「キモすぎて無理」と好きな子に振られ、学校でいじめられていたデブ眼鏡陰キャの俺。海外に引っ越して三年ぶりに帰ってきたら…あれ?ジャパンの女の子めっちゃチョロくない?

本町かまくら

本編



「キモすぎて無理」


 そう言われたのはボクが小学六年生だった時だった。


 絶望した。


 ずっと好きだった女の子に振られただけでなく、罵詈雑言を浴びせられたのだ。


 メンタル弱者のボクは心がぽっきりと折れた。


 ただ、それだけで終わらなかった。


「おいデブー!」


「身の程知らずのクソ陰キャー!」


「いつもいつもキモイんだよ!」


 小学校という世界は残酷で。


 大した悪意もなくボクは学校中でいじめられた。


 メンタルは折れるどころか粉砕。


 学校に行けなくなった。


 そんなある日。


「智之。海外に行こう。ちょうど転勤でね、アメリカに行くんだ」


 日本に残る選択肢もあった。


 だけど、ボクはこの苦しみから解放されるならなんでもよかった。


「うん、行くよアメリカ」


 そしてボクは、アメリカに渡った。















「トモユキ。お前日本に帰っちまうのか?」


「あぁすまないジョニー。お前とバスケで全米を驚かせる夢はお預けみたいだ」


 俺がそう言うと、空港に集まった二十人のマイメンが悲鳴を上げた。


「嘘だろ……! お前がいないとこの町は味のねぇガムみたいなもんさ!」


「何言ってんだよ。周りを見てみろ」


「な、なんだよ急に」


「お前には……いや、お前らには魂を誓い合ったソウルメイトがいるだろ?」


「トモユキ……うぉおおおおおおおおお!!!!!」


 涙で顔を濡らした屈強な男とナイスバディな女たちが俺を胴上げする。


「お前ら、最高だぁあああぁあああああ!!!!!!!!!!!」


 俺、斎条智之。


 高校進学を機に、日本の帰国。















 飛行機の中。


 機内持ち込みぎりぎりに詰められたギフトを眺めながら、アメリカでの生活を思い返す。


「それにしても、俺アメリカでウケたな……」


 色々振り切って渡ったアメリカ。


 そこで俺は実家が寿司屋だったこともあり、寿司をアメリカ人に振舞っていたらいつの間にか大人気者になっていたのだ。


「寿司ってマジすげぇ。ファンタスティック」


 寿司を皮切りに俺はいろんなバチイケな奴らと出会い、変わっていった。


 友達と一緒にジムに通い。


 休日はクラブ通い。


 オシャレもモデルの友達から教えてもらい。


 友達から誘われて入ったバスケ部では全米三位になり。


 初体験だってすでに済ませた。


 もはや俺に『ジャパン』のかけらも残っておらず、アメリカに染まった。


「さみしいけど、でもやっぱり帰らないと」


 日本では忘れられないあの日々がある。


 別に見返したいわけじゃない。


 ただ、どうしてもあの過去を払拭したいのだ。


『男は負けたままじゃ終われない』


 ミケールがナンパに失敗した夜、言ってたっけ。


「はは、みんな。最高だぜ……」


 涙をぬぐって外を見る。


 みんな、いつか必ず……I’ll be back !















 春。


 桜舞い散る校門をくぐる。


「おぉ。これが桜だっけか! デイビットたちに送ってやんないと!」


 パシャパシャと写真を撮る。


 すると周りからみられていることに気が付いた。


 ……もしかして写真が欲しいのかな?


「そこの君! いい写真が撮れたからエアドロしようか?」


「えっ?! わ、私ですか?!」


「あぁそうだよ! それにしてもやっぱり日本はいいね! 景色が綺麗だ! それに女の子の制服がかわいい! 君、すごく似合ってるね!」


 みるみるうちに顔を真っ赤にさせる女の子。


「し、失礼します~!!!!!!!!」


「うぇええええええええいとぉおおおおおお!!!!!!」


 行ってしまった……。


「早速振られてしまったか……。まぁ気にすることはないさ」


 人には好き嫌いがあるしね!


 さぁ、入学式に行こう!















 入学式が終わった。


 そこから教室に移動し、これから一年スクールライフをともにするフレンズたちとご対面。


 次は自己紹介の時間だ。


「じゃあ最初、誰から言ってもらおうかなー……」


「先生、俺から言ってもいいですか!」


 ピシッと挙手する俺。


「おっ、お前は新入生代表だった斎条だな。よし頼んだ」


「はい!」


 黒板の前に立ち、教室を見渡す。


 ……なぜだろう? 大半の生徒が俺を見て固まっている。


 身長が190あるからかな。


 高一でこの身長はそうそういるもんじゃないか。


 さて、大事な一発目だ。


 元気よくいってみよう!」


「初めまして! 斎条智之と言いますっ! 中学の間はアメリカにいましたが、生まれも育ちも日本です! 仲良くしてください!」


 ――シーン。


 あれ? これが俗にいう、滑ったってやつかな?


 とほほ……早速災難だぜ。


 ――しかし、徐々にざわざわし始めた。


「おいなんだあのイケメン」


「顔ちっちゃ~……。モデルさんかな?」


「ってか俺見たことあるぞ! アメリカのバスケリーグでMVPだったトモユキだ!」


「ジャスティンとも友達だって聞いたぞ!」


 おぉ!


 意外に好印象っぽいぞ!


