特務機動隊小隊長 木村正隆 (9)

「おい、何で、先に、それを言わない?」

 現場は、築五〇年を超える団地。

 到着した途端に運転手が後方支援チームにクレーム。

 どうやら、その団地付近には車をめられそうな場所が無いらしい。

「仕方ない。対象マルタイは、ここまで連れて来るしか無いな……」

 車を道路の路肩に駐車させ、俺達は、対象マルタイの自宅である団地に向かう。

「嘘だろ……これ?」

 部下達がボヤき出す。

 俺達が車を出た途端に雨が降り出したせいだ。

「作戦に支障は無い。続行だ」

 俺は部下達にそう命令する。

 やがて、団地の対象マルタイが居る棟の入口付近まで到着した時……。

「え……っ?」

「マ……ママ?」

 ゲリラ豪雨で、ずぶ塗れになった母娘連れらしい2名と遭遇。

「後方支援チーム。顔認識だ」

 ん?

「おい、後方支援チーム?」

「小隊長、通信エラー発生のようです」

 部下の松井がそう言った瞬間……遠くで落雷の音。

 このせいか? この雷が原因か?

 仕方ない。念の為だ。

 俺は、母親らしい女の脳天を警棒で殴る。

 続いて、娘らしいメスガキの腹に蹴りを入れる。

「拘束して放置。帰りに回収だ」

 俺は、悲鳴さえあげるすらなく気を失なった2名を指差して、そう言った。

「了解」

 俺の指示に従い部下達が母娘らしい2匹のメスの手足を結束バンドで縛る。

 ここの団地の住民は自称「関東難民」が多く、仮に、元からの大阪在住者だとしても、わざわざ、こんな治安の悪い場所に住んでいるなど……ついでとは言え、後で、少しお話をうかがった方が良いだろう。

 俺達は団地の階段を駆け上がり……。

「おかしいですよ」

 階段を登りながら……松井が、そう言った。

「何がだ?」

「通信です。最寄りの基地局までは電波は届いています」

 シン日本首都の警察その他の行政機構用の無線は……民間回線を使うなんて危ない真似こそやってないが、基本的な仕組みは、民間の携帯電話網と同じ筈だ。

 各端末から、行政機構専用の基地局までが無線通信で、そこから先は……光回線かメタル線かは知らないが、ともかく有線通信網だ。

「そこから先が通じなくなってるのか?」

「それだけじゃないです」

「何だ?」

「車とも通じなくなってます」

 今さら……そんな事を言われても……。

 その時には……俺達は、対象マルタイが住んでいる部屋の玄関ドアまで来ていた。

「その件は後で考えよう。突入準備だ」

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