第42話 ユウナの恋事情
「えへへ、今日もありがとうタクミおにいちゃんっ!」
夕食後、アリスちゃんとふたりで魔法トレーニング。
アリスちゃんはおねむで先に自室に戻ってしまった。
ここからは大人の時間だ。
……溜まった課題を手伝ってもらっていたダケだけど。
「この式を覚えとけば簡単に解けるだろ?
また分かんない所があればどんどん聞いてくれ」
「はーいっ♡」
勉強は苦手だが、勉強を教えてもらうのは大好きなユウナ。
なぜなら合法的に密着できるからだ。
リビングのソファーに隣同士で座り、答えに悩むふりして(じつは本当に分からないんだけど!)身体を押し付ける。
むにゅん
そのたびに頬を赤らめるタクミおにいちゃんがこれまたかわいいのだ。
「あぅ、もうこんな時間」
楽しい時間はあっという間に過ぎるもので。
そろそろ日付が変わろうとしていた。
「明日は~絶対! 寝坊しないからねっ!」
「いやマジで頼むぞ?」
「おやすみ♡」
ちゅっ
いつもしているほっぺへのキス。
恥ずかしがるタクミの顔を堪能したユウナは、スキップしながら2階の自室へ。
タクミとの甘い夢を見ようとベッドに飛び込んで……。
「ちょっと待ったぁぁぁあああ、あたし!!」
我に返って飛び起きた。
「タクミおにいちゃんと再会して、もう4か月だよね!?」
カレンダーの日付は7月中旬。
来週からは夏休みである。
「ま、まさか!?」
スマホのアルバムを開く。
週4~5回の頻度で繰り返しているタクミおにいちゃんとの放課後デート。
「うおおおおお!?」
写っているのはタクミおにいちゃんとのツーショット、スイーツ、ツーショット、ごはん、ツーショット……。
全く同じ構図である。
「やってること、変わんないじゃん!!」
配信の切り忘れに映り込み、バズることから始まった運命の再会。
ヘルハウンドから助けてもらい、悪霊の鷹に立ち向かったタクミおにいちゃんの勇姿は目に焼き付いている。
自分を襲った暴漢から助け出してくれたヒーロー。
女子が憧れるシチュエーションを何度も繰り返し、今や一つ屋根の下に住んでいるのだ。
「それが……ほっぺにちゅ~だけだと?」
愕然と立ち尽くす。
本来ならホワくんとマジェのようにずっこんばっこん(今日たまたま見かけてしまった)致していてもおかしくないのだ。
「中学生か、あたし!」
いや今の時代、中学生でもヤルことはヤッているモノである。
「ぬおお」
タクミおにいちゃんの優しさが心地よすぎて。
妹的扱いに満足してしまっていた。
「このままでは」
いけないっ!
恋路を進捗させねばっ!
密かに誓うユウナなのだった。
*** ***
「ねえねえタクミおにいちゃん!
このスカートはどうかなぁ?」
「さすがに丈が短すぎないか?」
次のオフの日、ユウナはタクミを誘って買い物デートに来ていた。
(むふふ、あたしの作戦は完璧なんだよね~)
タクミを連れ出した口実は、「ゆゆ」の新衣装を考えたいと言うもの。
ゆゆはギャルJKスタイルを基本としているので、へそ出し、もも出しの大胆な衣装が多い。
(つまりごーほー的にドキドキ衣装をタクミおにいちゃんに見せられるのだ!)
それに加えて自分の服装である。
夏らしく胸のふくらみを強調するボーダーのシャツ。
ギリギリまで挑戦したローライズのショートパンツ。
もちろんへそ出し生足である。
(ふっふっふ)
イケてる衣装を考えるにはゆゆモードにならないとね、と着て来たセクシーコーデである。先ほどからタクミの視線はお腹と脚に釘づけだ。
(でもタクミおにいちゃんはプロデューサーでだんきちという立場から、一歩引いてる感じ)
ただ、配信パートナーになるまでゆゆの大ファンだったのだ。
普段のユウナにゆゆテイストを混ぜ、徐々に誘惑する。
(きせー事実を作っちゃえば、あたし大勝利なのだ!!)
