二人と一匹

「お、お帰りになったのですね。では私は」


 早々に浄化の詠唱を始めた睡蓮。


「私は先に屋敷へ戻る。陽の巫女を癒すを用意せねばならんからな。狐、お前たちが戻ったら融合のことを詳しく話してもらうぞ。拒否権はない、いいな?」


「は~い」と、光の柱に吸い込まれていく太秦の後ろ姿に、白狐と黒狐の二人は機嫌よく返事をした。


「じゃあ巫女さま? さっきの約束覚えてるよね?」


 白狐の言葉に昂は顔を青ざめさせるが、


「「巫女さま特性、稲荷寿司~♪」」


 杞憂に終わる。

 白狐と黒狐の二人は、巫女さまに稲荷寿司を作ってもらうんだと踊り始めた。

 しかし一難去ってまた一難。


「美月。待て美月、それ以上は浄化を続けるな」


 狛は胸の前で握り合わせた睡蓮の手を解き、桜のしべのような唇を指でなぞった。

 もちろん昂は掴みかかる。


「お前何して……!」

「直に融合が解ける。あれだけの量を生身で浄化するのは危険だ。それから昂。お前が美月を泣沢ノ泉なきさわのいずみ入れてやれ」

「は? 入れる? それよりも今の説明してもら——」

「「巫女さま!」」


 狐たちの切羽詰まった声に昂ははっとした。

 元の狩衣姿になった睡蓮は、目を開けると浄化していく様を真剣な表情で見つめた。


「良かったです。どうか安らかに……あ、皆さん見てくださいっ。怨霊さんたちがほら、穏やかな表情で……あの、どうかされましたか?」

「……美月。危険だと言っただろう? 話は聞いていたか?」

「も、もちろんですが、まだ魔法は解けていなかったので」

「睡蓮っ、身体は大丈夫か!?」


 にこっと笑って返事をする睡蓮を見て、昂と狛はほっと胸を撫で下ろした。そして頭を抱えた。

 元の格好に戻った白狐と黒狐の二人も「焦った~」と声を揃える。

 だが再び一難去ってまた一難?


 ぽんっ☆ ぽんっ☆


「うわ!」

「ふぇ?」


 煙がもくもく。

 まるで忍者の隠れ身の術か変化へんげの術でもしたような光景に、目を丸くする昂と睡蓮。

 やがて煙は落ち着き、姿を見せたのはなんと一匹の狐だった。

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