第30話 とあるミステリ研究会員の本当の願い【問題編】②
とある地方都市にある中高一貫
歴史があるといえば聞こえはいいが、ようはボロい旧校舎の二階の隅。ではなく、ここは新校舎。煉瓦造の旧校舎と違って白いコンクリートが眩しい。校舎内も明るく清潔。とはいえ、俺は明るいけど素っ気ない新校舎より、ボロくてもどっしりとした旧校舎の方が好きだけど。
二時間目と三時間目の間。少し長い休み時間を使って、俺と
「えっ? どういう取り合わせ?」
開口一番、ヒサヨシが素っ頓狂な声を上げる。
「思い出したんだ。中等部三年生のバレンタインデイのこと」
俺の言葉にヒサヨシが息を飲む。
「いつ?」
「昨日。サトシが家庭科準備室に来てさ。思い出した。あのさ。ヒサヨシやジュンジには迷惑かけたな。ごめん」
「そっか。って、何水臭いこと言ってんの。友達でしょ!」
頭を下げる俺の腕をヒサヨシが笑ってパシンッと叩く。本当にいい奴だよな。
「それで? 仲直りはできたの?」
「うん。多分」
「何、多分って! サトシも何か言ったらどうなの?」
詰め寄るヒサヨシに、近っ、とサトシがのけぞる。
「えっと、悪かったな。俺のせいで」
「本当だよ!」
「おい! 近藤と扱いが違わないか!」
ヒサヨシの言葉にサトシが顔をしかめる。別に〜、と笑うヒサヨシを見て、サトシが苦笑する。
「まぁ、仲直りできたみたいね。ならよかった」
「あぁ、ありがとう」
三人の間にほっこりとした空気が流れる。でも、ヒサヨシの次の一言で、俺もサトシも本来の目的を思い出して真面目な顔に戻った。
「じゃあ、アガサ先輩のことも解決したの?」
「そう! それだよ!」
「えっ! 何?」
つい大声を上げてしまった俺に、今度はヒサヨシがのけぞる。
「ヒサヨシ! お前、阿川先輩に会ったことあるよな?」
「えっ? 阿川先輩? アガサ先輩じゃなくて?」
訝しげな顔をするヒサヨシに俺はハッとする。
そうか。ヒサヨシやジュンジはアガサ先輩って呼び方しか知らないのか。
「いや、アガサ先輩のこと。本当は阿川なんだけど、ジュンジが聞き間違えて、そのままになっているんだ」
「えっ? そうだったの?」
「いやいや、ミステリ研究会の会長がアガサだなんて、そんな出来過ぎた話あるわけないだろ」
驚くヒサヨシの姿に思わず苦笑する。ジュンジもそうだっただけど、こいつら案外発想が単純だよね。って、そんなことはどうでもよかった。
「それより、ヒサヨシ、アガサ先輩に会ったよな? ほら、家庭科準備室で。灰島さんからの手紙の件、忘れてないだろ? フリクションペンの謎を解いた先輩だよ。色白で栗色の長髪で、榛色の大きな目をしていて」
俺の言葉にヒサヨシが続く。
「少し小柄で、すこ〜し幼い顔立ちの可愛い先輩でしょ。思いっきり近藤の好み、どストライクの」
「そうそう。って、どストライクってどういうことだよ!」
しまった。ヒサヨシの軽口に思わずノリツッコミをしてしまった。でも。
「ほら見ろ! サトシ、アガサ先輩はちゃんといるだろ! ってか、いるも何も、幽霊じゃあるまいし。いるに決まってるじゃん」
言っている間に自分でもなんだか馬鹿らしくなってきた。先輩が存在するかどうかなんて、確認するまでもない。だって先輩は
昨日は俺もどうかしていたんだ。頭打ったみたいだし、少し混乱していたのかも。念のため、後で病院に行っておこうかな。頭って怖いって言うしな。
「ヒサヨシ、お前、本当に会ったのか?」
そんなことを考えていた俺は、サトシの低い声で現実に戻る。険しい顔でヒサヨシに詰め寄っているサトシを慌てて止めに入る。
ガタイのいいサトシと華奢なヒサヨシでは、体格差がエグい。傍から見たら、ヒサヨシが絡まれているようにしか見えない。それが証拠に廊下を行く生徒たちがチラチラとこちらを見ている。教師を呼ばれてもしたら面倒だ。
「サトシ、いい加減にしろよ。ヒサヨシ、聞いてよ。サトシはアガサ先輩なんて存在しないって言うんだ。ヒサヨシもジュンジも会っているって言ったら、二人に話を聞かせろってうるさくてさ」
真剣な顔で迫るサトシを押さえながら、俺は苦笑しながらヒサヨシに事情を説明する。ヒサヨシなら、ばっかじゃないの、と笑うに違いない。そう思っていたのに。
「あぁ、そういう話かぁ」
なぜか浮かない顔でヒサヨシがこたえる。
「で? ジュンジはなんて?」
「いや、A組は次が移動教室で、ジュンジは教室にいなかったんだ」
「なるほど。そういうことね」
タイミング悪~、とヒサヨシが呟く。
「いや、別にヒサヨシに確認とれればそれでいいから。会ったよな? アガサ先輩に」
「え~、こういうのはジュンジが担当でしょ~」
「ヒサヨシ?」
なぜか困り顔のヒサヨシ。嫌な胸騒ぎがする。
「あのさ。久しぶりに屋上で昼ごはん食べない?」
「はっ? そんなことよりアガサ先輩に会ったかをサトシに」
「いいから! ジュンジも呼んでおくからさ! じゃあ、授業始まるし、後でね!」
「おい! ヒサヨシ!」
強引に話を切り上げると、ヒサヨシは自分の席に戻ってしまう。俺が教室の入り口から声を上げても、ひらひらと手をふるばかり。
それに確かにそろそろ教室に戻らないと俺たちも授業に遅れてしまう。
「とりあえず、昼休みに屋上集合でいい?」
諦めた俺はサトシにたずねる。
「あぁ、わかった」
サトシが了承するのを確認して、俺とサトシはそれぞれの教室に戻ったのだった。
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