第3話 影の詳細

 桜花の口から放たれた言葉は驚くべき言葉だった。


「こいつが見えてないのか?」


「こいつって誰?」


「っ!?」


 どうやらシェイドは他の人には見えないらしい。


「お前他の人には見えないのか?」


「いや、そんなことは無いはずだよ。なんせ、ムスペルヘイム人には見えたんだから」


「そうだよな……」


 どういうことだろうか。なぜ桜花には見えないのか。シェイドの能力に関係があるのか?それとも、日本人に見えないのか……。いや、俺に見えてることからそれは無い。


「そうだ、この際だから聞いておくが、お前の異能フォースとはなんだ?なぜムスペルヘイムを憎む?」


「急だね。……僕の異能フォースは影だよ。今の君じゃ影を操るくらいしか出来ないけど、上達したら影で武器を作ったり、影の中を移動したり出来るよ」


「へぇ、すごいんだな」


「反応薄いね。それと、ムスペルヘイムを憎んでなんか居ないよ。君を助けたのだって君が面白そうだから……」


「嘘だろ。本当のことを言え」


 湊月は少しくらい声で言った。その言葉からは、ちょっとだけ殺気が漏れ出ていた。


「そう怒るなよ。……僕がムスペルヘイムを憎む理由……それはね、実は他の人は知らないだろうけど、ムスペルヘイムの人々は僕達フォースの源を殺してるんだ」


「何?」


 シェイドから放たれた言葉は驚きのものだった。


「殺してる?どういう意味だ?」


「そのままの意味だよ。彼らは僕達のフォースを手に入れて永久に自分のものとするために僕達を殺しているんだ」


「永久に自分のものにする……もしかしてだが、お前は俺からフォースを奪えるのか?」


 湊月は少し驚きながらも平然を装って質問した。その問いに対し、シェイドは頷く。


「そう、僕達はフォースを与え、奪うことが出来る。でも、ムスペルヘイムは僕達を殺して奪われないようにしてるんだ」


 なるほどな。確かに奪われなくなればムスペルヘイムは無敵というわけだ。逆に、殺さなければ奪われてしまうということだ。


 だが、そうなってくるとおかしい。なぜなら、シェイドは本来フォースの源は人とは不干渉だと言った。だったら、フォースなんか与える理由もないし、こんなに悪用してたら奪ってしまうはずだ。


 しかし、ムスペルヘイム人のほとんどはフォースを悪用している。ということは、まだ奪われていないということだ。


「与えなければ殺されることもないんだ。なのに、皆は与えてしまった。愚かだ!僕は……僕だけは反対したのに!」


「1人で動いたって無駄だ。意識というのは目の前の欲や恐怖には勝てない。死を前にしたらお前は立ち向かえるか?」


 その問いにシェイドは答えられない。


「フッ、それで、なんでお前がを憎むのかはわかった。ムスペルヘイムを憎む理由はなんだ?」


「っ!?今……答えたよね」


「今答えたのはフォースの源を憎む理由だ。ムスペルヘイムを憎む理由では無い」


 湊月はシェイドにキッパリと言った。シェイドも両目を見開いて驚いた表情をしているが、その中に湊月に対する怒りが混ざっている。


 湊月はそれを見て、初めはただ見つめるだけだったが、徐々に殺気を強めていった。


「……君は頭がいい。頭が良いからこそ、気をつけた方が良いよ」


「忠告ありがとう。早く教えろ」


「……僕がムスペルヘイムを憎む理由は……ムスペルヘイム人が僕の最愛の妹を殺したからだ」


 そう言って両目を見開いて殺気をダダ漏れにした。初対面でかつ、湊月でなければその場で漏らしてることだろう。それくらい恐怖心を掻き立てた。


 だが、湊月はそんなこと気にしない。だいたい予想は着いていたからな。たが、わかったからと言って言わせない訳にはいかなかった。シェイド自身の口からその言葉をだし、ムスペルヘイムへの憎しみを強めてもらう必要があった。


「……それなら、ムスペルヘイムを憎め、もっともっと憎め。憎んで恨んでそして殺せ。それが俺達の目的だ」


「っ!?湊月は本気で言ってるの?」


「俺が……冗談でムスペルヘイムを殺すとか言うと思ってるのか?華族を殺された。俺も最愛の妹を殺された。この家は俺だけのものじゃない。本来いるはずだった3人のものでもあるんだ。あんな腐ったクズどもを消滅する。それが俺の目的だ。お前と俺は同じなんだよ」


 湊月はこれでもかと言うほどの殺気を込めてそう言った。さすがのシェイドも、その様子に少し気圧されてしまう。


「あの……」


 その時、突如桜花が話しかけてきた。


「ん?なんだ?」


「いえ、その、一体誰とお話してるんですか?」


 桜花は少し怖がりながらそんなことを聞いてきた。


 ……そう言えば、桜花には見えないんだったな。理由は分からないがな。


「お前は俺の肩になにか見えるか?」


「何か……?」


「いや、いい」


 やはり見えないようだ。それに、今の様子から声すらも聞こえないらしい。


 そもそも、この症状は桜花だけなのだろうか?それとも、他の日本人……いや、ムスペルヘイム人以外の人々はフォースの源が見えているのだろうか?


「フッ、まぁ、そんなことはどうでもいい。見えてようが見えてまいが関係は無い」


 そう呟いた時、それは起こった。


 ウーウーウーウーウーウー……!


『この街に住んでる日本人よ!聞け!直ちにこの街から消え失せろ!でなければ皆殺しだ!』


 警報とともに、そんな声が聞こえてきた。そして、街の至る所に軍が配備されている。


「何!?まさか、こんなに早く動くとは……」


「あの、一体何が起こってるのでしょうか……?」


「……仕方ない。早急に逃げるぞ」


 湊月はそう言ってく窓の外を見た。どうやらこの周りには軍が余りいないみたいだ。これだったら逃げられるかもしれない。


 そんなことを思っていると、日本人が軍に何か言っているのが見えた。どうやら交渉しているらしい。


「頼む……!すぐにこの街から出るから殺さないでくれ……!」


「馬鹿が!ルーザーに発言の権利は無い!死ね!」


 ズガガガガガガガガ!


 ムスペルヘイム人の言葉とともに、銃声が鳴り響いた。音を聞く限り、アサルトライフル……191式自動歩槍か……。


「まずいな。ムスペルヘイムが日本人の虐殺を始めやがった」


「えぇ!?そ、そんな……!」


「……ちっ!」


 どうする?下手に逃げれば見つかって殺される。たとえ見つかったからと言ってフォースを使えばいいが、通用するのか分からない。


 八方塞がりだ。だが、これをどうにかしなければ俺達に未来は無い。


「どうにかしてみせる。この俺の名において、失敗は許されない」


 湊月はそう言って決意を固めた。

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