ラブレター

 後輩の女の子の話である。彼女が恋人と付き合うきっかけになったというラブレターの話をしてきたことがあった。

 ◯◯語で書くか??語で書くか、迷ったって言ってくれてと彼女は目を輝かせながら語ってくれた。

 確認したが相手は日本語が母語のモノリンガルである。◯◯語も??語も頑張って勉強したのだろう。それはいい。

 問題は、眼の前でのろけ続ける彼女は◯◯語も??語もまったく読めないことだ。もなむーる、うぉーあいにー、いっひりーべでぃっひひひひひひー。

 文字列が意味をなさないまま意味をなすというのは今考えてみるとなかなかロマンチックだし数年前の私ならぽすともだんがうんたらかんたらーとか叫びそうな気もするが、当時の私はただただ困惑するだけだった。


 ラブレターといえばラブレターの代筆というか翻訳を頼まれたことがある。

 「つきあっている彼女に手紙を書きたいんだけど、彼女は英語も仏語もわからない。だからレン、これを全部ひらがなにしてくれないか。俺はそれを写して彼女に手渡す」

 彼は日本語がほぼ話せない。ひらがなの練習中である彼が発した日本語のフレーズで私がきいたことがあるのは「はーい! わたしは◯◯◯さんです!」だけである。日本語に限って言えば、彼の言語能力はイクラちゃんとさして変わらないのである。いや、聞き取りもできない彼とイクラちゃんを比べるのはイクラちゃんに失礼かもしれない。伏してバブーと許しを請わねばなるまい。

 「どうやって出会ったんだよ?」

 「〇〇(繁華街)でナンパした」

 だから、日本語話せないお前がどうやって外国語できない女の子をナンパできるんだよ。

 私は激怒した。必ず、かの淫蕩卑猥な男を除かなければならぬと決意した。私には恋人がおらぬ。ホラを吹き、バカたちと踊って暮らしてきた。けれども、他人の幸せに対しては人一倍嫉妬してきた。それゆえ、彼の差し出したラブレターを意訳して「う◯ちぶりぶりざえもんなぼくはきみのすべてをうけとめられるさぁぶりぶりぶりーおうごんのほのおぉぎぶみーゆあちょこれーとおーべいべー」とかいう文章にしてやろうかと思ったが、理性の力で思いとどまった。


 ところで、私は手紙の類、すなわち手書きの部分があるものに関しては極度の筆無精である。年賀状の類も流行をはるか先取りしてはやいうちから出さなくなった。

 だからというわけでもないが、ラブレターを書いた記憶はほとんどない。

 まぁ、書いたものに関してもうまくいかなかったものばかりだ。記憶から基本的に消去するようにしている。

 だから、ここに書くようなことも……ああ、ごめんなさいごめんなさい(思い出してしまった)。

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