第29話 謎の機体の再来

「罪を重ねるのはやめろだと?何を言う?罪を重ねているのはお前たちムスペルヘイムの方だろ!さっきだって青い悪魔は仲間を見殺しにした。それのどこが罪では無いのだ?それが許されるのであれば、俺達が今こうして抗うためにお前らの兵を殺しても問題は無いだろう?」


 湊月はそう言って手を抑える手を無理やり外し距離をとって再びライフルを構える。そして、有無を言わさず撃った。


 しかし、その弾丸が謎の機体に当たることは無い。それどころかジワジワと距離を詰められている。


 しかし湊月もそう簡単に近づけさせない。なんせ、近づかれて拘束されれば終わりだと分かるからだ。だからこそ罠を仕掛ける。


 その罠というのはただの穴だ。だが、それが一番いい。なんせ、その穴にハマっている好きにたたみかければいいのだから。そして、その穴はどんなに頭が悪くても、どんなに頭が良くても引っかかってしまう。


 なんせ、謎の機体が歩き出すちょうど1歩目の位置に、落とし穴があるからだ。だから、その穴は回避の仕様がない。


 しかし、なんとその謎の機体はそれを避けた。1歩目が沈んだはずなのに回避した。


「何!?」


「シャドウ!僕に小賢しい真似は通じない!今すぐ諦めて武器をおろせ!」


 その謎の機体に乗った人はそう言って攻撃を仕掛けてきた。その声は男の声で、年齢は湊月と変わらなさそうだ。


 しかし、湊月はそんなことを考えている暇などなかった。なんせ、気を抜けば殺されかねないからだ。さすがに青い悪魔ほど動きがいい訳では無いが、かなりの精度だ。


 だが、それでも対処しきれない程の動きでは無い。湊月は動きをよく見てその攻撃を全て綺麗に捌く。そして、直ぐに新しい作戦を考えその作戦のために動く。


 しかし、その作戦を実行に移すことは出来ない。たとえどれだけ作戦の基盤を作ってもその基盤ごと破壊されてしまう。


「クソッ!なんなんだ!?俺の邪魔をするな!」


「黙れ!お前が何かをする度に死人が出るんだ!邪魔をしないわけが無いだろ!」


「死人だと!?お前はムスペルヘイムが毎日何人人を殺していると思っている!?日本人だけじゃない!世界を見渡せば、毎日何千人……いや、何万人もの死人が出ている!その元凶のムスペルヘイム人を殺すことになんの間違いがある!?」


 湊月はそう叫んで背中の剣を抜いた。そして、真っ直ぐ謎の期待に向かって走り出す。そして、間合いに入り剣で振り払った。すると、その攻撃は真っ直ぐ謎の期待の脇腹に向かっていく。


 しかし、謎の期待はその攻撃を避けた。しかも、ありえない動きをして。青い悪魔や不敗の戦乙女ヴァルキュリアのように機体をその実力に合わせて特別にチューニングした機体なのであればまだ分からなくもない。だが、こんな見たこともないような機体がそんな動きをできるはずがないのだ。


 そもそも、一体どんな動きをしたのか。それは簡単なこと。なんと、たまたま隣にあった木に手首から出したワイヤーロープを括りつけた。しかも、湊月が攻撃をした瞬間に。そして、そのワイヤーロープを張り地面に固定させそこに足を乗せることでバク転のようにして攻撃を回避したのだ。


