第二章:修羅の獣たち

レジスタンス幹部 橋本哲美(あけみ) (1)

 あたしら「魔法使い」系の「異能力者」なら大概のヤツが知ってる、いくつかの「常識」が有る。

 例えば……誰にでも「気」や「霊力」「魔力」だのと呼ばれる力を持ってる。そして、そこそこ以上の「魔法使い」系なら、相手の「気」「霊力」「魔力」なんかから、相手が同業かを見抜ける。

 それは、単なるその手の「力」の強弱から判断するんじゃなくて、「力」の「パターン」を元にしたパターン認識だ。武道をやってる奴が相手の所作から腕前を推測出来たり、かなり重症の格闘技オタクが選手の筋肉の付き方から、打撃系か組み技系かを見抜けるのに近い。

 だが、こいつは……おそろしく、その手の「力」を読みにくい。デカい「力」を持ってるのか、どんな「パターン」の「力」なのかも。視覚や聴覚に喩えるなら、そいつの姿だけがボヤけて見え、そいつの声だけが、何故か聞き取りにくいような感じだ。

 そして、もう1つの常識……「魔法」や「先天的その他の理由で修行なしに魔法に似た力を使える」タイプの「超能力」は、物理的な現象を起こすのが苦手だ。

 「魔法」は基本的に対生物・対霊体に特化したモノで、例えば、人間のような生物の体や心に干渉してダメージを与える事は可能だが、生物じゃない単なる物体を破壊するような「魔法」は……フィクションの中にしか存在しない……筈だった。

 正確には、生物以外の物質に影響を与える「魔法」も無い事も無いが、例えば同じ位の素質のヤツ2人の片方が対生物特化タイプの「魔法」を、もう片方が物理現象を起こせるタイプの「魔法」を同じ期間だけ修行したとして、1人目が人1人を余裕で呪い殺せるようになった頃、2人目は蝋燭に火をともすのがやっと、って感じだ。

 そんな訳で一般人が「魔法使い」が本当に実在してるって知る遥か以前から、効率がクソ悪い物質操作系の「魔法」は廃れ始めていて、今や、そう云う「魔法」を使えるヤツは、日本全国で十人居ればいい方だろう。つい、さっきまで、そう思っていた。

 だが、目の前に居る……こいつは……。

「あのさ……ここに有るデータを盗めたら良かったんだけど……」

「生き残ってるここの職員にバックアップ媒体の保管場所を吐かせろ。最新じゃないにせよ、丸っ切り役に立たん訳じゃないだろ?」

 サーバールームを丸焦げにしたその男は……「鬼」の姿から人間の姿に戻りながら、そう言った。

 いや……たしかに、一般人から見れば「鬼」に見えるだろう。

 けれど……あたしら「魔法使い」系は、一応は……宗教・オカルト・その他の神話や伝説に関する知識も有る。

 そいつの今までの姿は……「鬼」と言うよりも……。

 一般的には、「鬼」とは、昔の人間が、たまたま良く似た姿だが起源や能力の源が全く違う変身能力者や妖怪古代種族系の連中を雑に一纏めにしちゃったモノだと言われてる。

 でも……こいつの、この姿。

 ひょっとして、こいつの先祖の姿を見た昔の誰かが……。

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