第6話 アイリス・フォウゼル

 水晶で出来た小さい一室。俺の目の前には金色のロングヘアの女の子がいる。割れた水晶の塊から飛び出た彼女が地面に体を打ち付けない様に両肩を持って受け止めたら、今しっかりと目が合ってしまってる。


「「…………」」


 この子は一体なんなんだ。にしても女性に会うのってかなり久々な気がするな。奇麗な子だし……なんか緊張してきた、ってか顔が近いな。


 ずっと触ってるのもなんか変だし取り敢えず離れるか。


 俺は女の子から両手を離す、


「きゃっ」


 彼女はなんと膝まづいてしまった。もしかして立てないのか?


「大丈夫か?」

「……あの」

「なんだ?」

「創造神はどうなさいましたか?」

「創造神ガルアディオの事か?」

「ええ……」

「なんて言えばいいんだろ。ガルアディオが元々いない世界に変えた……いや、ややこしいな。簡単に言うと奴は俺が消し去ったこの世からな」

「本当なのですか!」


 この子、急にテンション上がってきたぞ。にしても育ちが良さそうな感じしてんな。王族とかかな? いや、王族は俺だわ。最近、襲い掛かってくる奴らを倒す事しか頭にないから、ついつい忘れてしまう。


 とりあえず、俺は彼女に返答する事にした。


「本当の事だ」


 と言うと彼女は口を押え目に涙を溜めだした。悲しんでいるのか?


「まずかったか? もしかしてあのガルアディオと仲良かったとか?」


 俺は目の前の女の子が創造神ガルアディオと仲良く手を繋いでスキップしているのを想像した。


「違うんです……私、嬉しくて……貴方様は私を救ってくれたのです!」


 彼女は立ち上がって俺の胸に顔をうずめて泣きだす。俺は気恥ずかしくて両腕を大きく開いてしまった。泣いている姿でさえ艶やかで華があった。というかこの子立つ事が出来たんだな。


「大丈夫か?」

「……ぐすっ……うう」


 何に歓喜してるのかは知らないがとりあえず、どうすればいいんだ、こういう時。思い出せ、俺には妹が居る。こういう時は無駄な事はせず。


 俺は彼女を抱きしめた。


「!」


 彼女は多少、驚いたのか体を強張らせるが直ぐに力を緩める。


「もう大丈夫だ。良く分からないけど、俺が居る」

「…………ありがとうございます」


 しばらくすると彼女は「もう大丈夫です」と言って少し離れる。


 とりあえず、俺達は地べたで座った。俺は胡坐をかき、彼女は女の子座りをした。

 

 女の子は髪を撫でながら顔を赤らめて口を開く。


「も、申し訳ありません。出会った殿方にいきなり、縋りつくなんて」


 彼女は何故か反省してた。ほんと良く分からないけど、そういう日もあるだろ。とりあえず、今ならまともに話が出来そうだ。


「あんたは一体何者だ? このダンジョンで幾人か人に出会ったが敵意を持った亜人か生気を感じない人間しかいなかった……あんたは一応、人だよな」


 俺が一応と言ったのは意味がある。目の前に居る子の魔力が今まで出会った中で一番強いと感じたからだ。恐らく創造神ガルアディオ並み。とんでもない強さだ。


「わたくしは、アイリス・フォウゼルと申します」

「俺の名前は……あれ?」

「え?」

 

 しばらく名前を名乗る事が無かったせいか直ぐに自分の名前が出てこなかった。


「ああ、思い出した。俺はアレクシオ・ディアクロウゼス」


 自分の名前に対して『思い出した』なんて言う日が来るとは思わなかった。


「アレクシオ様ですね」

「ああ」


 と肯定した後、俺は気になる事を尋ねる。


「それはそうと、フォウゼルって姓、財宝王と一緒だな」

「……財宝王、わたくしの父様とうさまですね」

「……財宝王は千年前の人間だぞ」


 と言うとアイリスは目を瞑って考え事をしている様だった。そして、彼女は奇麗な碧眼を見開き、俺の青みかかった黒い目を見る。


「もう、そんなに時が経ってしまわれたのですね。貴方様が来て本当に良かった……」


 アイリスはしみじみと言う。


 千年間ここに居たって事か? 信じられないが嘘を付いている様に見えない。今の俺は相手の感情を読み取る魔眼も発動できるが使うまでもない気がする。決して俺がこの子に心を奪われた事で判断が鈍ったとかではないからな、多分! 


 仮に父親が財宝王レノ・フォウゼルなら母親はもしかして……。


 俺は剣王トレッド・カーの言葉を思い出す。


『聖女殿はレノを追いかけた出て行った』


 財宝王が勇者に罪を着せられてパーティーから追い出されても聖女と呼ばれる人はレノ・フォウゼルを追いかけた。その事を考えれば自ずと答えは出てくる!


「母親はもしかして聖女と呼ばれている人か」

「ええ、ご存知なのですか?」

「いや、聖女に関しての伝承はほとんどない。このダンジョンに居た剣王から聞いた話だ」

「そうですか……」


 アイリスのテンションは少し下がっていた。母親の話があまり伝わってない事に残念がっているのだろうか?


母様かあさまの名前はリゼ・フォウゼルです」

「やっぱ聞いた事ないな……ところで何で水晶の中に居たんだ?」

「それは――――」


 俺達の会話はそこで止まった。何故なら、目の前が見えなくなるほど濃い霧が現れたからだ。しかし、不思議とアイリスの姿は、はっきりと見えた。何が起きたのか分からないが俺達はとりあえず立ち上がった。


 そして、俺達の前方に二体の黒い人影が現れる。これは俺がこのダンジョンに入る前に起きた現象と同じだ! 俺は身構えるが、


「アレクシオ様大丈夫です」

「どういう事だ」

「あれは私の両親なのです」

「両親……? って事は、まさか」


 俺は身構えるのをやめて黒い人影達を見据える。すると、黒い人影達は徐々に人としての姿を現したのであった。

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