幸い、繁華街の裏手にはホテル街もある。
戦場の下見はバッチリだ。
(お腹すいた~って言って、路地裏にタクミおにいちゃんを連れ込んで……
ええっと、そのあとは……ええ~っと)
どうやってホテルに入ればいいのか(ていうか入り方を知らない)?
状況分析は正確なのに、作戦実行力が足りていないユウナなのだった。
*** ***
(ふぅ……)
ひと通りの買い物を終え、お腹がすいたというユウナに手を引かれ繁華街の裏路地を歩く。若者向けストリートファッションの店舗が立ち並ぶ、雑然としつつも活気のあるエリアだ。
「えへへ~♡」
先ほどから右腕に抱きついているユウナだが、今日は朝からドキドキさせられっぱなしである。
いつもより大胆な私服に眼鏡をかけていないユウナ。
いつもより多いスキンシップに”ゆゆ”を感じてドキマギしてしまう。
よく見れば、柔らかそうな唇にはいつもと違う艶めかしいリップが。
(うっ!?)
思わずユウナの唇の感触を思い出してしまい、心臓が早鐘を打つ。
ヴンッ
その時、通りを埋め尽くすデジタルサイネージの映像が切り替わる。
『すべてを破壊し尽くす、超硬派ダンジョン配信!』
『アイドルなんて、いらない』
『漆黒の【鷹】がすべてを狩りつくす!』
極彩色のフォントでデジタルサイネージに映し出されたのは、悪霊の鷹(エビルズ・イーグル)のリーダー、トウジの姿だった。
大きなスポンサーでもついたのか、最近表に出てくるようになった奴ら。
アイドル的配信に対するアンチや、モンスターやダンジョンを嫌う層に急速に支持を伸ばしていると聞く。
「っっ!?」
相変わらずいやらしい笑みを浮かべるトウジの映像に思わず息をのむユウナ。
「大丈夫か?」
本人は吹っ切ったと言ってたが、襲われかけた恐怖は頭の奥に残っているはずである。
「……うんっ」
右腕に抱きつくユウナの力が強くなる。
*** ***
(これってもしかして……チャンス?)
トウジらの映像が映った時には嫌な気分になったが、実際に襲ってきた男は別だしコイツらはボコボコにしてやったからそこまでのトラウマはない。
だが、タクミおにいちゃんはあたしを心配してくれている!!
彼の優しさにつけ込むようであれだが、これは大人の階段を上る大チャンス。
ちょうどおあつらえ向きに、落ち着いた外装のそっち系ホテルの看板が目に入る。
「ありがとうタクミおにいちゃん。
……あたし、ちょっと休みたいかな?」
ぎゅっとタクミの腕をホテルの入り口に向けて引っ張るユウナ。
……やってしまった!!
期待と不安の二律背反。
ユウナの頭の中は沸騰しそうだった。
次の瞬間。
キキッ!
マサトの運転するワンボックスカーがユウナたちのそばに止まる。
「奇遇だねタクミ君。
ん? ユウナのヤツ少し顔色が悪いな?
軽い熱中症か? 僕の車で運ぼう」
「ありがとうございますマサトさん!」
(うおおおおおおおおおおおおおいっ!?)
一世一代の演技の甲斐もなく、ワンボックスカーの後部座席に放り込まれるユウナなのだった。
*** ***
「もう! あと少しだったのに!!
空気読んでよ兄貴!
おに! あくま! ハ○エース!!」
自宅に着いた後、ユウナはマサトを問い詰めていた。
タクミは買い物荷物を整理するべく、地下の倉庫に行っている。
「はっはっは!」
「タクミ君なら申し分ないけどね」
ぽかぽかと叩いてくる妹に向かって、ばちんとウインクをするマサト。
「いきなりホテルに行くのではなく。
まずはちゃんと告白をするところからだろう?」
「大・正・論!?!?」
ユウナの恋は前途多難なのであった。
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