると、死んだ鶏の体液が口中に広がっていく。染み出た脂が味蕾を刺激して、脳内に化学反応を生じさせた。


 夢中で食べる。夢中で食べ進めていく。

 これが幸せなんだと、これこそが幸せなんだと思考を縛り、夢から覚めないように。

 夢から覚めないまま、幸せに一生を終えられるように祈りながら。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る