第13話 安全パトロール案件と迷惑配信者

「ええ、はい……すみません、再生回数が伸びるよう業者に依頼していますので」


 明和興業の社長室。

 いつも社員に威張りくさっている明和 久二雄(めいわ くにお)は、冷や汗をかきながら電話の応対をしていた。


「え? 月間再生回数を2000万以上にしろ? いや、こちらが掛けられる広告費にも限度が……。

 ひいっ!? い、いえ! 無理ではありません! 必ず目標を達成……」


「……切れやがった」


「ちっ!」


 携帯電話を机の上に放り投げる。

 電話の相手は半年ほど前から取引を始めたヴァナランド関連の企業。


 金払いはいいが、とにかく得体が知れない……というか怖い。


「迷惑配信者共の動画再生回数を上げて、連中が何か得するのかねぇ。

 結局、異世界人の脳ミソなんざ理解出来ねえってことか」


 レア素材を納入しろ、と言って来たと思えば今度は迷惑配信者をスポンサードしろ、である。依頼に一貫性が無く不気味だが、莫大な利益を生むヴァナランド素材の裏取引ルートをあっせんしてくれたのも彼らなのだ。


 更に私腹を肥やすため、連中とのパイプは繋いでおく必要があった。


「仕方ない」


 本来なら宣伝担当の社員にやらせるところだが、ヤツは先日辞めてしまった。

 たかだか残業代を300時間分払わなかったくらいで辞めるとは!


 クニオはしぶしぶ割高な裏コンサルタントに追加契約の電話を掛けるのだった。



 ***  ***


「ゆゆの安全パトロ~ル☆!」


「もふっ!」


 ゆゆと一緒に全身でハートマークを作り、ドローンカメラに向かってポーズを取る。


「今日はダンジョン警察ちゃんとのコラボでお送りするぜ♪」


 ニカッと笑うゆゆは、なんと婦警コス(ダンジョン警察からの支給品)だ。


『あと少し、はケガの元。困ったときは早めに551までお電話を!』


 と書かれたタスキを肩に掛けている。


「もふもふっ!」


 さすがに足元は動きやすいようスニーカーだが、タイトスカートからすらりと伸びる脚が眩しい。


 ”ミニスカポリス!!”

 ”ゆゆ可愛いよゆゆ!”

 ”お堅いダンジョン警察が珍しいね!”


 ダンジョン探索者や配信者の数が増えるにつれ、レベルアップRTAに挑戦したり少しでも映える配信をしようと自分には厳しいレベルのダンジョンに挑戦したり、管理が行き届いていない深層に無許可で潜る輩が増えた。


 身動き取れなくなった探索者の救助要請も増えていて、ダンジョン警察も大忙しらしい。


 そこで我らがゆゆがダンジョンをパトロールしながら探索者さんにチラシを渡していく、というのが今回のコラボ配信の目的である。


「フォロピのみんなも、ダチにそんな子がいたら注意してあげるんだゾ」


 今日は戦闘が主目的じゃないので、ゆゆの胸元にはモンスター除けの護符が光っている。


「もふもふ」


 ”は~い!”

 ”もしかして今日は「みえ……みえ」とか書き込んだら捕まる?”

 ”いや、普段からすんなしwwww”


「おい、逮捕すんぞオマエ☆」


 ”ぎゃあ!?”

 ”草”

 ”ワイもゆゆに逮捕されたい!”


 珍しいダンジョン警察とのコラボに、コメント欄も興味津々だ。


「ほんじゃ、しゅっぱ~つ!」


 元気なミニスカポリスの声が響き渡り、ゆゆの安全パトロールがスタートした。



 ***  ***


「ほいっ、ダンピのおにーさんたち。

 ヤバいときは早めに551番ね。よろ~☆」


 ビギナー向けの1~10階層でレベル上げをしている探索者の卵たちにチラシを配る。


「うわ!? 本物のゆゆじゃん!」


「あ、あの! 盾にサインしてもらっていいですか!」


「おけ! これでウチとおそろだね☆」


「ありがとうございます!!」


 たちまちゆゆの周りに人だかりができる。


「だんきちさん! いつも見てます!

 で、出来れば中の人のグッズも欲しいな……なんて、発売されたらわたし買います!」


 なんと、俺にも女性ファンがいるようだ。


「もふっ!?」


 ぎゅっ


 美人な女性探索者に抱きつかれる。


「……ぷぅ。

 あ、ほらだんきち! ダンジョン見学の子供たちがいるから手を振れし!」


 げしっ


 嫉妬して頬を膨らませるゆゆ。

 カメラに映らない角度で軽く蹴られる。

 カワイイ。


「もふもふ~」


 俺は子供たちに向かって着ぐるみの手を振った。


「わ~、だんきち~!!」


 低層フロアではこのようにベテラン探索者の先導で見学ツアーが行われており、和気あいあいとした雰囲気だ。


「ほいじゃ、次はもうチョイ下に行きま~す!」


「もふっ!」


 チラシを配り終えた俺たちは、管理用エレベーターで別のフロアに向かう。



 ***  ***


「は~い、ダンピのみんな、ご安全に~☆」


「もふもふもふ~」


「マジ!? ゆゆとだんきちじゃん!?」


 中階層になるとガチの探索者ばかりなので、基本的に1階層に1パーティとなる。


 俺とゆゆは探索者に声を掛け、チラシを渡していった。

 そして中層階の最深部である、第92層に差し掛かった時。


「雑魚モンスターで、キャンプファイヤーしてみた!」


 ぎゃうんぎゃうん!!


「ギャハハハハッ!! コイツ、慌てすぎだろ!!」


 粗野な男たちの笑い声と、モンスターの鳴き声が聞こえて来た。


「タクミっち、コレって!」


 また迷惑配信者だろうか?

 フロアの奥に向かって走り出すゆゆ。


 そこにいたのは……。


「あ? 何だオマエラ?」


 ぐるるるるるるっ、ぎゃわんっ!?


 禁煙のダンジョン内でタバコを吸いながら、獣型と思わしきモンスターに爆炎魔法で火をつけ、ロープに結んで走り回らせている迷惑配信者の集団だった。

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