16節 あくまで寝起きで

「おはようございます、リョウ。私はもう起きてますよ」

 耳元でまた囁く。そしてその声で、どうしても目が覚める。だって僕の左耳のすぐそばで呟くから。

「うぅ、今日は…… まだ寝かせて…… ほしいんだけど…… ダメかな?」

「えっ? そ、それは私が決めることはできません。私は貴方の任務に従うので」

 眠ったのはついさっきだ。たぶん、日の出くらいまで高水さんの事務所にいた。流石に眠気と疲れが限界のため家に帰ることにした。結局、妖刀が実際にあることしかわからなかった。…… 僕では。


「ねぇ、まだ午前中だから今日は寝かせて、特に任務とかないでしょ、お昼になったら起きるから」

「ええ、大丈夫だと思います。今日は何もありませんのでゆっくりと休息を取ってください」

 そういえば、今日はゼウルの声が聞こえないけど、どうしたんだろう。なんか考え事かな。


『いや、そうではない。…… 我も眠いのだ。まったくお前の体の状態は我にも影響するのだ。お前が眠い時は、同じなのだ……. 』

 魔族も寝るのかと思ったけど、僕のせいだったのね。疲れるよね、ここ数日動きっぱなしだから。ルナは疲れてなさそう、さすがプロだ。


「ねぇ、そういえばルナってさ毎日どこで寝てるの? この部屋ってベット一つしかないし、結構謎なんだけども」

「私ですか? 私は貴方の隣です。正確にはリョウが眠りについた後に、ベットの空いているところで寝ています」

 なるほど…… へぇ ………… ん? てことは僕が知らないうちに添い寝してるってこと?ちょっ、理解が追いつかない。

「えっ……てことは同じベットで一緒に寝てるってこと? 」

 驚きの事実に声が上ずる。そんなルナとシングルベッドに二人、出会って数日の男女が一緒に寝てたと。なんだが少し恥ずかしいな。

「今度からベット使ってもいいからね。僕、ほら別に床で寝ても大丈夫だからね」

「いえ! それはダメです。私の任務はあなた方のサポートと警護、少しでも離れていると行動に遅れがでます。…… だから今の状態がいい」

 ま、まぁそういうことなら仕方ない…… でも、すごい……. 気になるな……. なんか。


「じゃあ僕とゼウルはもうちょっと寝るから、くつろいでていいよ。………… おやすみ」

 リョウは二度寝をし始める、朝の光を浴びながら。

 この男は……危機感というのがないのか。私の前で寝姿を晒している、出会って数日の人間がすぐ目の前にいるのに。何度か共闘したけれど、その人間は自分を殺しかけたというのに。そして体の中に強力な悪魔がいるというのに。  

何もなかったかのようにすやすやと寝息を立てている。

「………… ふっ、変わった人ですね本当に」

 リョウの寝顔を眺めながら、そっと呟いた。彼は私に無いものを持ってる、特別なものだろう。それが何か彼の横にいればわかるのだろうか、もしそれが理解できれば私も羽ばたけるのかもしれない。

………… それまではリョウを守ろう。彼の側で。

「私も側にいましょう、羽ばたけるようになるまで………… で、では隣、失礼します」

 ルナも眠り始めた、リョウとゼウルの側で。





 ——— アタシは目覚めた。今ここにっ!!

ハっハっハ、やっぱし体は女の子に限るっしょ! 色的にもアタシは女の子の方がお似合いだし。…… さ、て、何をすればいいかな ?

 アタシにも役目があるってわかってるし。ま、でもぉ、先ずはお洒落しないとね! この娘スタイルいいんだけど…… 地味だし。あ、でもこれ制服っていうの…… 気に入った! でもちょっと色付けちゃお。あと、髪染めよー。やってみたいのあるんだよね。絶対アタシに合うと思うの、前の体は適当に拾ったものだし、こっちは気合い入れちゃうぞー。

 あと、腹ペコだからなんか食べよー。流石に悪魔を切って吸い取るのはやだなー、キモいっしょ普通に。なんか、もっとちゃんとした食べ物食べよっと。この体ギリ生きてるっしょ、そっちの方が効率が良さそー。それじゃあ、街に出発!!

 廃ビルに倒れていた、制服姿の少女が立ち上がる。スカートを払いながら起きると、スキップしながら外に出ていく。その目は左右それぞれ紫とピンクに輝く、人間離れしているものだった。






『おい、そろそろ起きろ。我には行きたい場所があるのだ!』

 ゼウルの呼びかけにより、強制的に目を覚まされる。スマホの画面を見るとお昼を過ぎている。

 確かにそろそろ起きた方が良さそうだ。幸い体の疲れは取れたみたいだ。それに、今日は別に予定があるわけじゃ無いしゼウルの行きたいところに行ってあげてもいい。…… 大学は休むけど。


「で、行きたいところってどこ? 魔族とか妖刀とかと戦うの? 」

『いや、今日はそうではない。さっきのことで気づいたのだが、お前たちは紙や端末に情報を記録しておくのだろう』

 さっき、見たファイルやスマホ、タブレットのことを言いたいのだろう。

『おそらくそれらを保管する場所が存在するらしいな、どこか思い当たらないか? 』

「手近なところですと、本屋などがありますね」

 ルナが答えた。なるほど本屋に行きたいわけだね。


『本か、それが良いな。本屋…… お前の経験にはないようだが。ふふふ、だからリョウはバカなのかもな』

 あの…… それ悪口だけど…… 確かに気になったら、すぐスマホで調べてたから本屋さんには行ったことない。…… 知りたいことがあるんだったら、調べればいんじゃない? スマホで。


『まったく…… だからバカなのだな。情報というのは広い視点で見なければならない。わからないことを、わかるようにするだけではなく、いくつもの方向から見聞し、最終的には自分で考えを整理するのものだ』

 なるほど、言ってることはわからなくない。

『それに、お前に我の知りたいことがわかるとは思えないからな』

 ……. 食べ物のこととかじゃないの。


『ま、まあそれもあるが…… とにかく我は今のこの世界のことが、あまりわからない。だから色々なものを見ておきたいのだ。あと…… ついでに何か食べに行きたい』

 まぁ、そんなことだろうと思ったよ。

「良いよ、じゃあ行こうか。少し遅い昼ご飯も食べよう。ルナも来るよね?」

「はい、同行させていただきます」

 よし、じゃあお昼食べたら街の本屋にでも寄るか。

『いや、先に本屋に行きたいぞ! どんな食事があるのかを知っておきたいからな』


………… やっぱり、食べ物のことなのね。



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