第十五話

 プ-ルから帰宅した俺は夕飯を食べて、自室でネーム作りに没頭していた。


「ここはこうして……」


 構成を練りながら書いては消してを繰り返しながら、徐々に進めていく。


 机の上に置いていたスマホがブルブルと震えだして、画面を確認すると文月さんからだった。


「オムライス先生、凄いことになりましたよ」


 スマホを耳に当てると、珍しく大きな声でそう言ってくる。


「どうしたんですか?」


「読書アンケートで、オムライス先生のデレツンスクールが一位になったんです」


「えぇー!」


 その言葉に俺も大声を出してしまう。


「凄いことですよこれは。早速ですが、次の号で巻頭カラーをのぺ-ジを用意させてもらいますね」


「ありがとうございます」


 目の前に文月さんがいるわけでもないのに、頭を下げてお礼を伝える。


「兄さん、うるさいですよ」


 扉がノックされて、和音が声をかけてきた。


「あ、悪い。和音、入って来てくれ」


 文月さんに断りを入れて、スマホをスピーカーモードにする。


「何ですか?」


「今晩は、葉山ソラ先生。実は次号の事でオムライス先生と話してまして――」


 部屋に入ってきた和音にスマホを見せると、文月さんは丁寧に説明してくれた。


「という感じでして、ぜひ次号はカラーを使いたいと思います」


「なるほど、そういう事だったんですね。でも、カラーってそんなに凄いことなんですか?」


 和音は不思議そうにスマホに話しかける。


「そうですね、異例と言って差し支えないかと。失礼ですが、ある程度の実績のある作家先生にしか頼まない事なんですよ」


「なるほど。それはありがたいことですね」


「それに今回は読者アンケートを取った時点では、鳥山明菜先生か畑一郎先生が一位になると思っていたんです」


「それを裏切って、私達が一位になったと」


「はい。それに二位になった先生も今回が初の月刊誌デビューでして、異例が多い結果になっています」


「そうなんですね」


「横からすみません。今回のカラーって、自由にやっていいんですか? それとも指定の話とかを書く感じですか?」


 シナリオを作る側としてはそこはしっかり聞いておきたい。


「そうですね……。物語の流れが崩れないなら、自由でいいですよ。二ページのカラーですが」


 そうなると、扉絵と次のページをどうするかだな。


「え? たったそれだけなんですね」


 和音の言葉に俺はぎょっとする。


「いやいやいや、凄いことなんだぞ?」


「ええ、らしいですね。でも、全部じゃないんですよ?」


 そんな雑誌があれば、出版社は倒産だろうな。


「漫画雑誌でそれはないよ」


「そういうものなんですね。また、他の雑誌も読ませてくださいね?」


 和音は俺の様子に不思議そうだ。


「ふふ、本当に仲がいいですね。そういう事なので、ぜひよろしくお願いします」


 文月さんは楽しそうに笑って、電話を切ってしまう。


「よし、やるか! 和音、着替えのシーンを描いてくれ」


 俺はパソコンの前に座って、冒頭を書いていく。


「妹にそういうことを言えるの、本当にすごいですね」


 困ったような声を出して、和音は部屋を出ていく。


 その言葉に確かにそうだなと小さく笑うのだった。



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