第49話 ラヴェルサの領域へ、突っ撃~!


 俺達はリグド・テランの台地を疾走していた。


 みんなが俺とイオリのために道を作ってくれる。

 それなのに、先に出発した部隊の背中が見えてきている。


 双星機ヘレファナーレの機動力は凄まじい。

 機人を乗り換えてきたからこそ、違いが分かる。

 一歩一歩が力強く、踏み込むたびに大地を揺るがしてる。


 現在は俺とイオリが交代で操縦して走らせている。


 戦闘時にはイオリがメインだけど、移動中は体力面での負担軽減を最優先。

 といっても、そんなに変わらないんだけどな。

 何にも考えないってのは案外難しい。


 本来であれば、もっと双星機に乗ってテストしてから本番を迎えるべきだろう。

 イオリと二人で息を合わせる練習だって、やったほうがいいに決まってる。


 それができなかったのは、セイレーンからの情報により、スケジュールを早める必要があったからだ。


 マグレイア率いるリグド・テラン全軍が、まもなく教会勢力に総攻撃を仕掛けるという。両軍がぶつかれば、大きな被害が出て、向こう何十年と遺恨が残るかもしれない。そうなる前に作戦を始めなければならなかったんだ。


 仮にラヴェルサを抑え込むことができなくても、アルフィナを救出すれば、ラヴェルサは、さらに外に広がっていく。もはや戦争どころではなくなるはずだ。


「凄い、早~い!」

「そっか、レトは聖王機に乗ってなかったもんな」


「二人は、いつも一緒に乗っているのか?」

「違~う! 一緒に戦ってるの!」


 レトのやつ、わざわざ、前に座ってるイオリのとこまで行きやがった。

 きっと得意げな表情をしてるんだろうな。

 でも、言ってることは、完全に正しい。


「そういえば、イオリに聞きたかったんだけどさ。前に言ってたよな? 後ろからの攻撃を感じろって。ホントにそんなことできるのか?」


「なんだ、そのことか。あの時はすまなかったな。随分、無茶なことを言ってしまった」

「いや、いいんだけど、イオリはできるんだよな? どんな感じなんだ?」


 俺にはできないけど、イオリの感じていることを理解する必要があるからな。


「アルフィナ様と初めて聖王機に乗った時に、これが意志の力なのかと気づいたんだ。それまで違和感としか捉えていなかったモノを、はっきりと感じられるようになった。それ以来、敵の位置をなんとなく把握できるようになった。聖王機の操者に選ばれた大きな理由だろう」


「それって、頭の中に大きさとか色が違う光の点が点滅してる感じ?」

「色も大きさも分からないがな」


 それって、レトと同じじゃんか。

 イオリは、レトレーダーを持ってたのかよ。

 武術的な鍛錬によって得たモノだと思ってた。


「私は分かるけどね!」

「さっすが、レトさん!」


 なんだか、イオリの背中が笑った気がした。

 ちょっと、レトさん! 

 そのポジション、代わって!


