第8話 「啓蟄」の裏

 坂木さかき君は、画集を開いていた。

くれ姉妹のお母さんだね…」

「うん」

 坂木君は、頷く。にっと笑って、顔を上げる。

「実は、呉紫織くれしおりに、母親の代わりに咲楽さくらをあげたくって、私は咲楽の母親の頼みを聞いたのだよ」

 顔を思い出そうとしたが、興味もなかったので、ほとんど失敗に終わった。

「そんなことだろうと思った」

 呉紫織とは、数年ほど、月岡つきおか学園で一緒だった。

「そう言えば、僕が教えたんだっけ。呉さんの妹が、三木みき高に行くみたいだって」

「そうだよ。そしたら、たまたま田中たなかさんが三木高で教えていたから、それで、どうやら文芸部らしいと知った」

「咲楽もね、どうやら、『紫織お姉ちゃんのお母さん』になると、決めてしまったみたいだから」そこで、窓外を見遣る。「孫の顔は、いつ見せてくれるのかと、つっかかってくる」

 坂木君の肩が震えている。

「孫って」



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啓蟄の裏 神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ) @kamiwosakamariho

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