19説 妖魔退治

 —— 待ち合わせ場所は指定してない、本当に来るかわからないから。もう捨てられたくないから。悲しい思い出は、もういらないから。見知らぬアタしに、いきなり声かけられても、来ないよね普通は…… 。

 でも、おにいちゃんは来てくれる筈…… だってアタシの…… 大事なか………… 。

「おーい、桃華。来たよ、まったく…… ほんとにこの時間に、待ち合わせなんだね」

「本当に来てくれたんだね!おにいちゃん! 待ってたよ、ちょっと遅いけど…… 来てくれて良かった」

 まぁ、どこにいるかわからなくて、探してたら遅れたんだけど、まさか、吹き抜けがある一階ロビーにいるとは思わなかった。窓から入る都市の明かり意外に光源がないため薄暗い。

 待ち合わせ場所、ちゃんと聞いておけば良かったな。


『いや、お前が聞いてないわけではない、桃華が伝えてないだけだ。わざとな』

「もぉー悪魔さんってば性格悪いー、ひょっとして…… ま、さ、か、おにいちゃんに惚れてるの?」

 桃華は体をくねらせながら、イタズラっぽく輝く紫と桃色の眼で僕を見た。多分僕の中にいるゼウルを。


『なっ、何をバカな………… こ、こいつはな我にとってはな、ただの入れ物だ、体だ。フッフフ、感情など、抱いているはずが、ないだろうに』

 ま、まぁその通りではあるけど、入れ物は言い過ぎじゃないかな。相手は魔王だし気持ちはわかるけど。

「へぇー…… そうなんだ、入れ物とか言っちゃう? アタシの前で……………… そんなひっどい悪魔は…… 退治しなくちゃね」

「私の聖紋が反応している。まさか、魔族? 桃華の様子に注意してください! —— 攻撃してきます私たちを」


 桃華の表情が変わる。悪戯っ子のような明るい瞳は、暗く光るギラギラとした攻撃的なものになる。命の取り合いに慣れたような目つきに、まるで何かに狂わされてるよう。

「ほんとのアタシを魅せてあげるよ、…… おにいちゃん達に」

 

 左手のひらから刀が滲み出るように表れた。その日本刀に似た刃は、紫色に淡い光を放っている、鋒はまるで紫三日月のように。桃華はその根元である茎の部分を直接握ると、リョウとの間合いを詰めると、左に振り抜いた、黄色く輝くリョウの右手めがけて。


「リョウっ!避けてください!!」

「—— うっ。でも今回は、うまくできた盾が」

 硬化した右腕が、紫の刀を受け止める。刃先が少し食い込んだが、火花を散らしながらも防御した。

『たいぶ、動けるようになってきたな。良いぞ、さすが我の体だ』

 いつもの冗談に、何か軽口で返そうと思ったが、とてもそんな余裕はない。油断したらいつでも、撫きりにされそうだ。あの刃に。

 桃華の斬撃を何度も受け止める。攻めに転じようとこの手を剣に変えようとも、何度もいなされ、周囲に閃花が散る。


「へぇー、紫月を留めるとは、おにいちゃんも結構やるんだねー!それとも…… 悪魔さんが操ってるの?」

「はぁ……悪いけど—— 今回は僕が動いてるんだよ」

 そう、実際にその通り。ここ最近の戦闘で少しだけど慣れてきたみたいだ。

「リョウ!伏せてください—— 」

 青い光が一閃、目の前を埋め尽くした。屈まなかったら危なかった…… マジで。

 ルナは青い聖なる光を纏わした傘を、桃華めがけて振り抜いた、光の残滓がまだ何もない空間に漂っている。


「……. 今のは危なかったよ、真面で! ルナちょっと本気すぎない? 笑顔!笑顔!」

「私にそんなものは—— 必要ありません。しかし、桃華。やはりこれは罠ですね!」

 より強い青光を纏わせながら、傘を構えた。そして、隣のリョウも右腕の拳を構える。

(この妖刀の目的がはなんだ?何を考えているのだ、何かに操られているのかもな)

「二対一? ちょっと卑怯じゃないの、おにいちゃん?! 」

 


 確かに…… でも今回は、戦わないといけない気がする。上手く言えないけど…… なんか、向き合ってあげたいというか、寂しそうだから。

『お前は、本当にバカだな……仕方ない………… 良いだろう。我の体はお前のものでもあるからな強化と治癒は任せろ、アホを叩き伏せろ』

「あぁ、わかったよ。倒した後に目的を聞けば良いんでしょ、ゼウル」

『わかっているではないか—— いくぞっ、リョウ!』


 輝く右手に力を込める、周りのもの全て集めるイメージで。桃華に一撃でも当てられれば、元に戻せるかもしれない。

「ルナっ—— 桃華の動きを抑えてくれ、僕の攻撃が当てられる状況にして!」

「……なんとか、やってみます。おそらく隙は一瞬ですから—— 見逃さないでくださいね」

 紫の刃と青く光る黒の傘が、ぶつかり合う。桃華の苛烈な攻撃を、ルナは防ぎ続ける。素早く間合いを詰める桃華を、ほぼ同じ速度で躱わしながら、適度に蹴撃を加えている。


「おにいちゃんは、わかるけど本当にルナちゃんは人間なの? ちょっ、強すぎ……. 」

「ふんっ、あなたのような怪異に負ける私ではないですよ! 」

 しかし、あのルナが少し押されかけている、抑えるとはいえ防戦一方の状態。桃華の方は、左手の彩色が明朗になり続ける。


『おそらく妖刀の能力だろう。相手の力を喰らいながら、自らの糧に変えている。だから敵の攻撃の威力を下げながら、自分の出力を上げることができるのだろう』

「それじゃあ、僕とルナの攻撃は通用してないってこと?」

『生半可なものではな。それか反応できないうちにやるか、吸収しきれないほどの質量をぶつけるかだな、だからお前は一撃にかけろ』


 鍔迫り合いを続ける、ルナと桃華。紫と青の光がぶつかり合い、暗闇に光の花が散る。

「…… ねぇルナ、もうやめてもいいんじゃない? 別にあなたが、戦う必要はないんだよ、アタシと。これはアタシとおにいちゃんの問題だから」

「………… 確かに……. あなたとリョウのことに、私は関係ないのかもしれません。ですが—— 私はリョウを守ります…… 守ってみせます、それが私の任務だから」


 紫月の刃がルナの肋骨少し下を掠めた、いや正確にはルナ自身が脇腹に桃華の左手を引き寄せた。咄嗟の出来事に桃華は戸惑う、そこに隙が生じた。

「今ですっ—— リョウ任せましたよ!!」

『いけっ、今だ! 』

 一撃で決める、力が籠った右腕を桃華に対して振り抜く、殆どは吸収されているのがわかる、ただ手応えはある。

「はぁあああっ!! これでっ、終わりだよ、桃華っ! 」

 

 黄彩色の光が散らばった。倒れてる桃華と座り込むルナの方にリョウが駆け寄る。

「ルナ、大丈夫?! 」

『怪我はないか?』

 少し息はあがっているが、ルナは意外と平気そうだ。

「心配してくれて…… ありがとうございます。ですが…… 私は問題……ないですよ」

 大丈夫みたいだ。

「それで…… 桃華の方はどうかな? ちょっとやり過ぎたかな? 」

『心配するな、お前の攻撃など桃華にとってはゲンコツ程度だろう、過信するなよ自分を』

 だったらいいけど…… 気を失ってるだけだね。

「肉体のほうにも脈はあるみたいです、私も確認したいことがあります。起きるまで、少し待ってみましょう」

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