第20話 この傭兵団色々濃すぎ。まともなのは俺だけかよ!


 四度目の発掘屋護衛任務を無事に終え、俺たちは帝都に戻ってきた。


 ラヴェルサとの戦闘もなく、リグド・テランも国境侵犯してきていない。

 発掘屋は順調に仕事をこなしたようだ。

 団長は自分たちもラヴェルサの機人を回収したいとか言ってたけど。

 そうは上手くはいかない。


 実は、俺自身も戦ってみたい気持ちはある。

 別に戦闘狂ってわけじゃないけど、自分の成長を確かめたいんだよな。

 ラヴェルサは無人機だけだから、遠慮なく叩きつぶせるし。


 いくら演習場で剣を振るってても、実戦で活かせなかったら意味がない。


 敵がいないからといって、戦場で暢気に素振りしてたら、警戒に穴が空いて団長から大目玉だろう。


「今日はここまでにするか、剣星」

「うっす、お疲れ様っす」


 格納庫で機人のチェックを終え、団長に連れられて晩飯をおごってもらった。

 俺よりも早くチェックを終えたリンダは早々に別行動をとっている。

 いつものことだ。

 酔っ払いの相手をするのは嫌だろうからな。


「明日はどうするつもりなんだい? また騎士団の演習場に行くのかい?」

「まあ、そのつもりっすけど。なんかあるんすか?」


「んん、たいしたことじゃないさ。しっかり勉強してきな。元気が有り余ってるからって、夜中に自家発電するんじゃないよ」

「しませんって!」


 ったく、何言ってるんだか。

 そんなことしませんよ。

 換気のいい部屋じゃないし。


 自室への帰り道をゆっくり歩く。

 電力が豊富だから街中は夜でも明るい。

 そのおかげかは分からないけど、人通りが少ない割に治安は悪くない。

 散歩にはちょうどいい静けさだ。


 最近では店員に頼んで、飯の途中から密かにノンアルコールに変えてもらってるから、飲む量が減って、だいぶ体調が良くなってきた。


 もしかしたら、毎日の訓練の賜物かもしれないけど。

 鉱山で労働してた頃とは栄養状態も違うし。


 酔い覚ましの為に、すこし遠回りして帰ることにした。

 黙々と歩くのもなんだから、簡単に世界の情勢について、おさらいしておこう。

 最近は詰め込みすぎて、こんがらがってきてるし。

 なんだか、大学の試験期間よりも頑張ってる気がするな。


 この辺りの地域は、大きく分けて三つの勢力に分かれているんだったよな。

 実際にはもっとあるんだけど、とりあえずの勢力としては三つだ。


 まず、聖女を崇め奉るルーベリオ教会の影響の強い地域。


 俺が住んでいる神聖レグナリア帝国もそこに含まれる。

 実際に住んでいるから他よりはちょっとだけ詳しい。

 この国は帝国って名前の割には、イメージほど国土は広くない。

 ただ昔からある由緒正しき血筋らしいってだけ。


 国軍もそれなりの規模。だけど、現聖女のアルフィナの生誕地であるため、教会の本部がやってきて、それに伴って現在進行形で発展していってる。初代聖女アレクサンドラの生まれ故郷でもある。


 ラヴェルサの領域の東側には、五つの小国が集まって協力しあっている。それぞれがラヴェルサの領域と接触しており、帝国はその一番南の位置だ。全ての国にルーベリオ教会の支部が存在し、過去の聖女は全員、このエリアから誕生しているそうだ。


 一国の力はそれほどでなくても、聖女の名の元に結束して大きな力になってる。現在帝国には隣国から人が流れて来てるらしいけど、この辺りの人たちは人種的に大きな違いがないので俺には見分けがつかない。こっちの世界の人だったらまた違うのかもしれないけど。小さな欧州連合EUみたいな理解でいいんだろうか?


 教会勢力と対峙しているのがラヴェルサであり、それと連携して動くのがリグド・テランだ。教会勢力の西部にラヴェルサの領域、そのさらに西側にリグド・テランが位置している。リグド・テランと神聖レグナリア帝国は南部で国境が隣接している国同士でもある。両国は現在でも緊張関係にあるが、リグド・テランと直接戦ったのは百年以上も前のことらしい。


 ラヴェルサは地下プラントが暴走して以来、世界の敵として考えられているけど、何故かリグド・テランとは戦わず、教会勢力とだけ断続的に戦争を続けているらしい。


 そして神聖レグナリア帝国の南西側、リグド・テランの南にあるのが、スイゼスたち鉱山の仲間が向かった自由都市同盟ロジスタルスだ。


 その名の通り、各都市は政治的に独立しており、様々な人種が混在しているという。リグド・テランの侵攻を教会勢力との同盟で抑止してるって話だから、それほど大きな軍事力ではないのだろう。


