第2話 黒い悪魔

 テレスは死にそうだと言い出した。そして、助けてくれと言って泣きついてきた。そんなことは無い。だから、俺はそんなことでは許さない。これまで散々俺らのことを痛めつけてきて、ここに来て命乞いとは愚かな。


「お前らムスペルヘイム人など助ける価値がない。死ねよ」


「ったくいいのか!ここで俺を助けなかったら日本人の虐殺が開始されるぜ!」


 テレスは勝ち誇った顔で言ってきた。


「なら、ジェノサイドしたヤツらを俺が皆殺しにするだけだ」


「っ!?……このクソが!早く助けろ!」


「黙れ。俺が死ねと命じてるんだ。早く死ねよ。”我が権限の元に貴様らを処す。死ね”」


 その言葉と共に、テレスとその周りにいたムスペルヘイム人は黒い影に飲まれていった。そして、その場には何も残らなかった。


「っ!?……いやぁ……虐殺が始まる……私達も殺される!」


 女の子がそう言って泣き叫び始めた。顔をくしゃくしゃにしながら地面に涙の水溜まりを作る。


「……フフフ……フハハハハハハ!」


「っ!?」


 女の子は突如笑いだした湊月に驚く。しかし、湊月は静かにその場にたたずむだけだ。


「フフフ……俺はこれまでずっと関わらないようにしてきた。自分が弱者だったから。負けて殺されたくなかったから。だが今は違う。俺は力を手に入れた。全てを壊す力を。フハハハハハハ!……行くぞ。娘」


 湊月はそう言って学校の校門の方まで歩き出した。女の子は一瞬戸惑いはしたが、すぐに立ち上がり湊月について行く。


 その後ろには、校舎から俺達を見て憎むムスペルヘイム人がありのように大量にいた。


「必ず皆殺しにしてやるよ」


 湊月はそう言い残して校門を破壊し、その日、高校を卒業した。そして、反逆者として決意を固めた。


(俺は反逆者レジスタンス……この世界を全て壊し作り替えてやる。そのためには……)


 湊月はこれでもかと言うほど不敵な笑みを浮かべた。


 ━━それから10分ほど歩いて湊月達は、一旦湊月の家に行くことにした。ムスペルヘイム人を殺したのだ。追われているに決まっている。


 今は、1度状況を確認するのが先決だ。そう思い、湊月の家まで行った。湊月の家は、普通の一軒家だ。大きいという訳でも、小さいという訳でもない。他の家と遜色ない一軒家だった。


「お、お邪魔します……」


「とりあえず座って待っててくれ」


「はい……」


 湊月は1度女の子を居間に残して冷蔵庫の近くまで来た。そして、シェイドを呼び出す。


「ここは安全だ。出てこいよ」


「……ありゃりゃ、バレてたの?」


「バカか。普通に考えて俺に力を貸してどこかに行くわけないだろ」


「それもそうだね」


 シェイドはそう言っててへっと言うような仕草をする。


「おい、お前は何者だ?なんの用があって俺に力を貸した?そもそもなぜ俺に加担する?」


「一度に何個も質問しないでよ。もぅ、1つずつ答えてあげるからさ」


「早く話せ」


「わかったよ」


 シェイドはプンプンしながら話し始める。まぁ、見た感じ怒ってるような感じではなく遊んでるような感じだから無視しよう。


「まず、僕が何者かだけどね、さっきも言った通り僕は君達の言うのところの妖精、悪魔、色んな呼び方があるんだ。でもね、ムスペルヘイム人は僕達のことをこう言う。”異能フォースの源”ってね」


「フォースの源?」


「そう、僕達は本来人とは干渉しない。なんせ、フォースを持っているから。でも、ある日1人の男、そう、ムスペルヘイム人が僕達を見つけた。そして、フォースを見たんだ」


「なるほどな。それで、その力が欲しくなって、口車に乗せられてあげてしまったわけだ」


「すごい。よくわかったね」


 話が単調なんだよ。とか言ってやりたいが、今はこいつの話を聞く方が良い。そう思って何も言わなかった。


「ま、僕達はそんなこんなでムスペルヘイム人にフォースを与えてしまったんだ」


「このバカが。なぜ殺さなかった?」


「僕1人じゃ何も出来なかったんだよ」


「そうか。で、2つ目は?」


 湊月は話を直ぐに辞めると2つ目を聞いた。それに対しシェイドは少し呆れながらも2つ目の話を始めた。


「反応が薄いなぁ……ま、いいけどさ。それで2つ目だけど、君がって言ったら分かるかな」


「なるほどな。お前もムスペルヘイムを憎んでいるってことか」


「ご名答。君以外の日本人はもう諦めてしまってるからね。そこの女の子もそうだけどさ」


 そう言って彼女を指さす。確かに彼女はもう諦めていた。あれだけ校庭に裸で立たされるのを嫌がっていたのに、いざ校庭に投げ出されると嫌がりもしなかった。


「そうだな」


「フフ、君は面白い人だよ。だって、ほかの日本人はあんな状況になったら諦めてしまうんだもん。君だけだよ。あんな状況でで力を求めるなんて」


「御託は良い。早く話を進めろ」


「はいはい。それで、次は最後の質問だね。最後の質問の答えだけど……もう分かるよね」


「フッ、バカが。俺以外にもいるだろ」


「湊月じゃなきゃダメだった」


「フッ……」


 湊月はシェイドの言葉に小さく笑う。そして、1度居間に座らせている女の子に目をやった。


 どうやらこの小悪魔はかわいい女の子なんかじゃなく俺選んだらしい。いい目をしてる。


「ねぇ、あの子待たせてて良いの?」


「そうだな。待たせておくのも悪い。それに、変なことをされてしまっては困るしな」


 湊月はそんなことを言いながら居間に向かった。


 居間に行くと、女の子は何か申し訳なさそうに座っていた。その様子を見ると、かなり礼儀が正しいようだ。


 かなり姿勢よく正座をしている。それに、どこにも手をつけていないようだ。好奇心旺盛な訳では無いみたいだな。


「待たせて悪かったな。それで、君の名前は?」


「あ、はい!わ、私の名前はさざなみ桜花おうかです……よ、よろしくお願いします……」


「よろしく。それで、これからどうする?」


「えぇ!?ど、どうしましょう……!?」


 桜花は湊月の言葉を聞いて慌てふためく。しかし、湊月は平然と言った。


「冗談だよ。今から俺達はこの街から出る。まず東京にいれば殺されるだけだ。それに、軍を作りたいな。あと5人必要だ」


「5人……」


「そのためにはまず、俺達の力を証明しなくてはならない」


「そのために、ムスペルヘイムを襲うんだね」


「その通りだ」


 シェイドが横から言ってきた。どうやらシェイドも少しは頭が回るみたいだ。


 そんなことを思いながら桜花を見た。どうやらシェイドと違って桜花は頭が良くないらしい。それに、身体能力もそこまで高そうに見えない。


 いや、人は見かけによらないという。勝手に決めつけるのはよそう。それより今はどうやって力を示すかだ。やはり、ムスペルヘイム人を殺すのが1番か。


「……ん?どうした?」


「あの、さっき誰と話してたんですか?」


「何?」


 桜花の口から出た言葉は意外なものだった。

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