第15話 量産機だけど専用機?!

 

 講義と特訓を終えた俺は、団長に連れられて大衆食堂に向かった。


 基本的に危険な城壁側には貧乏人や傭兵が多く、そこから遠くなるほど金持ちや貴族がいる。


 よって、俺たちが向かうのは城壁沿いにある店で、他の客も傭兵ばかり。

 そこで少し遅い飯を食った。昼飯は焼きうどんっぽい何か。


 この辺りの土地には小麦っぽい何かの畑があるので、パンや麺類の種類が豊富だ。製粉所も近くにある。


 といっても、機械で粉にするわけじゃない。

 昔ながらの水車小屋の仕組みの最後の部分だけを使ってる感じ。

 人力モーター入りの石臼を足で触れて、世間話をしながら回してる。

 これを人力と言っていいのか正直微妙だけど。


 驚いたのが、俺より筋骨隆々な団長も食べる量は殆ど変わらないってこと。

 その代わりに間食を何度も食べる。

 操者は体が資本ではあるけど、機人を動かすと結構脳が疲れるらしい。

 そのせいで甘い物を食べるので、操者は虫歯が多いとか。


「っし、そろそろ完成してるかもね」


 団長は席を立つと、ニンマリ俺を見てきた。


「そんなに楽しみかい?」

「もちろんっすよ」


 鏡に映った俺の顔は、気持ち悪いくらいニヤけていた。

 なるほど、これは分かりやすい。

 でも自分の機人なんだ。

 そりゃ嬉しいに決まってるさ。

 格納庫に到着すると、メカニックのおやっさんが俺を見つけて手招きしてきた。


「おう、ちょうどいいところに来たな!」


 団長に促されて中に入る。

 格納庫の奥から見つめてくる俺だけの機人。


「これが俺の機人なんですね」

「すまねえな。予算の問題でかっこ悪くなっちまってよ」


 この機人は形こそ他の機人と変わらないけど、装甲の色が全然違う。

 茶色で揃えられているルクレツィア傭兵団の機人とは全然違う。

 俺の機人は継ぎ接ぎだらけで十色以上のカラフルさだ。


「いや、これ最高じゃないっすか!!」


 まさに俺だけの機人って感じ。カスタム感がたまらない。


「おっ、そういってくれると嬉しいぜ。見た目はアレだが、中味はきっちり仕上げたから心配いらねぇぞ」


 おやっさんの話によると、この機人は俺のエクトプラズムに耐えられるように、当初の予定よりも高品質なラジウスを用意してくれたらしい。そのため予算がカツカツになってしまい、装甲は他の傭兵団からジャンク品を安く買い集めて組み立てたそうだ。そのせいで塗料の代金すら残っていないと。


「おやっさん、ウチの機人って正式な名称あるんすか?」

「んん? ああ、リンクスって呼んでるぜ」



 そうか、よしっ!!



「お前は今から、リンクスKカスタムだっ!!」


 よろしくな、相棒!!


「何がKカスタムだい、馬鹿!」


 団長が後ろから頭をはたいてきた。

 軽く叩いただろうに結構痛い。


「何するんすか、団長」

「新人が調子乗ってんじゃないよ。そういうのはちゃんと戦力になってから言うんだね」

「いやいや、やれますって! こないだだってちゃんと倒しましたよ」


 確かに最初乗った時は全然だったし、聖王機の時もこけまくったけどさ。

 それでも倒したことに変わりはないんだ。


「い~や、違うね。あんたが乗ったのは複座型だ。素人がいきなり思うように動かせるもんか」

「そりゃそうだな」


 なんか、おやっさんも普通に納得してるし。


 んん?


 もしかして団長、おやっさんに話しちゃってる?!


「ってか、おやっさん。俺が聖王機に乗ったこと知ってるんすか?!」

「馬鹿剣星」


「いや、田舎から出て来て、いきなりラヴェルサを倒したとは聞いていたし、それなりの機人を用意してくれとは言われたが、まさか聖王機に乗っていたとはな。確かにそれなら団長に期待されるのも納得できるってもんだ」


 …………あれ?


 団長、大事なことはちゃんと隠してた?

 もしかして俺が自分でばらしちゃった?


