私立図書館

@Arenkan

第1

みーんみーん、今は夏か

ここ最近で時期を

意識していなかった。

夏自身も自覚がないようだ。

ちょうど日が真ん中にある時間

林道の中を不審人物の理想的なコートを着て

歩いていた、樹木の葉はなぜ

あんなにもバラバラなのか、この時期が

自分の神経質を研ぎ澄まさせる。

所々の木漏れ日がわずらわしい

白線を歩く子供のように

バランスをとって歩くので精一杯だ。

昔に先輩からのアドバイスにあった

「常にポケットの多い服を着ろ」

それの実践例が今である

「俺もクールビズを取り入れよう」

決意を表明したころに目的の場所が見えて来た

森の一部となっている建物がある。

この場所に来るまでの半刻を栓が抜けたように

流れ込む、擬似的な走馬灯である。

この場所は元は都市伝説の分野であった。

まだフリーのライターになる前に

聞いた話にあった、

地図にない図書館?である。

地図とは切り離した場所があると

長い間語り継がれていた噂である。

だが、人の来ない水も電気も通っていない

図書館があるわけがない。

机上で不可能だと理解できるため、

都市伝説でしかなかったが、

フリーライターとしての生活が

行き詰まった時に、思い出したネタだった。

この記事を書く以外の道がなかっただけだ。

建物の実在に浮き足だったが、

ツタに主導権を握られている外観をみて

人はいないのではと言う疑問が浮かんだが、

それならば中を見るだけと決めていた。

ツタをくぐって中に入ると真っ暗になった。

いま気付いた反射的にまぶたを下ろしたのだ。

おそるおそる目をひらくと、

そこには外界とは別世界が広がっていた

建物の中が光っているように明るい、

光源を、地面、棚、壁となぞっていると

上に動いていく、

天井が円形のガラス張りなのだ。

空の円形が太陽のように輝いている、

落ち着いて、光があるこの条件が揃って

はじめて室内を見渡したが、

図書館?であるなんとも、難しい

作りかけの粘土のような内装である

植物園の中に本棚を置いた作りなのだ

植物の場所はそのままで、

空いた場所をバラバラに

本棚でパズルをしている気分になる。

汚す土と痛む光がある、

とても図書館とは思えない場所なのだ。

視線を戻す途中、

吹き抜けの2階部分を見ると 

カフェのテラス席のような、

イスとテーブルが見えた。

階段下にある

カウンターが貸し出し口なのであろう

静寂に吸い込まれそうなほど人気がない

ほんの一瞬思考が止まった時

新たな発見があった、無色の自分を

独特な香りが染めていく

その光景が目に見えるほど強い香りがした。

中学の頃に、理科か家庭科で習った

匂いは上から下に行くと言うことを

半ば思い出し、はんぶん本能で

2階部分に歩を進めていた。

足元を見たまま歩いていると、

ふと気配がする、視界の端で何かが動く

顔を上げると、

微笑みを浮かべた初老の男が立っていた。

歳の頃は60ごろだろうか、紳士である

「当館へお越し頂きありがとうございます」

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