 湊月はその動きを見て目を疑った。そして、直ぐにその場から離れる。しかし、謎の機体が追いかけてくる速さの方が速い。全く逃げ切れる気がしない。


 そして、当然のように謎の機体は湊月の機体に乗りかかるように上から抑えてきた。そのせいで地面に叩きつけられ抑え込まれてしまう。


「これ以上殺すな!」


 謎の機体に乗る男はそう言って湊月の両手両足を押さえつける。そのせいで体を動かすことが出来ない。完全に捉えられてしまった。


「お前が何かをする度に悲しい思いをする人が増えるんだ!」


 そう言って湊月が乗っているイガルクを破壊しようとする。しかし、湊月は全力で抵抗する。そして言った。


「悲しい人だと……!?傲慢だな……!俺達日本人にだって大切な人は存在する。両親や兄弟、友人……様々な大切な人がいる。だが、お前達ムスペルヘイムはその大切な人をいつも殺しているだろ!この前の虐殺ジェノサイドも、練習だとかそんなくだらない言い訳を作って日本人を虐殺した!人を散々殺し尽くしているのはお前達ムスペルヘイムの方なんだよ!それがなんだ!?自分の事は棚に上げて殺すなだと!?笑わせるな!散々人を殺した挙句悲しい思いをするからと人には殺すなという。俺達がどれだけ悲しい思いをして来たのか、お前にわかるのかよ!」


 湊月はそう言って操縦レバーを全力で握る。そして、全力で動かし始めた。すると、さっきまで押さえつけられていた両手両足が僅かに動き始める。


 その僅かな動きに謎の機体に乗った男は少し驚いてしまった。しかし、その驚きが一瞬の隙となる。湊月はその隙に力を込め謎の機体を跳ね除けた。そして勢いよく立ち上がり剣を構える。


「俺は全てを失った。家族は殺され、妹も殺され、友人は行方不明だ。それもこれも、全てお前達ムスペルヘイムのせいでな!俺はもう失うものなどない!全力でお前を潰してやるよ!」


 湊月はそう言って謎の機体に攻撃を仕掛ける。すると、そこから再び二つの機体の激しい攻防が始まった。


 片方が剣で薙ぎ払えばもう片方はそれを避ける。片方が斬りかかってくれば、もう片方が回避をしながら攻撃を仕掛けてくる。2つの機体の戦いは激しさを増していった。


「もうやめろ!これ以上無駄な犠牲を出す訳にはいかないんだ!」


「それはこっちのセリフだ!それに、無駄な犠牲では無い!世界を変えるために必要な犠牲なんだ!」


 湊月はそう叫んでさっきより速い動きをする。そして、その動きで謎の機体を圧倒する。


 しかし、謎の機体に乗る男もその速さにすぐ適応しさらに速い動きで攻撃を仕掛けてくる。そんな攻防が続く。


 しかし、遂にその攻防は終わりを迎える。なんと、遂に湊月の策が発動したのだ。これまで何度も壊され避けられてきた策に、謎の機体はハマったのだ。


 しかも、ほんの少し、凄く小さな罠。そう、かかとが引っかかるだけの落とし穴だ。その落とし穴に謎の機体は引っかかってしまった。そのせいで体制を崩してしまう。


「しまっ……!?」


「終わりだ!」


 湊月はそう言って上から剣を振り下ろした。


 しかし、その攻撃が通ることは無かった。突如剣を持っている右腕に強い衝撃が来る。そして、気がついた時には遠くまで蹴り飛ばされていた。


「っ!?」


 湊月は何が起こったのか分からず前を向く。すると、そこには自分のイガルクの右腕が剣を突き刺すようにして立っている。


「な、何だ……!?何が起こったんだ!?」


 思わず湊月はそう叫んでしまった。そして、キリッと奥歯をかみ締め立ち上がる。すると、自分の右腕の奥にいる機体の姿が見えてきた。湊月はその機体に目をやる。すると、姿形が見えてきた。


 その機体は青い光を放っており、星屑のような煌めきを放っている。そして、巨大な剣を持っている。


 そう、湊月を襲ったのはフィラメル・レウ・ムスペルだったのだ。


「っ!?邪魔をするな!青い悪魔フィラメル・レウ・ムスペル!」


 湊月はそう叫んでライフルを構えた。そして躊躇なく発砲する。


 しかし、その弾丸は全て弾かれてしまった。そして、フィラメルは言う。


「よくもやってくれたな!貴様はタダでは済まさんぞ!」


 そう言って剣を突きつけてくる。


「特部の小僧。貴様はよくやったな。あとは私に任せろ」


 そして、謎の機体に向かってそう言い湊月へと迫ってきた。湊月は直ぐにその場から後退し逃げる。そして、再び青い悪魔との戦いが始まった。

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