第40話 メンヘラちゃんは返事がなくて落ち込んでいる




【ひょろメガネ 隼人はやと


 最初は、ただ私のいう事を聞こうとしないお前が許せなかった。

 女なんていつも誰でも私の地位や金、家柄にすり寄ってくる卑しいものとしか認識してなかった。ただ、少し遊び相手として遊んでやっていただけだ。女なんてそうやって使うものだと思っていた。

 だが、私に対して「不愉快だ」などと言って離れようとするお前をどうしても、私の思い通りにしてやりたかった。


 のぞむに電話番号や住所やらを聞き出して、家まで行った。

 そうしたらお前は無鉄砲にも自分から犯罪者の巣窟に行こうとしていた。それを私は止められなかった。悠はやけに焦っている様子で家を飛び出して息を切らして走って行ってしまった。

 ここで無理にでも止めるべきだったのかもしれない。

 私が止められなかったせいでお前は大怪我をして、昏睡状態になった。


 心底思い通りにならない女だ。


 目を覚ましたお前は、こともあろうか私と大喧嘩したことを忘れていた。私自身をも。そしてあの長髪の男のことも。愚妹の事も、何もかも忘れていた。

 そのとき、良いように言いくるめて自分のものにしようと思ったんだ。籠の中に閉じ込めてしまおうと思った。

 それか、飛ぶための風切り羽を切ってしまえばお前は私から離れていけなくなる。

 相変わらず、お前は私の金にも権力も地位も家柄にも何にも興味を示さなかった。

 婚約者だと告げても、私に甘えてくるそぶりもなく。

 でも少しずつ私に心を開いてくれた。


 ――それがなんだか嬉しかったんだ


 そして、私が嘘をついたと話をしてもお前は抱きしめてくれた。「話してくれてありがとう」だなんて。

 気づいたら、惚れているのは自分だと気が付いてしまった。

 悠を誰にも渡したくなかったんだ。

 こんな、美しい人間がいるなんて私は知らなかった。何を考えているのか分からない女だった。私に対して色目を使ってくるでもなく(元々色気があるかというのは別の話になるが)、予想ができない女であることに変わりはない。

 だが、その予想外の行動に私は惹かれて行ったのかもしれない。自分の未知を探求したいというような気持ちに似ている。

 医者という職業柄もあってか、自分の知らない事象に対して私は強く興味を持った。

 偶然会っただけの関係であったとしても、軽く遊んでやろうと思っただけだ。見た目も悪くないし。連れて歩く分には申し分ない。

 そんな卑賎ひせんな考えがあったことは否定しない。

 私は汚い人間だ。自分さえよければそれでいいという人間だ。それでも悠は私を許してくれた。その温情に私は報いたい。

 これまでの下心を全てここに放棄しよう。


 だから……――――。


「悠」

「何?」


 だからこそ、私は汚いやり方ではなく、順序だてて真正面からお前に向き合おう。


「私と、正式に婚約してくれないか?」


 もう、方法を違えたりしない。

 私はお前を愛している。

 今は私はその気持ちくらいしか持っていない。私はお前にとってどれだけのものをもっているのだろうか。

 しかし、私はまっすぐに悠に気持ちを伝えた。



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