クリエイティブゴッド~第一王子は間違えて創造神が眠るダンジョンを十年かけて制覇していた~

ねいん

ダンジョン編

第1話 王家の試練

 俺はアレクシオ・ディアクロウゼス。超帝国バルべディアの帝都デュアルクロスで生まれた。帝王の第一子でもあり、王家の直系で王位継承権一位を与えられていた。人々は俺が次の帝王になる事を切望していた。それが人生で一番最初に感じた理不尽だった。自由に生きれないという不自由。恵まれた環境で生まれたからこそ言える我儘かもしれないが、他者がなんと言おうが俺が不自由だと思った事には変わりない。感情は人それぞれだ。


 十五の誕生日。父上である、この国の帝王カーディズ・ディアクロウゼスに呼ばれて王座の間に向かっている最中だ。兵士達は俺が横を通ると一礼し、通り終わるまで頭を上げない。それは俺には堅苦しくてしょうがない文化だった。


 いつの間にか俺は王座の間の扉を前に立っていた。幼少の頃から良く出入りしていたので緊張感は無かったが呼び出される要件については検討がついている。


 何故なら誕生日という事を考えれば、自ずと正解は出てくるからだ。


 きっとお祝いだ! お祝いをしてくれるに違いない! よく妹や弟に「誕生日? 意識したことないな」とかっこつけてたのは置いといてだ。今は喜ばすにはいられないな!


 俺は勢いよく扉を開けて王座の間に入った。


「いやぁ! 俺なんかの為に集まってくれてありがとう! 実は昨日の夜から浮かれていました!」


 目を瞑り、頭を掻いて、照れながら本音を言ってみた。


 しかし――――何も起きず静寂が訪れた。


「あれ?」


 と疑問に思った。よく周囲を見ると扉から王座まで敷かれている赤い絨毯の横に大勢の人が並んでいた。何列も重なって並んでいる人の中には一般兵や貴族達がいた。


 人々はなぜか静かに感嘆していた。


「浮かれているとは! あの子に恐怖心というものはないのか!」

「勇気ある王子だ!」

「あの王子。いつも短い木剣を振り回して遊んでいるからな」

「書物を読み耽っているとも聞いたぞ」

「素晴らしい知勇兼備の王となるであろう」


 俺は不思議に思った。


 あれ? 誕生日のお祝い……ではないな。馬鹿みたいに称賛されているぞ。


 とりあえず王座に寄って膝まづくとしよう。

 というか誰だよ、書物を読み耽ってるって言った奴、さり気なく嘘付くな。


 王座の両脇には王族が居た。つまり俺の家族だ。


「兄上! ついに来ましたね。王位に就いた暁には私が剣となり盾となりましょう!」

「さすがですわ! 義兄様おにいさま!」


 妹達が何故か意気込んでいる。最初に喋ったのは一歳下の妹シンシア・ディアクロウゼスだ。血が繋がっているので王家の直系でもある第一王女だ。もう一人は血が繋がっていない義理の妹であるエミリ・ディアクロウゼスだ。養女でありながら第ニ王女である、年齢は六歳だ。エミリが養女となった理由は俺が教会の人が経営している孤児院に寄った際、懐かれたのがきっかけだ。長いピンク色の髪と目、そして愛らしい顔が特徴的で父上と亡くなった母上は偉く気に入って娘にしたのである。


「頑張れよ!」

「アレク兄さん! 頑張って下さい!」


 今度は弟達が何故か応援してくれた。この子達とは腹違いの兄弟だ。いわゆる王家の傍系である。最初に応援してくれたのは九歳の第二王子のルミウス・ディアクロウゼスだ。俺とシンシアの前以外では傲慢な態度らしい、以前、弱い者虐めをしている所を叱った事がある。王になってはいけいないタイプだと思う。もう一人は七歳の第三王子クルック・ディアクロウゼス。礼儀正しくてよく勉強をしていると聞く。二人とも母親譲りの茶色の瞳と髪色をしていた。


 俺は王座に座っている父上を見る。威厳がある顔……ではなく威厳のある口髭だなと思った。髪も髭も白く染まっているが堂々たる立ち振る舞いだ。元々の髪色は俺やシンシアと同じ青色だったらしい。ちなみに俺達の眼も父上譲りで青みかかった黒い色をしている。


「良く来た! 第一王子、アレクシオ・ディアクロウゼスよ! そちの意気込み非常に良し!」


 えっ? となった。


 急に改まってどうした。何時も名前を略して『アレク』と呼んでたはずなのに。悲しいことにボケてしまったのか……。


 そんな事より、この局面に置いて大事なのは俺が何故呼ばれたかという事だ。何かやらかしたか? 身に覚えがない。


 良く分からんけど、頼む! 俺が何かやらかした事になってくれ! それで俺の王位継承権を剥奪してくれ!


