第3話 街へと向かう途中で

 取りあえず一番近い街【タリス】を目指して歩き出した僕は道に聞く。


「おーい、街道ロード様、この先に魔物は居ますか?」


『うむ、我は偉大なロード街道なり! 子供よ、安心せよ! この先に魔物は居らぬ!』


「お教えくださり有難うございます、街道ロード様」


 周りには誰も居ないから僕は声に出して会話をしている。すると、街道に落ちてる小石が喋り出す。


『ケッ、なーにがロードだ、バカヤロー! オレたちがいなけりゃ道にもならねぇヤロウが!』


 基本的に小石は口が悪いが、それをみんなが知ってるから相手にしない。


『オウオウ! ダンマリかよ、小僧まで!』


「僕は君と会話してた訳じゃないからね、小石くん」


『ケッ、バカヤローが、この先に魔物は居なくても、五千メタ先には盗賊が居るぞ、バカヤロー! 俺様の兄弟がそいつ等に踏まれて愚痴を伝言リレーしてきやがったぞ、バカヤロー!』


「おお、ホントかい? それは貴重な情報だよ、有難う、小石くん」


『ケッ、褒めたって何も出ねぇぞ、バカヤロー! ついでに教えてやらぁ! あと少しで小僧の前を走ってる馬車が襲われらぁ!!』


「そうなんだね、それじゃ、僕も先を急いでみるよ」

 

 小石との会話を終えて僕は空間魔法で前方を探る。すると、僕の二千メタ先を馬車が走り五千メタ先には盗賊が居た。取りあえず僕は盗賊が居る近くにある大木の上に転移して、馬車が来るまで様子見をする事にした。

 盗賊は二十三人居る。馬車には護衛として騎士が五名いたけど、危なくなったらここから手助けしようと思う。


 そうして待つこと十五分…… ユックリとした速度でコチラに向かってくる馬車と騎兵が見えだした。まあ、僕は大木の上からだから見えてるけど、盗賊たちにはまだ見えてないだろうね。でも、


「親分、かなり近づいてきましたぜ! 馬車の車輪音が聞こえてきましたぜ」


 地面に耳を当てた盗賊の一人がお決まりの髭面の大男にそう告げている。耳が良いんだね。


「そうか、野郎ども、準備しろいっ!!」

「へい! 親分!」


 おや、けっこう統率が取れているね。親分の号令のもとに左右に五人ずつが移動して弓矢を構えている。正面の街道には親分を含めて十三人が立ちはだかっているよ。その内の五人が弓矢を構えている。

 正面に注意を引きつけておいて、左右からの弓矢で騎兵を攻撃して護衛を減らすつもりだね。


「いいか、お前ら、コレが成功したらジステン伯爵様から金貨五十枚の報酬が出る。お前らにも一人一枚はくれてやるから気合入れろよ!」

「へい! 親分!!」


 貴族がらみか……。面倒だから僕は姿を出さないように手助けしよう。取りあえず、馬車や護衛を囲むように矢や他の攻撃を通さない結界を張ってあげた。


 盗賊たちが見えたのだろう。馬車がとまった。そして護衛している騎兵から一騎が前に出た。


「コチラはグローデン子爵家の者だ。お前たちは何者だ?」


「俺たちはなぁ、泣く子も黙る大盗賊スレナス一家よ! 残念だがお前らはここでくたばって貰う! おい、野郎ども、ヤッちまえ!」


「へい! 親分!」


 その言葉とともに前方の盗賊たちが矢を射かける。騎兵は慌てて馬車まで下がり、抜剣して飛んでくる矢に備えたが、矢は見えない壁により弾かれた。


「クソッ! 結界か! こうなりゃ肉弾戦だ! 行くぞっ!!」


「へい! 親分!」


 矢が弾かれたのを見て左右に潜んでいた盗賊たちもそれぞれの得物を持って飛び出してきた。僕はそれを見てスキルを使い、馬車に喋らせる。


『大丈夫だ、今の位置に留まっていれば盗賊たちは手も足も出ない』


「だっ、誰だ? 何者だ?」


 騎兵たちが抜剣したまま問いかけてくる。


『味方だ。多勢に無勢だろう。手助けしてやる。アチラの攻撃は君たちには届かない。だが剣が届く範囲ならば君たちの攻撃は盗賊たちに届く。そのように結界を張ってあるから今の場所を動かずに盗賊たちに対処すればいい』


「何者かは知らぬが感謝する。聞いたな、我らはこの場で馬車を守るのだ!」


 護衛のリーダーは信じてくれたようだ。盗賊たちは得物を手当たりしだいに振っているが攻撃は届かない。


「クソッタレ! どうなってやがる! こんな結界は見た事も聞いた事も無いぞっ!?」


 護衛に当たる前に攻撃が弾かれ、逆に護衛からの攻撃が体に届き、一人、また一人と盗賊たちは倒れていく。二十三人居た盗賊たちも残り十人となった時に親分が撤退を指示した。


「おい! 野郎ども、撤退だ!!」

「へい! 親分!」


 すたこらさっさと逃げ出す盗賊たちに構わず、護衛たちは倒した盗賊にとどめを刺して安全を確保する。 


「助太刀、感謝する! 馬車に乗っている者も礼を述べたいと言っている。出てきては貰えないだろうか?」


 僕はそのまま馬車に喋らせた。


『礼は要らぬ。無事に切り抜けたならばそれで良い。私は先を急ぐのでな、このまま失礼するよ』


「お待ち下さい! 助けていただいたのに、礼もせぬとは貴族の端くれにいる者として恥ずべき事になります!」


 馬車から一人の少女が飛び出してきてそう言う。中々に可愛い娘だね。僕よりも少し年下かな?


『何度も言うが私は先を急ぐ。また何処かで会う事もあろう、道中、気をつけてな』


 ソレだけ言わせて僕はスキルをオフにした。自分自身には空間魔法を使って気配遮断してるから気づかれる事はない。暫く動く気配がなかったけど、ようやく護衛になだめられて少女が馬車に戻り、動きだした。


「やっと行ったよ。さてと、僕もそろそろ移動しよう。でもさっきの護衛の言葉はおかしかったよね。馬車に乗っている者って…… 普通はあるじとか子爵家って言ってたから、ご令嬢のなになに様って言うと思うんだけど…… まっ、考えても分からないからいいか」


 僕のスキル【生命なき者との会話】は、練度が上がって自分の言いたい事を言わせる事も出来る。今回はそれを上手く使えたよ。

 さあ、タリスへ行こう。でも、貴族ってあんな少女が少ない護衛で旅に出ないとダメなんだね。


 僕はそんな事を考えながら、てくてくとタリスに向けて歩き出した。

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