予言

 ある村に一人の阿闍梨が住んでいた。阿闍梨は聡明で温厚な人物で、村人たちに尊敬され慕われていた。阿闍梨には一人の息子がいた。阿闍梨は息子をとても大切にしていた。

 ある日、村を一人の老人が訪れた。身なりはぼろぼろで、骨と皮のように痩せていた。村人たちは哀れに思い、飯や汁をふるまった。老人は礼を言わず、かわりにこう告げた。

「この村の阿闍梨は息子を殺すだろう」

 村人たちは驚き、老人を忌まわしく思い、追い払った。

 阿闍梨はその場におらず、村人たちはそのことを阿闍梨に話さなかった。老人のことはやがて忘れ去られようとしていた。

 あくる日、しかし、阿闍梨は息子を殺してしまった。自分の家で、包丁で刺し殺したのだ。隣家の者が、血だらけになって放心している阿闍梨と、すでに冷たくなった息子を発見した。阿闍梨は激しくうろたえ、一言も話さず、魂が抜けてしまったようになり、いつまでも戻らなかった。

 村人たちはあの老人のことを思い出し、怖ろしく思ったが、起きてしまったことはどうしようもなかった。老人が再び村を訪れることもなく、村の外で老人を見たという人もいなかった。ただ、年老いた阿闍梨の顔と姿は、どこかあの老人に似ていたというのである。

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