第一章 人工ギフテッド ②

 ギフテッドとは、普通の人と比べて特定能力がずば抜けて高い人を指す言葉だ。例えば、一度見ただけで他国語を瞬時に理解できたり、難しい計算を楽々こなしたり、失敗を分析する能力が秀でていたり。そんな人をギフテッド、神からのギフトを受け取った者という。

 すなわち、人工ギフテッドとは読んで字の如く、人の手によって産み出されたギフテッドのことである。ただ、普通のギフテッドと違って、やや特殊な能力を有している場合が多い。


「人工ギフテッド!?」

「ちょっ、声でかいって」

「ああ、ごめんごめん」


 私は申し訳なさのかけらも無い謝罪を口にする。


「でも、よく人工ギフテッドがこんな辺鄙な学校を選んだね」

「ね、大阪とか名古屋行けばよかったのにね」


 亜季と意見が一致する。人工ギフテッドは日本を含めた各国が研究を進めてはいるが、ようやく安定した方法が確立したのがたったの5年前。それも完成までに数年単位を要するといった代物であった。今の日本には、100人強ほどしか居ないとされている。

 その貴重なひとりがたかが地方都市に転入してくるのだから、相当なワケがあるのだろう。


「やっぱりアレかな、世界を救うような重大な使命とかあったりするのかな」

「そんなのがあったらロマンあるんだけどねえ。ほら、私たちが寝てる間に人知れず化け物退治をしてたりさ。ロマンの塊じゃん」

「亜季、漫画の読みすぎ」


 話を振った自分が言うのもアレだが、亜季は漫画の主人公、特にヒーローに憧れている節がある。「世界が異能力者だらけになればいいのに」とは彼女の常套句である。

 そんな話をしていると、遅れていた電車の警笛音が遠くから聞こえた。


「まあ、どんな人工ギフテッドなのかはお楽しみだね」

「だね」


 ――やっぱり、食われたのかな……。改札に向かって駆け出す亜季に半歩遅れて、私は歩き出した。



 学校に着くと、予想通り1時間目の授業が既に始まっていた。遅刻仲間が多いのが救いではあったものの、国語の先生の機嫌は少し悪そうに見えた。

 私は今度は申し訳なさアピールをムンムンに醸し出しながら、教室後方の席についた。

 学校指定の紺色の通学鞄を床にそっと置き、筆箱やら教科書やらを取り出す。いつもの動作だが、関心はすっかり人工ギフテッドの方に向いていた。しかし、教室中をキョロキョロ見回すもそれらしき人は居なかった。


 そのまま何事も起こらず1時間目は終わり、15分間の休憩時間に突入した。会話のネタはもちろん、人工ギフテッドだ。


「なあ、今度のやつどんな能力を持ってるんだろうな」

「普通にIQとかそんなところじゃない?」

「俺、ギフテッドとか嫌いなんだよな。自分が劣ってるように思える」

「それはギフテッド関係ないでしょ」


 なんの変哲もない会話が繰り広げられる中、私はただ人工ギフテッドを待った。この休憩時間中に会える、そんな気がしたからだ。

 果たして、その勘は見事に当たった。教室前方の白いスライドドアがゆっくりと開けられ、初対面の人物が顔を出した。

 それが、私と人工ギフテッドくんとのファーストコンタクトであった。

 

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