その②

生徒玄関から向かって左にある駐輪場に

向かう彼女。

その上を覆う緑から差し覗く黄金の光が、

地上に降り立った天女の纏う衣の如く

彼女を包んでいた。

木組みのアーチ状の自転車置き場の

下をくぐり抜け、自転車用出入口から校外へと出ると、彼女はえもいわれぬ

開放感を感じた。

そうしてまた、期待感を胸に

一直線に自宅へと進んだ。

彼女の気を惹くものなど他無かった。

車の走行音も、鳥のさえずりも、

彼女のわきを通り過ぎた小学生の群れも、

それには及ばなかった。

ただひとつ、孤高の存在として

例の手紙があった。


彼女の家は、この高校から

徒歩7分程の近場にある。

何故彼女はこの高校を選んだのか。

答えは簡単である。自宅から近く、

通学も短時間で済む。

この近くに、他に高校はなかった。

あるとしても電車で通学を

しなければならなかった。

彼女の頭ならば、

もう少し偏差値の高い高校も

狙うことが出来た。

と言うよりも、入学出来ただろう。

しかし、この高校に行けば

通学にも時間がかからない。

自分に使う時間が多く取れる。

そんな単純な理由ではあったが、

彼女はこの自分の通う高校に誇りを持っていた。

長く続くこの高校の歴史ある校舎。

樹齢は幾年だろうか。予想もつかない程に

太い幹を持つ木々。

あくまで自然に徹するが為に

わざわざ木材を組んで造られた

駐輪場など、彼女はこの環境に

充実感を感じていた。

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