 父上は口を開く。


「ここに王家の試練の開始を決定する! そちは今すぐ城から出立する準備をし本国が保有するダンジョンの一つ。ここから北に十キロの場所にある試練の洞窟に挑むが良い! 試練の洞窟の魔物を退け、奥にある王家の紋章を手に入れて帰還せよ! 帰還した後にそちを正式な次期帝王とする!」


 周囲の人間は拍手喝采を唖然とした俺に送って来た。


 そう言えば、前々から言ってたな十五になったら試練があるって……マジかよ!勘弁してくれよおおおおおおおおおおお! 受けちまったらもう帝王になっちまうも同然! くそう! 人の気も知らないでお祭り気分になりやがって。


 両手で頭を抱えると周囲の人間は心配しだす。


「アレクお兄さん?」

「兄上! 体調でも悪いのですか!」

「どうしたというのだ王子!」

「あんなに意気込んでいたのに」


 なんか心配して来てるな。とりあえず、こうしとくか。


 両手を突き上げた。そして、


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 行くぞおおおおおおおおおお!」


 と叫ぶと周囲の人達も俺に合わせて


「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」


 と叫び出した。


やれやれと思いながら、仕方なく自室に戻って出立する準備をし始めた。


 なんだかんだ実戦は初めてだから珍しく緊張してしまってる俺がいる。魔物といっても試練の洞窟には殺人鼠キラーマウス殺人蝙蝠キラーバットとかいう鼠と蝙蝠が変異した低級モンスターしかいないらしい。王位に就く人間をわざわざ死地に向かわせる訳ないから当たり前といえば当たり前だ。


 俺は自室にある革鎧レザーアーマーに着替え、長剣ロングソードを装備した。鎧の方は俺好みだがどうも長い剣は好きではない。短剣の方が小回りが利いてて好きだ。


 長剣ロングソードを使わなきゃいけない慣わしだから仕方ないけど、もうちょっと自由があって良いんじゃない? この自由の無さが嫌なんだよな。俺は一体何に縛られて生きているんだろうか。


 珍しく哲学的な事を考えていると城の使用人がドアをノックしてきたようだ。どうやら、出立の時間だ。


 城の外に出ると高級馬車キャリッジが待っていた。馬車の外には馬の手綱を持った従者一人と数人の騎士と共にいる騎士団長カリア・ルーイットが居た。カリアは女性でありながら実力で騎士団の頂点に上り詰めた人物だ。全身に纏っている赤い鎧からは威圧感が感じられた。彼女は俺に対して口を開く。


「アレク殿下……それでは参りましょ……なんだその恰好は」


 彼女は王子、王女の剣術指南役でもある。公式の場では礼儀正しく俺達と接する彼女だが軽装装備の俺を見て思わず礼儀を崩していた。


「これが性に合ってるからいいんだよ」

「はぁ、私のようにもっと重々しい鎧をつけたまえ」

「それ着ていると返り血浴びてるって勘違いされない?」

「そんな勘違いをしたのは、この鎧を着ている私を初めて見た殿下だけだ」


 そう言えばそうだった。兎にも角にも俺は馬車に乗り込んだ。カリア含む騎士達はどうやら馬に乗って馬車の後ろから着いてきて警護をしてくれるらしい。試練は目的地の洞窟から一キロ離れた場所から始まる。そこから単独行動にはなるが俺に追跡魔法をかけて監視するから大丈夫との事である。


「ふぅ……さっさと終わらしてこよ」


 と独り言を呟くと両脇に人が座る。


「そうですね! 義兄様おにいさま!」

「その息です!」


 妹であるエミリとシンシアが居た。なんか居た。


 違うんだよな。終わらしてくるってのは二人が思っているような気合的な意味じゃなくて、面倒くさいって意味なんだよ。俺を絶対に王位に就かせようとしているガチ勢にしか見えない。いや実際、そうなんだろうけど。


 とりあえず疑問に思った事を言う。


「なんで二人は居るんだ?」

「応援ですわ!」

「……シンシアも?」

「はい、応援です!」

「くっ!」


 俺は彼女たちの期待の眼差しが辛くて目頭を抑えた。


 なんていい子なんだ。俺はこの子達の期待を裏切ろうとしていたのか⁉ お兄さん感動した。


 馬車は動き出し、目的地へと向って行った。


 十キロ……いや、九キロ地点で降ろされるから時速四キロで考えたら…………………………何時間後に着くんだ。まぁいいか!


 俺は否応なしに試練の洞窟に向かう事になったのであった。

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