15 節 魔族かたなし


“殻” 事件ファイル 014



 この世界には説明のつかないものが、存在する。いくつも、そしてここに挙げる事例もその一つであることを理解してほしい。

—— 妖刀は実在する、現実に。

 妖刀とは一般的に、所有者に呪いや不幸などの悪影響を及ぼしたりするなどの忌み嫌われる所以がある日本刀のことである。有名なものといえば、かの徳川将軍家が恐れた妖刀村正。しかし、それはらの話のほとんどは眉唾。実際のところ刀工の千子村正が、多数作り上げた日本刀のブランド名である。では、本物の妖刀とは……



 高水の部屋で、僕たちは昔のファイルを見返していた。古いタンスの中に入っていたと思われるため、少々埃っぽいため鼻をつく独特の匂いと合わさると咳が出そうになる。


「あ、あのーこれはなんですか? 妖刀ってどういうことなんでしょう…… か」

「こんな時間に来てもらって悪いね。戦いの後なのに…… 」


 先程の廃遊園地での出来事を、ルナと共にスマホで報告すると、高水に事務所へ来るように言われた。どうやら、見せたい物があるのだという。

 正直いうと帰りたかった、もう真夜中だし。

眠かった、すごい眠い。高水さんが用意してくれた帰りのタクシーの中では、少しも眠れてない。慣れていないため戦闘の前後は、高揚してしまい武者震いが止まらず、膝もまだ少し震えてる。

 僕自身がそんな状態だ。だから、早く帰って休みたかった。しかし…… 。


『いやダメだ、あの男の情報は役立つだろう。だから行かなければならない。休息はその後だ。ただ今は、先に食事だがな』


 そんな感じで押し切られ、結局朝帰りになりそう…… 一方ゼウルは、道中のコンビニで買ったツナマヨおむすびに夢中になっていた。車はようやく都内に入ると、どこかの大きな駅に停まった。

 そこからはルナによる案内で徒歩で移動した。明け方特有の治安の悪さをかいくぐり、繁華街の中にある四階建ての雑居ビルに入り、三階にある奥の部屋に連れらた。そして、埃を被ったファイルの一冊を渡され、埃を払いながら読んでいる。

 妖刀、高水のタブレッドでその単語をみたことがある。他はなんだったかな?


『ほうほう、でこの妖刀とやらがあの下級魔族の死体と、どう関係があるというのだ? 我の時間を無駄にさせたのでは、ないだろうな』

「まずは、任務お疲れ様。統括局ゼウル、双川君、両名の時間を無駄にするつもりはないから安心して欲しい」

 自分で行くって言ったのに…… はぁ、気まぐれだなホントに。


『むぅ………… ま、まぁ良い。それで、どうなんだ高水よ。あとゼウルと呼べ、なんか役職を言われるとしっくりこないな』

「では、説明しよう。今後の俺たちに関わることだから双川君、羽宮、二人にも聞いてもらいたい」

 うなずきながら、高水さんの方を見ると目が合った。


「了解しました」

「よし、まずは資料の通り妖刀というのは実在する。しかもここ二十年ほどの間にだ。そして今回の件についても妖刀が関連していると、考えている」

 妖刀? 本当にそんな漫画やアニメみたいなものが実在するのかな。…… 魔族が体の中にいる時点で、そんなことを言う資格はないのかも。


『それで、なぜ妖刀なのだ?何か根拠があるのだろうな?』

「もちろんだ。俺たち”殻”は実際に妖刀をいくつか確認した。その中に今回の件に…… 」

「ちょ、ちょっと待って? 当然みたいに進めてるけど…… 妖刀って実際にはどんなものなんですか?」


 さっきから誰も気に留めないけど、そもそも本物の妖刀がどんなものかわからない。この三人と一体の中では、僕が一番普通に近いからなのかもしれない。

「そ、そうだな……. まずそっからか。えっと妖刀というのは、持った人間に不幸をもたらすイメージが一般的だがこれは間違いだ。本物の妖刀というのは刀自身に自己が宿っている。そして、人間に取り憑きその体を支配するというものだ」

「つまり、刀自体が生きているということです」

 

 意識を持った日本刀が人の中に入り込み、隙あらばその体を乗っ取ろうとする。本当ならば世にも恐ろしい話だ。……………… あれっ?なんか、どこかの誰かさんと似てる気が。

『お、おいリョウ! 道具ごときを我と一緒にするな。バカものめ ………… であれが妖刀の仕業とでも言うのか?』

「ああ。でそいつは今もほとんどが野放しだ。何本かは押収して調査したがな。そして妖刀にはある能力があることが判明した」


 ということは、まだ世の中にたくさんの人喰い妖刀が出回っていて、それが人の形をして歩き回っているかもしれない。また、世界を見る目が変わった。魔族に妖刀すごいね、ホントに。

『つまり、その能力の影響と言いたいのだな。でどんな能力だ?』

「魂の一部を切り取り自らに変換する……簡単に言うと、相手の力を喰らう能力と考えている」

 

 それは、もはや妖刀というより吸血鬼では?おそらく相手の一部を吸い取るということだろう。


「つまり、俺たち以外にも動いてるやつらがいるってことだ。双川君とゼウル君、そして羽宮もこれからは十分に気をつけてほしい」





 ほぼ同時刻


 

 日が昇る前の静まり返る住宅街を一人の女が疾走している。ツインテールの制服姿の彼女は家路につくために急いでいるわけではない、背後を振り返りながら走っている—— 逃げているのだ。すぐ後にその女を追うものがいる。ジャンパーを身につけた男が駆ける女の跡を追っている、手に二本の刀を持ちながら。

 彼女は息を切らしながら隠れた、もう叫ぶことすらできない。おそらく空きビルだろう、蛍光灯がチカチカと点滅を繰り返し灰色の電灯とかしている。手首と肘の間の怪我からは赤黒い液体が流れ出ていた。

 なんで…… こんなことに、どうして上手くいかないの。もうどうしたら良いの。私は……自分で。

 気づくと自らの小ぶりな胸に、二本の刀が刺さっていた。

 …… 少しずつ意識が遠ざかっていく、私はこのまま…… なんでこんな、でもこれで良いのかな?

 月森ハナはそのまま深い闇の中に溶けていった。

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