8節 震えて眠れ、朝はもうないさ


  今日から、僕は恐ろしい魔族達と戦うことになった。自分が、存在し続けるために…… 。なんか、それだと自主的に活動してるみたいだね。そんなことはない。僕はそんなに、バイタリティが高いほうじゃない。自分の中の声に、半ば強引にやらされているからなんだけど…… あぁ、そっちも魔族だった。


『半ば—— 強引ではない! これは、契約だ。お互いにとって、対等な条件の上で合意したことだろう。お前が、我の代わりに魔族を倒す。そして—— 我はそれに力を貸す。目的が達成された暁には、お前の体を返す。どうだ—— これでも強引と言うのか!? 』


「どこも、対等じゃないよね…… ただ働かされてるだけだと思うんだけど! —— 体だって、もともと僕のだからね!! 親から与えられた、物なんだけど。それを—— 勝手に貸りて、終わったら返すって、どういうか…… 」


『…… もう、いちいち気にするな。これだから、精神が脆弱なものは…… 』


「……. わかったよ………… どうせ、断れそうにないからね。…… やるよ、できる限り」


『最初から、そう言えばいいのだ。昨日の時点で、話はついているだろう。断れるとは思ってくれるな! 』


 なるほど…… もうやるしかないようだ。まぁ、少しぐらい協力してやろう。


『ところで、リョウ。…… 食事はまだか? 我はそれを、待っておるのだが……なにか、考えはあるのだな? 』


 忘れてた…… もう、夕方だ。さっきまで魔族を倒してたから、夕飯のことなんて、さっぱり頭になかったし、今日は何も食べてない。それもそのはず。朝から数えると、もう三体も魔族を倒している。一番驚いてるのは、僕自身だからね。

 

 最初に倒した、魔族はそもそも会話すらできないやつ三体だった。僕は魔族というのを、初めてみたけど、確かに恐ろしい風体だった。オスのライオンの大きさを2倍にして、グレーにして、全身が鱗で覆われた姿をイメージするといいだろう。ニ足歩行で襲いかかってくるけれど…… 不思議なことに、少しだけ人間に似ていた。いや、ライオンの方が似てるけど…… でも人間の面影を感じた。


『初めてみた魔族は、我であろう。…… 忘れるなよ、我を。人間の面影を感じた…… 当然だ、あやつらも、もとは人間なのだ』


 ……. けど、行動は人間とは、かけ離れている。同族に対してひどく、憎悪を向けていたように感じる。そのせいか、鋭い爪で何度も、何度も、僕を切り裂こうとしていた。ゼウルが出す指示のおかげで、何とか躱わせたけれど。彼女が、体にかけた身体強化によって、攻撃が掠ったとしても、致命傷は避けられた。

 

 でも、僕の体は……. ボロボロだ。それもそうだ、何度も引っ掻かれ、爪を避けたと思ったら、殴打によって後方に吹き飛ばされた。廃倉庫内の壁を二、三枚貫通するほどだった。何故、攻撃を受け続けているのか、それは僕達の武器は光る右腕だけだからだ。


『それは、仕方ないであろう。我の力は強大だ。あまり、力を使いすぎると、この世界に甚大な被害をもたらしてしまう。それでは、本末転倒だ。—— 最小限に抑えなければならない。身体強化、回復と合わせても五パーセントほどで足りると思うがな。……. 下級魔族相手ではな』


なるほど。だから右腕だけなのか…… それにしても、もっと長さが欲しい。攻撃を当てる難易度が高いんだよね。

 最初のやつなんて、結局は自分では触ることすらできず、途中で交代してゼウルに倒してもらった。二体目に関しては、黄色く光った右手で殴りつけることはできた。…… 頭部が、半分潰れても戦闘をやめなかったため、骨が折れたが。三体目は事前に、ゼウルの作戦を聞いていた。そのため、攻撃を受けつつ、避けながらタイミングを見計らい、右腕を振り落とした。

 一撃で頭部を破壊すると、その魔族達の体は黒い塵になり、消滅した。いかに、今は魔族の危険分子といえど、もと人間だ。あまり、良い気持ちはしなかった。


『通常、人間が下級の魔族に憑依されると、その人格と魂は消滅する。本来は許可なく人間に憑依してはならないのだ。だが、あやつらはそれを犯してしまった。お前は人間たちの仇を取ってやるのだからな。………… だからお前の行動は間違っていないぞ』

  

 気休めだと思う。でも、それでも良かった。少し、励まされた気がしたからだ。勝手に奪っといて、もとの持ち主を消す。それは、許せない最低の行為だ。…… あれ……………… 待って? だとしたら、僕は何で今もいるんだろう? ちょっとゼウル、どうなってるの?!


『それは、本当に我にもわからぬ。確かに…… 強い自我や意志を持つものは、少し抗うことができると聞いたことがある。だが、こんなふうに会話をできるほどの—— 状態で共存できる。こんなことは初めてだ!? どうなっておるのだ我らは?』


 君が、わからないことを僕が知ってると思う? ともかくそうならば、僕は自我と意思が強いらしい。…… ありえない。弱いよ絶対。宿題とかも今日やろう!! で取り組めた日は一日もないくらいだよ。逃げてばっかりだし、人生。実家からもだけど…… 。


『まぁ、運が良かったのだろう。我のような上位の存在ならば、魂の保管くらいならできるがな』


(しかし、不思議だな…… 。我でも保護できるのは魂のみで、人格や存在は消えるのだが…… 何か理由があるのか、リョウには)


 …… あの、聞こえてますけど心の声。同じ体使ってるからね、わかるんだよ。多分、お互いに。


『な、バカもの…… これでは隠し事もできないではないか! まったく…… こ、この我に恥をかかせるな』


 それはね、お互い様なんだよ。前に僕に、同じようなこと言ってたけどね…… まぁ、良いや。ところで、さっき倒したやつらも、反乱に加担してたの? なんか、会話もできなそうだったし、そんなことできたのかな? 


『確かに、奴らは考えることすらできないな。同じ種族と呼んでいいのか、わからない部類だが、奴らは争いを好む。あの、獣の魔族たちは、群体で行動しているからな、敵になると大きな脅威となる。今倒しておかなければ、夜の間に人を殺害していただろう』


 人を…… やはり、恐ろしいものだ。魔族というのは。ゼウルとは全然違うな。その点ゼウルに憑依された僕は、運が良かった。


『奴らと我とでは、あまりにも差があるからな。誇るが良い。で、当面の目標は森の魔族達の殲滅だ。厄介な能力もないから、楽勝だろ』


「いや、そんなことはないよ。メチャクチャ大変だったからね。猛獣と戦ってるものだよ、アレは。何回、爪で引っ掻かれたとおも…… 」


『おい…… リョウ静かにしろ! 』


「何だよ……急にどうしたの? なんか、あったのか?! 」


『いや、今、お前が我と会話を交わすと、一人で話してるやつに、見えるぞ』


 そういうことね、なるほど、……この魔族、こんな気配りもできるんだね。ありがとう。


(いや、しかしだ。先程から—— あの女に、尾行されてるな。一体何者だ………… だが、まずは)


『リョウ、食事にしよう。そちらが優先だぞ、我にとっては』


…… 全部、聞こえてるからね。呑気だけど。


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