第4話 新世代

 「イヴァン、腕が取れた」私は自分の右腕を持ちながら、イヴァンの作業部屋に入った。

 

 ロボットとして生活してはや一週間経った。

 

 正確にいうと、アンドロイドだが、私にとってはどっちでもいい。イヴァンはその一方、私が自分のことをロボットと称する時は大目に見るが、彼のことをもしアンドロイドと称しないと気が済まないのだ。

 

 彼の言うには、魔法使いが私を定義するように、アンドロイドこそ彼が自分に対する的確な認識だ。

 

 まあ、それを置いといて、とにかく、イヴァンがロボットにマスターすることを要求するのは確かにそれなりの意味がある。ロボットになるのは決してそんなに甘ちょろいことではない。

 

 一番大きな問題は、機械には痛覚がないので、危険な環境にいても自覚しない状況が多いのだ。危険性や自身の状況を把握するには、イヴァンが「生存指南」と呼んで、私が「お母さんの声」と呼んだ環境アラームシステムのことを頼るのだ。

 

 とはいえ、アラームはあくまで警告を出しただけで、実際に私がバカなことをやるのを防ぐことができない。

 

 「またですか?もう四回目ですね。アラームちゃんと聞いています?」

 

 「聞いたけど、ただ『損傷レベル、8、になりました』と言っただけで、よくわからないです」

 

 本当は、よくわかっている。

 

 なにせ、もう初めてじゃないから。実は、腕だけではなく、頭以外の部分は少なくとも一回は死んだ。

 

 最初は確かに力加減がわからないとか、頭と体を連携する要領が悪いとか、自分の判断力が足りないとかの問題で、悲劇がたびたび起こってしまったが、今は単純に自分ロボットの極限が知りたい。

 

 だから、はい、レベル8とは何かは、よくわかっている。

 

 「10は一番高いレベルだから、8はかなりひどい状態とは思わないですか?」

 

 イヴァンはうるさく『そんな馬鹿なことをすぐやめなさい』とは言わない。そうはいっても、ロボットの寿命に関わるこのアラームシステムもまたオフにしない。

 

 「それおかしいじゃん。だって、8だけで腕が取れるのなら、10になるとどうなるの?」

 

 「10になるということは、腕がもう存在しないに等しい状況です」

 

 「じゃ——」

 

 「諦めてください。どうすれば10になれるかは教えないから」

 

 「チッ、残念」

 

 「で、今回は何をしました?」

 

 「いや、裏のその森でね、大きい岩があるから、自分より大きい岩を持ち上げたらカッコイイなあと思って、試して右腕でやったら……片手はやはりきついですね、ハハハハハ」自分から言うと、確かに無意味でバカな行動だった。

 

 好奇心はネコを殺すというのはまさにこういうことなのだろう。


 でも幸い、私はネコでも人間でもない。それに、私にはイヴァンがいる。

 

 「元気で何よりですね——」イヴァンは嫌味を言うのが大好きだが、それでも無意味に壊された体のパーツを修理する。私がロボットの生き方を安心してできるのはまさしくイヴァンのおかげだ。

 

 「そういえば、ここに来たことについて何か覚えましたか?」イヴァンは私の右腕にあるいくつかの裂け目を取り繕いながら少し雑談し始めた。

 

 「まだ。その辺の記憶は今でも真っ黒のままだ。どうして?」

 

 「わたしは謎が嫌いです。できれば一刻も早くその真相が知りたいです。というか、ほぼ無関係のわたしでさえかなり気にかけているのに、重体になった張本人は何とも思わないですか?」

 

 「どうせ魔法絡みでしょう」

 

 「ほら、頭がおかしくなったくらいひどい目にされたのに、もっと積極的に真相を掴むべきではないか?」

 

 イヴァンは魔法のことでもタイムスリップのことでも断じて信じない。今でも頭に損傷がある説を手放さない。彼が今考えた可能性の一つは、「テレポート」だ。それを研究している人たちがいるらしい、随分前から実験を行われているそうだ。


 なぜ超能力なら信じられるが、魔法なら信じられないのか、その基準はまったくわからない。

 

 「私は真相より、魔法の回復を最優先にしたいの。魔法を取り戻したら、そのうち思い出せるでしょー」その塗りつぶされた記憶はいかにも作為的だ。魔法の部分だけが私の記憶から消そうとしたから、きっとどこかの魔法使いが意図的にそうしたのに違いない。


 何かしらのことを隠蔽するために。

 

 「それより、私は人のいる場所に行きたい」


 イヴァンの家は都会からちょっと離れた場所にある。大きい西洋式の豪邸で、その後ろに大きな森がある。その近くに他の家や建物がないので、未だに他の人に会ったことがない。

 

 一人で冒険の旅に出るのもいいけど、あいにく今のこのボロ体はパワーがすごく消費されやすいので、遠い場所にはいけない。だからこうやってイヴァンに聞いたのだ。

 

 「気分転換に友達を作るのは確かにいいアイデアですね」

 

 「気分転換じゃ気分転換なんだけど、私はこっちのこと何も知らないから」

 

 この一週間、イヴァンから31世紀のことをいろいろ聞いたが、いまだに具体的なイメージが掴めなかった。

 

 というより、イヴァンが私の記憶を喚起するために教えたこの時代に関する知識は不思議すぎて、彼の言った世界がもし本当だったら、どのような場所なのかをじっくり見てみたい。

 

 どうやらこの「新世代」では、アンドロイドは人間の代わりに世界の多数に占めた。そして彼らは人間の感情の90パーセントを習得するだけではなく、各自の趣味や人生の目標を持っている。

 

 アンドロイドと人間が平等的に生きている世界について、命の恩人がアンドロイドである私は何の文句もなかった。

 

 私が本気で驚かせたのは、31世紀のあらゆる制度なのだ。国がない、統治者がない、政府がない、戦争がない、武器がない、お金が必要ない、仕事をする必要もない……

 

 古い社会がほとんど崩壊した結果、絶対的な平和と平穏が迎えられた。

 

 そんなことあるわけねぇだろと、21世紀の人々は鼻で笑うだろう。たとえそうであっても、長く続けられるはずがないと反論を出す人もいるだろう。

 

 でも、イヴァンの話によると、このような生活はもう300年ぐらい続けた。今もなお続けている。なので、無事に西暦3000年を迎えた時点で、人々は祝いがてらに今の時代を「新世代」と呼び始めたわけだ。

 

 このような改革が実施したのは300年前というのは、21世紀の私たちは700年ぐらい頑張って生きていたら、この素晴らしい世界が体験できるのだ。

 

 もちろん、私たちというのは、魔法使いのことだ。

 

 魔法使いは結構長生きするのだ。私は正真正銘の20歳だが、周りの先輩たちが200歳とか300歳を超えた人はたくさんいるのだ。知り合いの中に600歳超えの長老級先輩もいる。

 

 一つ魔法使いの豆知識をシェアしてやる。周りにもし美魔女とか美魔男とかいたら、要注意!彼女または彼が魔法使いの可能性は十分あるのだ。

 

 そして、これはまさに私が人のいる場所に行きたいもう一つの目的に繋がっている。


 ——私は31世紀の魔法使いを探しに行きたいのだ!

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