第十四話
しばらく流れるプールでのんびりと身を任せた後、七緒の提案でお昼を取ることにした。
休憩スペースのテーブルを確保するように頼まれた俺は一人で三に出座れる席を確保して、七緒たちが戻ってくるのを待つ。
「お待たせしました。こちら綾瀬特性ランチです~」
カゴを持って戻ってきた七緒はそう言いながら、カゴをテーブルに置く。
「おぉ、悪いなお昼まで作ってもらって」
「いえいえ、好きでやってるだけですし。それにプール代は先輩の自腹じゃないですか~」
確かに招待券が二枚だったので俺が自腹を切ったのだ。
「いや、俺も来たかったしな。本当にありがとな」
「ゴホン、二人とも私もいるんですよ?」
二人で見つめ合ってるとお茶を用意してくれていた和音がわざとらしい咳ばらいをして、ジトっとした目で睨んできた。
「分かってるよ。三人で来れて俺は嬉しいんだ」
「そうだといいんですけど」
「私も三人で来れて嬉しいですよ~」
七緒が和音に抱きついて、そう言ってくれる。
「じゃぁ、早速だけど食べるか」
「そうですね。七緒、お昼ありがと」
「いえいえ、それでは、オープンです」
籠の中はサンドイッチで、ハムや豚カツ。チーズサンドとバラエティー豊かな内容でどれも美味しそうだ。
「旨そうだな」
「はい、私このチーズサンドをいただきますね」
和音はそう言って、サンドイッチを一つとる。
俺はハムサンドをもらうことにした。
「どうです? 美味しいですか?」
「ああ、レタスにかかっているドレッシングがすごく美味しいよ」
「チーズも何種類かまぜてるんですね? すごく美味しい」
「おぉ、それは良かった~。では私も」
俺達の感想を聞いて、嬉しそうに七緒がサンドイッチに手を伸ばす。
七緒お手製の美味しいサンドイッチを堪能して、しばらく談笑を楽しむのだった。
・・・・・・・・・・
「先輩、あれなんでしょう?」
三人で喋りながらのんびり歩いていると前方に人だかりができていて、七緒が興味を示す。
少し見てみるかと、三人でその人だかりの方に移動する。
「さぁ、本日の目玉イベント! 漢字王決定戦。参加希望者はまだ募集中だよ!」
壁際に作られたステージの上で、派手な衣装の視界の男性がマイクを使ってそう話していた。
「これは出なくてはいけませんね」
目をキラキラさせて、七緒がそう声を出す。
「おう、頑張れ」
俺はそう言って、見送ることを決める。
「……。はい、はーい。私達三人、でま~す!」
嫌な笑みを浮かべたと思ったら、七緒はそう声を張り上げた。
「え? 私も出るんですか?」
和音も困惑している。
「もちろんです。せってかくなので、やりましょうよ~」
「お、これでメンバーがそろったな! じゃぁ、あがって来てくれ!」
どうやら逃げ場はないようだ。
やれやれとため息をついて、三人でステージに上がる。
「誰が勝つか、勝負ですよ」
「まぁ、出るからには頑張るか」
参加者は俺達以外に、身長の高い眼鏡の男性と髪を金髪に染めたギャルがいた。
「それでは、早速始めるぜ! 漢字読み問題。問題、カモン」
司会の男性がそう言うと、ステージ脇からビキニ姿のスッタフさんがボードを掲げて出てくる。
そのボードには蒲鉾と書かれていた。
「はい!」
一番最初に手を上げたのは七緒だ。
「では答えてくれよな」
「かまぼこです」
「正解だぜ! 若いのに凄いな~」
その言葉に七緒は照れたように笑う。
そこから和音も俺も順調に答えていき、三人とも中々のポイントを稼いだ。
「これは凄い展開だ! 三人のデッドヒート、他二人が答えられていない~。次が最終問題だぞ!」
次に見せられた漢字は、鹿尾菜。
「難しいですね」
「見たこともありません」
和音も七緒も分からないようで、俺の隣でそう声を漏らす。
「因みにのこれに正解すれば、百ポイントだぜ~」
バラエティーにありがちなとんでもルールを司会の人が言う。
「はーい、しりげ」
ギャルがそう答える。
「不正解だ! お、お兄さんいけますか?」
不正解のコールの後、眼鏡の男性が手を上げた。
ステージの下から「パパ、頑張れー」と、子供の声が聞こえてくる。
「か、かずおな?」
自信なさげに答えを言う。
「不正解だぜ。もう、答える人はいないか~?」
その言葉に俺は手を上げる。
「ひじき」
「……。正解、お見事!」
昔に見た雑学番組が役に立ったな。
「すごいですね! 兄さん」
「やりますね、先輩」
二人も感心してくれる。
「では、優勝賞品のペア温泉旅行券をどうぞ」
ビキニ姿のスタッフさんが、封筒を持って来てくれた。
ちゃんと見てなかったけど、豪華な賞品をくれるんだな。
「ありがとうございます」
お礼を言って、受け取る。
その後は日が暮れるまで、色々な種類のプールを楽しんだ。
・・・・・・・・・・
「本当に貰っちゃっていいんですか?」
七緒を家まで送ったところで、貰った旅行券を七緒に渡すと不思議そうにそう言ってくる。
「ああ、初春さん達には世話になってるからな」
「はぁ、そういう事ですか……。喜んでくれると思うので、ありがとうございます」
何故か少し落胆したように言われてしまう。
「兄さんは、本当にあれですねよね」
和音が、何故かため息を漏らしてそう言った。
「どういうことだ?」
「何でもないですよ。ね、七緒」
「ですです」
よく分からないけど、これ以上は聞けそうにない。
「七緒、今日はありがとな。息抜きになったよ」
「いえいえ、私も楽しかったのですよ」
「七緒、また遊ぼうね」
「うん、和音。それでは、また」
七緒は笑顔を残して、家の中に入っていった。
「じゃぁ、俺達も帰るか」
「はい、兄さん」
俺達も帰路につくのだった。
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