「質問はあとでしろよー。じゃあ次――」


 なんか楽しくやれそうだ!















 昼休み。


「ハハハ!! 最高だなお前!」


「そんなことねぇよ! お前も最高だっての!」


「ねえ斎条くん! 放課後カラオケ行こうよ!」


「行こうぜ! クラスの親睦会もかねて!」


「いいねー!!!!」


 日本の人はシャイってイメージあったけど、そんなことないじゃん。


 ジャパン最高だ!


「うわ、教室の外見て! すごい人だかりー」


「このクラスに芸能人でもいるのか?」


「芸能人っつーか……お前がいるからじゃね?」


「え?」


 俺を見にこんなに人が?


 嘘だろ?


 小六の時は死ぬほどいじめられてたっていうのに。


「ねぇあれ、斎条くんじゃない?」


「かっこいー!!」


「アメリカ帰りなんだって!」


 どうやらやはり、俺を見に来ているらしい。


 おいおい。


 こんなことになると思ってなかったぜ。


「ケニー。ジャパン最高に楽しいぜ」


 写真送ってやろう。あと寿司も。















「好きです! 付き合ってください!」


「……really?」


 学校が始まって一週間。


 これで三回目の告白になる。


 「キモイすぎて無理」と振られた俺が、告白されるなんて……。


「すっげぇうれしい。……だけどごめん、今誰かと付き合う気はないんだ」


「そ、そうだよね……ごめんね」


「謝らないで。それに別に君が魅力的じゃないって言ってるわけじゃないんだ。むしろすごく魅力的なガールだと思う。これは俺の問題なんだ」


「斎条くん……」


「泣かないで? 女の子は笑ってたほうがいいよ」


「っ!! 斎条くん!!!!!!!」


 別に特別なことをしてるわけじゃないのに、なんでこんなにモテるんだろうか。


 フラれてたのがウソみたいだ。


 女の子と別れて、廊下を歩く。


「斎条くん!」


 と声をかけられたので手を振ると、目をハートにさせて走り去っていく。


 ……なんだこれは。


 日本の女の子、ちょろすぎないか?


「あっ、そこの君!」


「はい? ……って、さ、さ、さ、斎条くん?!」


「髪の毛にゴミついてたよ」


 さっととってニコッと微笑む。


「ひ、ひぃいいいいいいいいい!!!!!!!! かっこいいぃいよぉおぉおおおお!!!!!!!!!」


 絶叫してどこかに走っていく女の子。


 それを聞いた人たちが、俺の周りに集まってきた。


「斎条! 今度バスケしようぜ!」


「サッカー部に来てくれよ!」


「クレープ食べに行こうよー!!」


 あははは、日本ってすごいな。















「ふぅ、やっと一人になれた」


 日直の仕事を片付け終え、教室で一息つく。


 みんなとワイワイするのも好きだけど、やっぱり一人の時間も大切だ。


「そろそろ帰ろうかな」


 バッグを背負って席を立つ。


 すると一人の女子生徒が教室に入ってきた。


「とも、ゆき……」


「君は……あっ、あのときの!」


 名前は思い出せないが、小六のとき俺を「キモすぎて無理」とフった女の子だ。


 随分と大人っぽくなっていたが、面影が残っている。


「久しぶり! お、同じ高校だったんだね!」


「そうだね」


 まさか因縁の子と再会するとは。


「その、なんていうか……かっこよくなったね!」


「ありがとう」


 顔をぽっと赤くさせる女の子。


 昔とはずいぶん違う態度だ。


「今から帰るの?」


「あぁ」


「じゃあ……一緒に帰らない? 家近いんだし!」


「それは……ごめん」


「え? どうして……」


 別にもうこの子に対して怒りはない。


 けど、あの日々を忘れたわけではなかった。


「一人で帰りたいんだ」


「で、でも……ほ、ほら! 昔私に告白してくれたでしょ? 私ったら、そのころは恋愛に興味がなくて……。でも、今はすっごく興味があって……」


 含んだ視線を俺に向けてくる。


 なんとなく何を言いたいのかはわかる。


 でも、答えは決まっていた。


「君を恨んじゃいないよ。随分と昔のことだしね。でも……あの過去は消えないから」


「さ、斎条……」


「だから、ごめんだけど行くよ」


「わ、私っ!」


「これから、同級生として仲よくしよう。じゃ」


「そ、そんな……」


 がくりと崩れ落ちる。


 ガールに冷たくするのは性に合わないけど、これは過去との決別なんだ。


 ごめんよ、好きだった子。


 さよなら、昔の俺……。















 校門を出る。


「はぁ、日本の夕日は目に沁みやがるな」


 日本に来た意味はあった。


 あとは高校生活をエンジョイするだけだ。


「とりあえず帰ったらデイビットたちとスカイ――ぶはっ!!!」


 背中から衝撃を感じる。


 な、なんだ?!


 振り返ってみると、そこには――


「へいトモユキ! 寂しくて会いに来たぜ!」


「お、お前ら……!」


 肩に腕を回してくるケニー。


「何泣いてんだよ。ついこないだ会ったばっかだろ?」


「う、うるせぇよ! これは……あ、汗が染みてるだけだ!」


「ははっ! トモユキらしいな!」


「ケニーこの野郎!」


 マイメンとじゃれあい、一通り再会の喜びを味わった。


「じゃあ、今から寿司屋行くか! 今日は俺のおごりだ! 食えよブラザー!!


 あぁ、人生最高だぜ!!

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