「それは、ばらすなっていっただろ!」

「耳は痛いですって、団長」

「おやっさんは一番の古株だ。それに整備だから、あんたの能力はどうせ分かるし、口も堅い」

「だったら叩く事ないじゃないっすか」


「あんたの迂闊さを諫めてるのさ。ったく、他の団員に知らせるつもりはないから、剣星、あんたもくれぐれも気を付けるんだよ、いいね!」


「うす。でも、ちゃんと一人で倒したんですって」

「複座型ってのはね、本来は二人で動かすものなんだよ。二人の息があってこそ、最大の力を発揮できる。あんたは相棒と同じこと考えていたって自信を持って言えるかい?」


「いや、それは」

「どうせ、あんたの未熟な想像力を、相棒が補ってくれたんだろうさ」


 そういえば、アルフィナに聖王機に乗ってくれって言われた時、何も考えずに乗ってるだけでいいとか言われたような。


 もしかして、俺の役目はエンジンみたいなもので、イオリが一人で動かすことを想定してた?


 調子乗って動かしてたけど、言う通りに何も考えていない方が、実は楽に勝てたってことかよ。いやいや、いきなりロボットに乗ってイメージするなって無茶振りだろ。


「思い当たる節があるみたいだね。まあこれから動かしてみれば分かることさ。さあ、乗り込みな」


 団長はそういうと、自分の機人に向かって行った。

 俺が何か失敗した時のための保険だろう。

 それにしても皆茶色なのに団長だけ赤かよ。

 エースって感じでカッコいいな。


 団長に続いて、俺もKカスタムに乗り込んだ。


 それからの俺は何度もこけた。

 そりゃもう、数えるのも嫌になるくらいこけた。

 初めは笑ってた団長も、終いにゃ苛つき始めたくらい。


 今まで三種の機人を動かしてたから、そっちのイメージが引きずられたみたいだ。

 特にイステル・アルファには長時間搭乗してたからな。

 国が違えば、機人の特徴も違うってことか。

 Kカスタムの方が体型が太くて、ちょっとだけど機動性に差があるように感じる。


 それでも何度も繰り返し練習することで徐々に良くなっていった。

 疲れのせいで、余計な事を考える余裕がなくなったからかもしれない。

 空が赤くなった頃、ようやく普通に歩いたり、走ったりできるようになった。


「ふぅ。こんなんで俺、明日の仕事大丈夫っすかね?」

「剣星、最初の威勢の良さはどうした。護衛の仕事なんて楽勝楽勝。敵なんてめったに会わないからさ」


 団長、それフラグです。やめてください。


 などと思ってたら、格納庫の入口から、じっと見つめる瞳に気づいた。

 やや小柄な女性が、両腕を組んで仁王立ちしている。

 激励に来たわけじゃなさそうだし、むしろ俺の機人を睨みつけている。


 アイツはリンダだっけ?


 明日の任務でチームを組むメンバーだったはず。

 十七歳と若いが二年以上の搭乗経験がある。

 しぶとく生き残ってきたショートカットの女戦士だ。


「だんちょ~、このオジサン本当に連れて行くんですか? 私、面倒見るの嫌なんですけど」


 お、おじさんって、三歳しか違わねーじゃねーか。


「リンダ、後輩の指導も大事な仕事だ」


 そういったのは、副長のカラルドさんだ。

 どうやら彼も俺の恥ずかしい特訓を見ていたらしい。


「はい、副長!」


 リンダは表情を崩して返事する。

 俺に向けるのと全然違うけど、まあ別にいいよ。

 カラルドさんはかっこいいもんな。


 でも俺より年上の二十五歳のおじさんですよ? 

 もちろん口には出さないけど。


 とはいえ。確かにこのままじゃ、部隊のお荷物になる可能性が高いんだよな。

 毎日、剣の修行もやってるけどセンスがないって言われちゃったし。

 何か秘密兵器でもあればいいんだけど。


 戦闘は基本的に接近戦だけだ。

 遠距離からの砲撃戦ってのは、まったくない訳じゃない。

 だけど、装甲を傷つけられないから採用されていない。


 というのも、赤光晶で強化された武器や装甲と、そうでないものの強度差がありすぎるから。弾を打つ瞬間までは硬いけど、当たった時にはそうでもない。手元を離れたら硬さを維持できないんだ。


