かごめの親子

沙水 亭

かごめかごめ

……かーごめ かーごめ……


……かーごのなーかのとーりーは……


……いーついーつでーやーある……


……よーあーけーの晩にー……


……つーるとかーめがすーべーったー…


………………後ろの正面……


だぁーあれ……




僕の名前は優太ゆうた、母子家庭で育てられたごく普通の男子高校生。


今日は高校の修学旅行……なんて聞こえは良いが旅行先は山奥。


林間学校かと、誰もが思った……


そう『あの親子』が来るまでは………







「私、修学旅行とか久しぶり〜」


クラスのムードメーカー実咲がバスの中で幼馴染のさきと他愛のない話をしていた。


「そうだね、実咲みさきちゃん」


「う〜ん、でもどうせならもっと楽しい場所が良かったなぁ〜」


「でも自然はいいよ?」


「う〜ん、ほら私現代っ子だからさ?遊園地とか行きたいの」


「まぁまぁ、楽しいかもよ?」


「そうだといいなぁ〜」


すると突然バスが止まった。


「どうかしたんですか?」


担任の教師がバスの運転手に話しかけると。


「いえ、道端に動物の死骸が落ちてまして、直ぐに退けますので生徒さんには見せないように出来ますか?」


「わかりました」


教師はバスの中で待機していた生徒たちに外を見ないように注意した。




「それでは発進します」


バスは走り出した。


「ねぇ咲ちゃん」


「何?」


「今外で女の人が居た気がする」


「ええ?やめてよ、私怖いの苦手なんだけど」


「ごめんごめん、見間違いだったから」


「もう」






「……」


僕にもあの女の人が見えた。


実咲には見えたかもしれないけど一瞬だ。


僕はあの女の人と目が合った。


まるで何かを訴えかけるような目だった。


「……気味が悪い」







バスは宿に着いた。


「ようこそおいでくださいました

当旅館の女将、吉江よしえと申します」


女将さんは想像よりも若いみたいだ。


肌に貼りがある。


「この辺りでは様々な野生動物が見られます、ですが手を出してはいけませんよ?」


「……なぜですか?」


僕が当たり前の質問をした。


「危ないのはもちろん、山神様の怒りを買ってしまうからです」


「山神様……」


「文字通り山の神様です、この辺りは山神様のご加護で育てられた作物を頂いております」


女将さんは釘を刺すようにもう一度。


「ですので無闇に手を出してしまえばそれ相応の怒りを買ってしまうのです」


「ありがとうございます」


「いえいえ、後々言っておこうと思っていたので大丈夫ですよ」


山神様……資料にはなかったな。


調べてみるのもアリだな……





「ここが私達の部屋か〜」


まさか咲や実咲と同じ部屋だったとは…


「何か考え事をしてるの?優太」


「いや、別に」


「そう?」


「……実咲話がある」


「ん?何」


僕は実咲を部屋から連れ出しロビーに連れてきた。


「実咲、さっきバスの中で女の人が居たって言っていたよな」


「うん、え、盗み聞き!?」


「それは悪かった、話を戻すぞ

その女の人、僕も見た」


「え!?やめてよ!忘れたかったのに!」


「おい、声…」


「女の人……ですか?」


女将さんに聞かれてたか。


「ええ」


「……どんな姿をしていました?」


「……着物を着ていました」


「え、そうなの?」


「違うのか?」


「いや、私が見たのは顔だけだったの」


「顔だけ?」


直ぐにバスが発進したからなのか?