「お前たちは、随分、賑やかに戦ってたんだな」

「うらやましい?」

「そうではない。ただ、戦いの素人だった剣星が、どうやって強くなっていったのか、おぼろげながら分かった気がするよ」


 レトが口に手を当てながら、こっちを見て笑ってる。

 俺が強くなった理由は、そうじゃないって言いたいんだろう。

 けど、レトのおかげってのも、あながち間違いじゃないと思ってるので否定しない。


 なんだか、いい雰囲気だ。

 油断してるわけじゃなくて、メリハリがあるっていうか。


 俺たちはリラックスしたまま、リグド・テラン領内を進んでいった。

 イオリにレーダーの索敵範囲を聞いて、レトが送ってくる映像も小さく調整してくれた。だから、俺は今、イオリとほとんど同じ光景を見ているんだ。


「剣星」

「わかってる」


 ラヴェルサの群れを感知した。

 すぐさま右手を挙げて、周りに知らせる。


 ここは俺たちに任せてくれってな。


 発見したのは、三機のラヴェルサ。

 奴らもこっちに気づいて寄ってきた。


「イオリ、任せたぞ!」

「ああ、剣星を信じてるからな!」


 普通に考えれば、横にずれて、一機づつ相手するのが定石だろう。

 だが三方から向かってくる奴らには、ほんの少しだけど距離に差がある。

 イオリなら、そのわずかな時間で破壊していくはずだ。


「行くぞ!」


 まずは、左端の機人が相手だ。

 双星機を加速させて、一気に接近する。

 加速力が半端じゃない。


 ところが、ラヴェルサは双星機の動きに反応して、槍を向けてきている。

 それだけ、霧が濃くなっているってことだ。


 イオリは、そんなことお構いなしに突っ込んでいく。

 でも、それは俺も想定済みだ。


 双星機は右の袈裟切りを繰り出して、左足を軸に半回転。


 まず一機目、撃破。


 さらに半回転しながら、剣を左手に持ち替える      。

 裏拳を打つように剣を振るった。


 二機目も撃破。


 直後、三機目の攻撃が迫っていた。


 だけど、これも予測済み。

 攻撃してくる剣ごと、胴体を切断した。


「イオリ、まだ下半身が動いているぞ」

「しつこい奴らだ」


 最後の機人は足だけになっていたのに、こちらに向かってきていた。


 やはり、霧の影響なんだろう。

 第八エリアの時より、反応が早いし、装甲も頑丈だった。

 双星機はそれを大きく上回ったといっていいだろう。


 制圧は、あっという間に完了した。


「剣星。これは、かなり厳しい戦いになるかもしれないぞ」

「ああ、フォルカたちはともかく、ロジスタルスの連中にとっては大変そうだな」


 恐らく、多くの操者が亡くなるだろう。

 彼らも今の戦いを見て、感じたかもしれない。


 だけど、ビビれば自分だけでなく、味方を危険に晒すことになってしまう。

 どれだけ平常心で戦えるかが、カギになる。

 あとは、キルレイドさんの統率力に期待するしかない。


「だが、剣星は完璧だったぞ。私を見てたというのは本当だったな」


 イオリは自分で言ってて恥ずかしいのか、声が小さくなってる。


 確かにイオリの動きは、俺の想像通りだった。

 イオリの考えが全て分かるわけじゃないけど、戦闘なら対応できる。

 上手くできたようだ。


「これが双星機、いや、複座型の機人の真の力なのか」


 驚いたのは俺も同じだ。

 初めて聖王機に乗った時より、さらに鋭く反応していた。

 これが、二人の意志が合わさった力なのか。


「俺たちの反応のほうが、負けている感じだよな」

「慣れてくれば、もっと良くなる可能性はあるが、逆効果になることも考えられるぞ」


 今はお互いのイメージが同じだけど、スペックが変われば、動き方も変わる。

 俺とイオリもイメージが合わなくなるかもしれない。

 複座型の機人にとっては、小さくないリスクだ。


 それに、少しだけど、微妙に違和感を覚えたんだ。


 最新型の聖王機とは年代も違うから、体型もわずかに違う。

 おやっさんズが仕上げてくれたけど、元々の形を大きく変えたわけじゃない。

 慣れてくれば、問題ないかもしれないけど、万全とは言い難い。


 装甲は恐らく俺の強度そのままだと思う。


 ラヴェルサを切断した時の感触は、反応の良さほどの変化は感じなかった。

 RSカスタムよりも赤光晶が多く含まれているから、その分、強度はあるだろうけど、流石にイオリの分も足し算というわけではなかった。


「剣星、周辺の味方機の動きが妙だ。最前線は接敵したのかもしれない」


 イオリの言葉通り、味方機は最前線に向かって、どんどん加速している。

 俺達に無線は通じないけど、きっと、救援要請があったはずだ。


 既にリグド・テランのだいぶ奥地まで進んでいる。

 先ほど東に転進したから、このまま真っ直ぐ進めば、まもなくラヴェルサの地下プラントに到着する頃だ。敵の数も増えてくるだろう。


 俺たちの第一目標はアルフィナの確保だ。


 先に地下プラントを破壊した場合、ラヴェルサが暴れまわってしまうことが予想される。最終的にはそれでもいいけど、アルフィナを救出する前に暴れられたら、地下プラントが崩壊するかもしれない。アルフィナが無事でも、物理的に彼女の元に辿り着けない可能性がある。


「ケンセー、みんながラヴェルサと戦い始めたよ!」


 レトレーダーは、イオリよりも広い範囲をカバーできる。

 流石に無線より広く、とはいかないけど、かなり遠くまで分かる。

 戦闘前なので、俺へのレーダーは必要ない。

 遠くを見たり、ピントを合わせて俺に映像を送ったり、レトはホントに大変だ。

 混乱しないで、よくやってくれてる。


「作戦通り、我々は地下プラントに突入するぞ!」

「おうっ!」


 みんなが戦っている横を通り過ぎて、目的地に向かう。

 かなりの大群だけど、信じるしかない。


 それは分かってるんだけど、つい気になってしまう。


「ケンセー、左右を見なさい!」


 レトに言われたとおりに首を振る。

 リンダたちが近づいてきていた。


 あいつら全員、指先を前方に向けている。

 ここは自分たちに任せろ、って主張してるみたいだ。

 無線がなくても、考えてることが手に取るようにわかる。


「俺の迷いなんて、お見通しってことかよ」

「いい仲間を持ったな、剣星。彼らの想い、無駄にできないぞ」

「ああ、行こう!」

「ちょっと待って! 数は少ないけど、遠くから大きいのが来るよ! この反応、どっかで会った気がする……」


 レトが頭を抱えて、クネクネしている。


「このままだと、先行してる部隊は横から貫かれるぞ!」


 味方部隊は、ほとんどが正面のラヴェルサに意識を集中させている。

 新たな敵の出現に対応できるとは思えない。


「イオリ、俺たちが向かうぞ!」

「ああ、もちろんだ!」


 俺たちがアルフィナの元に行く間、退路を確保するのが彼らの任務だ。

 ここでやらせるわけには、いかないんだよ。


 双星機が全速力で駆けると、まもなく、レトが感じた部隊が見えてきた。

 なるほど、道理でレトの記憶に残ってたわけだ。


「剣星、あの機人のこと、知ってるのか?」


 イオリは黙り込んだ俺を不審に思ったのだろう。

 でも、大丈夫だ。


「俺が殺したグルディアスの姉ちゃんだよ」


 イステル・アルファ部隊に先駆けて、突き進む漆黒の機人。

 乗っているのは、間違いなく、あの女だろう。


「では、奴がマグレイアか……」


 何故、ここにいるのかは分からない。

 でも、倒さなければならない敵には違いない。

 むしろ、少数の護衛しかいない状況は、またとないチャンスだ。

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