 これは剣など他の武器にも言えることだ。

 持っている時は硬いけど、落としたら簡単に壊されてしまう。

 だから戦闘中に武器を落とすなんてのは、傭兵としては即失格ものだ。


「あっ」

「どうした、剣星?」

「いえ、なんでもないっす」


 ひでーこと考えてしまった。


 手を離したら硬度が下がるなら、人間を中にいれればいい。

 中に人間を入れた弾丸、人間魚雷てきな兵器なら、いけるんじゃないかと。

 こんなん提案したら正気を疑われるわな。


 俺は翌日の初出撃に備えて早めに眠るために部屋に戻った。

 扉を開けると、レトが改造ヒーローのように勢いを付けて、蹴りを繰り出してきた。


「ケンセーのアンポンタン! 今までどこほっつき歩いてたのよ!」

「それはレトの方だろ! つーか、とりあえず中入れ。それと声が漏れてるぞ」


 なんとかレトをなだめて奥に誘導、話を聞くことにした。


「ここ数日、姿を見せないと思ったらどこに行ってたんだよ」


「そんなことどうでもいいから、私のこと助けなさいよ! 私のこと愛してるなら、どうにかしなさいよ!」


「ちょっと躊躇するようなことを言うんじゃない、俺にできる事ならやるから」


 一体なんだっていうんだ。今まで姿を見せなかったのと関係あるのか?


「とりあえず困っている事と、俺がどうすればいいのかを教えてくれ」


「出た出た。男ってすぐ結論を急ぎたがるのよね。まったく、過程だって大事なことなのよ? そこらへん分かってくれないかなぁ」


「今の俺には理解できないから、できるだけ簡潔に頼む」

「このままだと私が死んじゃうから、新しい体を用意して」



 ……意味わかんねえ。



「つまり、どういうことだよ」

「今の私は幽霊みたいなものなのよ。死にぞこないの蝶々に宿って、赤光晶で姿を変えてるの。でも、この蝶々の寿命がもうすぐ終わって腐り始めるから新しい体が必要。分かった?」


「それは俺がどうにかできることなのか?」

「ケンセー、神様はね、乗り越えられない試練は与えないわ」

「いや、乗り越えるべきなのはレトの方だと思うんだが」

「私達、相棒でしょ? 喧嘩をしたり喧嘩をしたり、出会った頃が懐かしいわ」


「そりゃ、蝶々の成虫にとっては随分昔のことだろうな。寿命的に考えて。んで、俺は死にそうな蝶々を見つけて来ればいいのか?」

「私もそう思って探してたんだけど、見つからなかったのよね」


「仮にだけど、新しい肉体が見つからなかったらどうなる?」

「さっき言ったじゃない。別の時間、別の場所で生まれ変わると思うけど、それは今の私じゃなくて別の私。ケンセーと一緒に過ごした記憶はきっと無くなってしまってる。それってケンセーにとっても悲しい事だと思うの!」


 同意を求めるようなレトの言い方は気に入らないけど、俺が辛い時間を一緒に過ごしてくれた恩がある。それを忘れられるってのは確かに申し訳なさがあるな。


「なんで何も言ってくれないのよ。そうよね、ケンセーにとっては生まれ変わってスタイル抜群になった私の方が重要よね。この変態! ムッツリすけべ!」

「あの、話進めていいっすか? 自分、明日のことで早く寝たいんで」

「どうぞどうぞ」

「考えたんだけど、問題は体が腐ることであって、生きてるかどうかは重要じゃないんじゃないかな。例えば生物じゃなくて金属とかとも融合できる気がするんだけど、そこらへんどうなの?」


「できるわよ?」

「だったらやれよっ!!」

「嫌よ! 私は今の身体が気に入ってるのよ。空を飛べるし、気づかれずにイタズラするのに丁度いいのよ!!」


 阿保かコイツは。


「とりあえず、この粘土で仮の身体は作っておくから、いざとなったら避難してくれ。蝶々も探しておくから、それでいいだろ」

「ぐぬぬ、わかったわ。とりあえず、それで妥協してあげる。でも絶対見つけるのよ、約束だからね!」

「オーケー。ところで、粘土でいいんなら腐った体でも死ぬことはないんじゃないのか?」

「私を何だと思ってるのよ! そんな姿になったら悲しくて死んじゃうに決まってるじゃない!」


 ……さいですか。

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