「なるほど……お二人、こちらへ」


女将さんについていくと、部屋へ案内された。


「この方ですか?」


「「!」」


間違いない……この人だ。


「そう!この人!」


「ええ、僕も同じく」


「この方は約百五十年ほど前に亡くなられました」


百五十年前……明治六年か……


「それもこの辺りで」


「……ではなぜ僕らをここに?」


「実は見える方は珍しくないのです」


「……」


「ただ、お教えしただけですので」


「ありがとうございます」


僕らはロビーに戻ってきた。


しまったな……山神様についてもっと聞いとけばよかった。


「……」


そういえばさっきから実咲が静かだな。


「実咲?」


「……あ!ごめん!」


「大丈夫か?」


「うん!大丈夫!」


……顔色が悪いな。


念のために養護教諭の先生に見てもらうか。





「う〜ん、特に異常はないけど」


この養護教諭の先生は穂香ほのか先生、結構美人の先生で生徒からの人気が高い。


「ありがとうございます」


「顔色は確かに悪いわね……何かあったの?」


「いえ、特には」


「そう、また何かあったら直ぐに来なさい」


「はい」






部屋に戻ると咲ともう一人居た。


「おかえり」


「よ、優太」


「武史」


武史は僕の幼馴染で髪を金に染めている、いわゆるヤンキーというやつだ。


「実咲ちゃん?大丈夫?」


「うん、大丈夫……少し横になるね」


「……優太何かあったのか?」


「…特には」


思い出せば実咲は女の人の写真を見てからというものずっと静かだったな…







それから時間が過ぎていき深夜になった。


しかし実咲はまるで起きなかった。


「実咲ちゃん大丈夫かな」


「ずっと寝てるな」


「武史、実咲を突くのをやめろ」


「悪ぃ……え」


「どうした武史」


「……まさかな」


武史は実咲の布団をめくった。


「ちょっと!武史……君……え」


布団の中には実咲の身体があった、しかしそれと……


「なんで……実咲身体が」


「さっきまでは普通だったよね!?」


実咲の腹がまるで妊婦のように膨れ上がっていた。


「どういうことだ!?」


「訳がわからない!」


「と、とりあえず先生よんでくる!」


咲が慌てて教師を呼びに行った。






「こ、これは」


教員全員が実咲を見て驚いていた。


「と、とりあえず病院に」



どうなってるんだ……病気なのか?


「……優太さん、でしたね?」


「女将さん」


「少しお話が」




「実咲さんを見てどう思いますか?」


「……病気なのかと」


「いえ、あれは病気ではありません」


「じゃあアレは」


「胎児を宿されたのです」


「……どういうことですか」


「お昼にお見せした女性、その方の胎児でございます」


「……冷静ですね、何か知ってるんですか」


「ええ、『何人』も見てきましたから」


「どういう」


「教えてくださいよ、女将さん」


「武史」


武史が後ろから現れた。


「優太、実咲が目を覚ました……と言いに来たんだが、あんたが何かしたんだな?」


「……いえ、私は何もしていません、私は」


「引っかかる言い方をするな、まるで他の誰かがヤッた見たいな言い方をよ」


「……実咲さんは助かりませんよ」


「「は?」」


「このまま行けば……ですが」


「どういうことだ、教えろ」


武史の言葉が段々と強くなってきた。


「『かごめかごめ

籠の中の鳥は

いついつ出やる

夜明けの晩に

鶴と亀と滑った

後ろの正面だあれ?』」


かごめかごめ……小さいころよく聞いた歌だ……


「その歌がなんだ」


「毎度実咲さんの様になられた方が取り憑かれたように歌われるのです」


「……何かあるってか?」


「ええ、私が知っているのはここまでです」


「助かりません、というのはどういう事なのですか?」


「皆さん、崖から落下されて亡くなられてしまうのです」


「「!?」」


「この崖はこの女性が『突き落とされた』崖なのです」


その崖の写真は確かに人が落ちれば即死だ。


「優太、実咲を絶対抑えるぞ」


「その方が良いでしょう、それとこれを」


古い瓶を渡された。


「これは軟膏です、実咲さんのお腹に塗れば動きを抑えられます」


「何でだ?」


「わかりません、ですが無いよりはマシかと」


「ありがとうございます」




ロビーに戻ってきた……すると。


「あぁぁぁぁぁっ!!!!」


実咲の悲鳴が聞こえてきた。


「「実咲!」」


すると実咲は暴れていた、教員に抑えられていたが、向かう先は窓……


「優太!それを塗れ!」


「わかった!」


暴れる実咲のお腹に渡された軟膏を塗ると、徐々に動きが収まった。


「ふぅ……」


「優太、何をしたんだ」


担任の先生が聞いてきた。


僕は素直にこれまでの話を伝えた。


「……ありえない……と言いたいところだが、こうとなると信じる他無いな」


「とりあえず先生は実咲を抑える」


「そうなると修学旅行も中止じゃな」


「校長先生」


校長先生の慶喜よしのぶ先生だ。


「優太、武史、咲は儂の部屋へ」


「「「はい」」」






「ふむ、なるほどのぉ」


「何が起こったのかわかりません……」


「実咲ちゃん……死んじゃうの?」


「させねぇよ」


「ああ、させない」


校長先生は写真の女性を睨みつけていた。


「ふむ……」


「校長先生?」


「おっと…すまんボケておったわ」


「それでなんで俺達を部屋へ?」


「うむ、少し話を聞こうと思ってな、戻っていいぞ」


「なんだよそれ」


僕たちは部屋に戻ってきた。






「え……」


部屋に戻ってきた僕らは言葉を失った。

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