 過去に一度だけラヴェルサとの大きな戦いがあった影響で、装甲機人がそれなりに埋まっているらしい。ただ全体としては他国に対抗できるほどではないので、機人を他国に流出させないようにしている。そのため発掘作業は国が主導しており、教会勢力ほど傭兵の数も揃っていない。




 だいたい、こんな感じだったよな。


 頭使ってたら小腹が空いてきたな。

 ああ、ジャンクな味が懐かしい。

 夜食にラーメンとか食いてえな。


 ん? 俺の部屋の前に誰かいるな。


「剣星さん、ちょっといいですか?」

「ああ、うん。ここじゃなんだし、中に入りなよ」

「はい、失礼します」


 扉の前にいたのは、同じルクレツィア傭兵団のフォルカだ。

 彼とはチームが違うから、ただの顔見知りに近い関係だ。

 いったい何の用事だろうか。


 フォルカは同い年のリンダとルシオみたいにトゲがない。

 それだけでも評価してる。

 だからといって、夜中にいきなり来るのはちょっとな。

 もしかしてコイツ、俺の事……いや、その考えは怖いからやめよう。


「それでどうしたんだ?」


 フォルカは黙ったまま俯いて、中々話しを切り出さない。

 元々仲が良いわけでもない関係だから、仕方ないっちゃそうなんだけど。


「あの、剣星さんてウチに初めて来たときから、ルクレツィア団長と仲が良かったですよね?」

「仲がいいっていうか、良くしてもらってる、のかな?」


 俺がここに来るまでのことは知らないけど、帝都に来てからは、団長とほぼ毎日のように飲んでいたのは事実だ。おかげ他の傭兵団とも少しだけ横のつながりができた。


「単刀直入に聞きますけど、団長と付き合ってるんですか?」

「はぁ~~?! ないない、それは絶対ないって」


 大人しい顔して、いきなりブッこんできやがった。

 何をどう理解したら、そんな答えに行きつくんだよ。

 だいたい俺の好みは、まあ、それはおいといて。


「どっちかっていうと、乱暴に扱われてるし」

「でも今まで団長は、カラルド副長とも二人で飲みに行ったことないです」


 そうなのか?

 そうかもしれないけど。

 つーか、何気に断言してるぞ。

 コイツ、ストーカーか?


「それは田舎から出てきた俺に色々教えてくれようとしてるんだろ。団長が親切にしてくれてるだけだから。絶対そうだから、うん」

「でも……」


 何故ほとんど話したことのないフォルカ少年と、こんな話をせにゃならんのだ。


「ひょっとしてフォルカこそ、団長のことが好きなんじゃないのか?」


 ぐはぁ! 


 なんつーこと聞いてるんだ、俺は。

 別に恋バナがしたいわけじゃねーぞ。

 

「ぼ、僕がですか?! そんなんじゃありませんよ! だって僕は……」

「だったら話は終わりだ。とにかくこの話はもう終わり!」

「あ、あの、もう一つだけいいですか?」


 コイツ、何気にずうずうしいな。

 おどおどしてるのに、はっきりと主張してくる。

 まあ、そうじゃなきゃ傭兵なんて危険な職業やってられないか。


「一つだけならいいよ」


「団長って僕の事好きだと思います?」

「知るかっ!」


 マジで知らない。

 だって一回も話題になってないから。

 可哀想な奴め。


「それじゃ、夜分に失礼しました」

「ああ、うん、お休み。気を付けてな」


 ようやくフォルカを追い出せた。

 ホッと一息と思ったら、クスクス笑う事が聞こえてくる。

 声の主はリンダだった。


「こんな時間に男同士で何やってるんですか~?」

「何もしてねーよ」

「ふ~ん、つまんないの」

「お前こそ、こんな夜遅くに何やってるんだよ。若者はさっさと寝なさい」

「うっわ、じじ臭~い。でも、特別に教えてあげよっかな~」


 リンダはすげーむかつく表情で言い放った。

 単体で見れば愛嬌があるんだけど、なんとなくいらつく。


「実は~副長と食事にいって~、まあ色々とね」

「いきなり話を端折ったな。色々嘘っぽく感じるぞ」

「む~、でもご飯にいったのはホントだもんね~」

「気を付けて帰れよ」

「ちょっとくらいは聞きなさいよ! 初めて二人きりで食事してくれたんだから」

「はいはい」


 ったく、青春真っ盛りだな。


 それにしてもカラルドさん、ホントにリンダと飯いったのかよ。

 アイツ十七歳だけど、結構童顔だぞ。


 ひょっとしてロリコンなのか?

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