ヒカリの怪獣、倒すべし

JS2K2X/

第一部 Encounter

プロローグ その名は『ヒカリ』

『なんという、なんという大きさでしょうか!まさに怪獣としか言えない大きさです!』

『巨大不明生物は横浜ベイブリッジを破壊し、なおも北上中です。以下の地域に警戒レベル5、緊急安全確保が出されています』


 その日、全てが変わった。


『巨大不明生物は東京都大田区、羽田空港に上陸しました。こちらは、上陸する瞬間の映像です』

『見てください!飛行機を軽々と持ち上げています!我々も危険なので避難します!』


 なんて言うと大袈裟だろうか。いや、そんなことはないと思う。


『自衛隊による駆除作戦が開始されました!』

『駆除作戦は失敗に終わりました。巨大不明生物は現在も都心方面に向け移動中です。周辺地域には多大な被害が出ています』


 それは、日本が、いや世界の構造がまさにパラダイムシフトした瞬間であった。


『巨大不明生物は港区高輪付近を移動中です。首都圏の交通機関は終日運行を見合わせています』

『東京タワーが!ああ!東京タワーが怪獣の手によって倒壊しました!』


 私が小学校4年生の時、日本のかつての首都・東京に巨大不明生物こと、怪獣が出現した。身長100メートル、巨大な尻尾を持ち二足歩行をするその怪獣は、人々を踏み潰し、橋を真っ二つに折り、超高層ビルを容赦なく破壊した。

 当然、自衛隊による攻撃作戦が幾度となく行われたが、それもことごとく失敗した。一説によると、核攻撃すら検討されたとの話だった。

 その怪獣はというと……


『巨大不明生物は東京駅付近で移動を停止しました』

『廃墟と化した丸の内ビル群の中に、怪獣の姿が見えます』


 どこかの映画のように、東京駅のど真ん中で活動を停止した。


 私はユーチューブの動画を渡り歩く。怪獣によりビルが一捻りされる瞬間や、どうやって撮ったのか、足元から股間を映した動画などがずらっと並ぶ。

 その中に、当時の首相による記者会見の映像があった。私はそのサムネイルをタップし再生する。


『この度の巨大不明生物災害によりお亡くなりになられた方に、心より哀悼の意を表します』


 動画の中の首相は淡々と不明を連ねた。死者数は不明、経済損失も不明、復興計画も不明……。

 ここまでならば、日本はともかく、世界が変わるまでには至らない。歩く災害が一国の首都を壊滅させた。それだけだ。直に首都は移転され、各国から援助がなされ、やがて復興する。

 しかし、話はそこまで単純ではなかった。動画の終盤、首相が言い放ったある『事実』のせいだ。


『巨大不明生物の背中には現在、笑顔を浮かべた人の顔が確認されています』


 人の顔。しかも笑顔なのだという。まるで怪獣に殺されたことを喜んでいるかのように、満足な生活を送っているかのように……。


 その怪獣に、『ヒカリ』という名称が与えられたのは、この約1年後であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る