第4話 タリスに到着

 やっと着いたよ。アレから歩くこと二時間。疲れは無いけど歩くと遠いんだなと思った。師匠のお遣いの時にはいつも空間魔法を使って近くまで来てたからね。


「おう、ハル。どうした? またお遣いか?」


 顔見知りの門番兵のナカスさんから声をかけられた。


「ううん、違うよ、ナカスさん。僕も成人したからギルドに登録して身分証を手に入れろって言われたんだ」


「おお! そうか十二歳になったか、おめでとうハル!」


「有難う、ナカスさん。それじゃ入るね」


 そう言って僕は街に入る。入って直ぐに見覚えのある騎士が居た。助けた馬車の護衛をしていた人だ。

 僕は素知らぬ顔でその横を通り抜けた。多分だけど声を頼りに探してるんだろうな。普段ならナカスさんは僕を見ても片手を上げて挨拶してくるだけだから。残念だけどあの声の主は守っていた馬車自体ですよ…… 言わないけどね。


 タリスの街にある旅神りょじんギルドに向かった僕はそこで登録手続きを行い身分証を手にした。


名前:ハル

年齢:十二歳

性別:男

保証:旅神ギルド(タリス支部)


 表にはコレだけしか出てないけど、裏には自分にしか見えないスキルが表記されている。固有スキルは表記されないけどね。だから僕の場合は生活魔法と空間魔法って書かれているよ。体術は表記されてない。二つした載らないからね。


 旅神ギルドは冒険者ギルドとは違って、旅から旅へと一定の居住地を持たない人たちの身分を保証してくれるギルドで、身証みあかしの水晶で犯罪行為を行っていない事が証明されたら銅貨五枚で身分証を発行してくれるんだ。

 何かの依頼をこなしたりしなきゃいけない冒険者ギルドと違って縛りがないから僕は最初から旅神ギルドで身分証を作る予定だったんだよ。

 

 さてと、これで他の領地にも行けるし、他国にも出られるようになったよ。マリーナ姉さんは隣国に居るからどうしても身分証が必要だったからね。

 まあ、空間魔法で行けばバレなければ大丈夫だけど、もしもバレたらマリーナ姉さんに迷惑をかける事になるからね。

 取りあえず今日はタリスの宿に一泊しようかな。急ぐ必要も無いしね。お金はたくさんあるから大丈夫だし。


 僕はタリスで一番と言われる宿【森の小人】にやって来た。


「おや、ハル、いらっしゃい。泊まりかい?」


「うん、ネルさん。一泊したいんだけど部屋はある?」


「ああ、大丈夫だよ。でも今日はお貴族様が泊まられてるからね、注意しておくれよ」


 ああ、何とか子爵家のご令嬢だな。


「うん、分かったよ、ネルさん」


「大きな声じゃ言えないけど、何でも王太子殿下に色目を使って殿下の婚約者様からの訴えで国王様から国外追放を言い渡されたらしいよ…… でも私にゃとてもそんな事をしでかしそうなお嬢さんには見えないけどね、おおかた浮気者の王太子殿下に言い寄られてスゲなく断ったからってトコだと思ってるんだよ」


「シーッ、ネルさん。こんなとこでそんな事を言っちゃダメだよ」


「ハハハ、ハルに説教されちゃったね。そうだね、黙っておくよ」


 僕は鍵を受取り、何時もの部屋に向かった。部屋の扉を開けようとした時に隣の部屋の扉が開いた。そこには、あの時の中々に可愛い娘が居て、僕を見るなり、


「アラ? 貴方は私たちの馬車が襲われている時に大木の上で震えていた方ね。貴方も無事で良かったわね」


 と声をかけてきた。アレ? 僕はあの時に気配を遮断していたから見られてる筈はないんだけどな?

 僕の顔が疑問顔になっているのを見た娘は、


「ああ、ゴメンナサイね。隠れていたから黙っていた方が良かったのかしら? 私のスキルで貴方が見えてしまったから、つい声をかけてしまったの。私は今から隣国へと追放されるメイビー・グローデンといいますわ。もしも良かったら貴方のお名前も教えてくださるかしら?」


 スキルでバレたのかぁ! 僕の空間魔法もまだまだだな…… もっと研鑽を積まないと。


「えっと、僕はハルと言います。平民ですので口調が失礼に当たるかも知れませんがご容赦下さい」


「アラ? そんな事はないわ。貴方の言葉は十分でしてよ。ハルはどうしてあんな所にいたの?」


「この街に来る途中で疲れたから木の上で少し休んでたんです。そしたら下に盗賊たちがやって来て、降りる事が出来なくなってしまって……」


 口からでまかせを言うけどアッサリとメイビー嬢は信じてくれた。


「まあ、災難でしたわね。でも、私たちも謎の人物によって助けられたし、貴方も無事にこの街に来れたのだから、お互いに運が良かったですわね」


 そう言ってコロコロと笑うメイビー嬢はとても可愛らしい。うん、前世で三十二歳まで生きてなかったら一目惚れしてたね。


「ハルはこの街に何泊しますの?」


「僕は今晩だけです。明日には隣国にいる姉を訪ねて旅立ちますから」


「まあ、隣国に行くの。それならば、ハルが罪人である事を気にしないのならば、私の馬車で一緒に行きませんこと? 歩くよりかは早く着きますわよ」


 いや、ド平民の僕が一緒に乗るなんて護衛の方たちが許してくれないでしょう。僕がそう言うと、メイビー嬢は、


「ああ、あの方たちはこの街までですの。明日からは私と罪人である私に着いてきてくれるメイドの二人きりになるのですわ。ですので何の問題もありませんわよ」


 と、言い切ったところで再び扉が開き、そのメイドさんであろう方がメイビー嬢を叱った。


「お嬢様、ダメですよ! 何処の馬の骨かも分からない、しかも平民の少年を共にしようなんて!!」


「あら、マリア、でも貴方も馬車は動かせないでしょう? ハルは御者は出来ますかしら?」


「はあ、まあ出来ますけど……」


「ほら、マリア。コレで馬車で移動出来ますわ。ハル、報酬はそんなに多くはお支払い出来ないけど、隣国まで御者をお願い出来ますかしら?」 


 うーん、成り行きに任せてもいいか。メイドのマリアさんと二人きりだと危ないだろうしね。隣国までは馬車でも五日はかかるし。


「お二人が構わないなら、僕は御者として働かせて貰いますよ」


 僕がそう返事をしたら、マリアさんはまだブツブツと言ってたけど、メイビー嬢が


「では、決まりですわ! 明日は六の刻午前六時に出発する予定ですの、よろしく頼みますわね、ハル」


 と鶴の一声を放って僕は子爵家ご令嬢の御者をする事が決まった。後ほどマリアさんに捕まり、


「いい! お嬢様に変なことをしたらちょん切るからね!!」


 と脅されたけど…… 僕はそんな事しませんよ、マリアさん……

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